第32話 聖遺物
ユフィ達の入団が決まった日の午後、オレは担当医であるローズさんからの検査を受けに、検査室へ向かって白を基調とした廊下を歩いていた。
「失礼します」
一応断りを入れながら部屋へと入室するとそこには、書類の山――よくわからないグラフや数字の記載された紙と向き合って唸っているローズさんの姿があった。
「あっ、もう来たのねセン君。そこに座って」
入室したオレに気づいたローズさんが、対面の座椅子を指さしたのでそこに座りながら、ローズさんが見ていた書類を覗き見る。
「その書類は何なんですか? なんか大量の資料があるみたいですけど」
脈拍や体温を確認されながら、世間話としてそんなことを聞いてみる。
「ん? あー、この書類? これは、ユフィさん達が持ってきた聖遺物に関する調査結果ね」
そう言ってローズさんが、パラパラと内容を見せてくれる。
表紙には教会にて保管されていた聖遺物の調査結果についてと記載されており、次のページには目次と聖遺物の写真が――。
「えっ?」
聖遺物の写真を見たところで、オレは思わず自分の目を疑う。
いや、天神教会が教会を燃やして人を殺めてでも探していたという時点で、気づくべきだったのかも知れない。
資料に載っていた写真は、一枚の灰色の羽だった。
「これが……ユフィ達が祀っていた聖遺物、なんですか?」
「ええ、そうらしいわよ。実際羽に宿っていた魔力は残滓と呼べる程度のレベルだったけれど、並々ならぬ物を持っているしね」
そう言いながらもテキパキとオレの体から注射器で、血を抜いていく。
「これが何なのかはもう調査は済んでいるんですか?」
やや緊張しながら問いかけると、ローズさんは曖昧に頷いた。
「十中八苦の予想は出来ているわ……アナタやミヨコちゃん、ナナちゃんの証言とも酷似していたしね」
そう言いながらローズさんがもう一つの資料――3人の魔力波長と遺物の類似性についてという資料を見せてくれた。
厚さ1センチにはなろうかという資料の結論部分だけ確認すると、そこには反応の近似性が認められると結論づけられている。
やはりこれは、オレ達に埋め込まれた羽――そのオリジナルと言っても言い物であると改めて理解する。
ゲーム内において天神教は、天使に関する研究を繰り返し行なっていた。
その中で、研究材料を手に入れるために非道な行いをしていたとの記載があったが、その一環としてユフィ達から聖遺物を奪いにきたと見て間違いはないだろう。
「騎士団は、それをどうするつもりなんですか?」
まさか、天神教の様な実験をするとは思っていないが、ソレを所持し続けるのは騎士団にとってリスクしかないはずだ。
「んー、私としては君達の――と言うより、他2人よりも根深く浸透してしまったセン君のソレをどうにかする為の手がかりを得られればと考えているのだけれど」
そう言いながらローズさんは、オレの胸元をトントンと叩いた。
現在のオレの体には、連中から埋め込まれた羽根が魔力回路に溶け込み、根を張っている状態だと聞いている。
同時に、それを取り除くのが困難な状態であるとも……。
「中々、取り除くのは簡単じゃなさそうですけどね」
肩をすくめながら言うと、ローズさんが険しい顔で頷いた。
「確かにそうなのよね。ただ君は、今も全身から絶え間ない苦痛を感じているのよね? アナタが本来の力以上のモノを無理矢理引き出したせいで魔力回路は崩壊し、さらに同程度以上の痛みを伴って再構成されているのだから。それに、あの子たちには黙っていても、日夜あなたが痛みに苦しんでいるのを知って何も知らないふりは出来ないわ」
「…………」
自身の醜態を知られてしまったオレには、もう黙っている事しかできない。
「まぁ何にせよ、アナタ達の体の為にも私が研究を進めておくから、セン君は絶対に体が回復するまでは普通に魔法を使うのも控えなさいね?」
「……わかりました」
その後も暫く体の検査を受け、全ての検査項目が完了したのは昼過ぎになってからの事だった。
◇◇◇
ローズさんからの診断が終わり、食堂までやって来ると、昼時は常に人で混雑しているのだが、時間がずれたせいか既に人の数は随分と減っていた。
「お兄ちゃん、こっちこっち!」
何を食べようかな……そんな事を考えながらメニューを見ていると、背後から聞き慣れた声が耳に入ってきて振り返ると、ナナがブンブン腕を振っており、更に同じテーブルを囲んだミヨコ姉とユフィも軽く手を振っていた。
「3人ともこんな時間にどうして食堂なんかにいるの?」
普段であれば皆食事を終え、各々騎士団の手伝いや、座学の準備などに入っている時間のはずだ。
「どうしてって、弟くんを待ってたに決まってるでしょ?」
「事前にローズさんから、昼頃に検査が終わるって聞いていたから待ってたのよ」
ミヨコ姉とユフィからそう説明を受けた。
「あれ? じゃあまだ3人ともまだお昼食べてないの?」
「ナナもうおなかペコペコだよー」
目の前の丸テーブルに手を伸ばして倒れ込んだナナを見て、思わずみんな笑顔になる。
「待たせてごめん、それじゃあ急いでご飯取りに行こっか」
「ごっはん! ごっはん!」
オレの言葉を聞いて素早くナナが立ち上がると、真っ先に配膳場所へ走っていった。
「食堂で走ると危ないよ、ナナちゃん!」
走っていくナナを慌てて追いかけるミヨコ姉を微笑ましく見送っていると、ユフィが声をかけてきた。
「検査の結果はどうだったの?」
「ん? まぁ特に大きな変化はないかな。しばらくは魔法は使うなってだけ厳しく言われたよ」
肩をすくめて笑いながらそう言うと、ユフィがため息をついた。
「アレだけの大怪我をしていたのに、こんなに早く治るなんてそばで見ていても信じられないわ」
ユフィにそう言われながら、ゆっくりとした足取りで、ナナとミヨコ姉を追いかける。
「まぁ、ちょっと怪我が治りやすい体質してるからね」
「ちょっとって言うレベルは超えてると思うけど?」
薄目を開け、金色の瞳をわずかにオレの方へと向けてきたユフィに、両手を上げて全面降服する。
「ははは……その辺の詳しい話は、また今度説明するよ」
「絶対だからね?」
ややトゲのある声で念を押されたので、頷き返す。
「そう言えばユフィは魔法とか使えるの?」
ふと気になったので、聞いてみる。
ゲーム内のユフィは、光魔法による回復のスペシャリストだった。
育て方によっては、生まれ持った目の特性を生かした棒術による近接戦闘もこなしたが、彼女がいつ頃魔法や棒術を使える様になったのか語られていなかったため気になった。
「一応光魔法を少しなら使えるけど、まだまだ全然ね」
そう言ってユフィが軽く魔法陣を展開すると、白色に輝く光の球を出し、消した。
魔法陣の展開速度は未だ慣れていない事もあってか特段早くはなかったが、属性との親和性が高いせいか、ほとんど魔力消費が無い点は流石としか言えない。
――まぁ、インチキ主人公と一部の人たちを除けばヒロイン達は間違いなく最強格だしなぁ。
団長の様な例外を除けば、彼女らの能力値は群を抜いて優秀だ。
「センは雷魔法が使えるのよね?」
「一応ね。まぁ魔法に関してはミヨコ姉には遠く及ばないけどね」
そう言いながら、ナナと話しながら料理を受け取るミヨコ姉の後ろ姿を見る。
「そうなのね。じゃあ、ナナちゃんも魔法を使えるの?」
満面の笑顔を浮かべて料理を運ぶナナを見て、ユフィの口元も綻んでいた。
「ナナは一応火属性の適正は有るみたいなんだけど……座って勉強するより、体を動かしてる方が好きだからなぁ」
頬をかきながら言うと、ユフィがクスリと笑った。
「ナナちゃんらしいね」
「そうだね。まぁ、皆で色々学んでいこうか」
これからどの様に皆と成長していくのかを考えながら、カウンターへ料理の注文をした。
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