第49話 16.【お雑煮】癒しの天使様はお見合いにお困りです

 翌日、俺は窓から差し込む光で目を覚ました。

 天谷さんの家のベッドは客室でもふかふかの最高級のものだった。

 そのおかげで俺はぐっすりと眠ることができた。

 

「昨日はお正月を満喫した1日だったな」


 体を起こし起き上がる。

 部屋には俺1人だった。

 顔を洗いに行きたいけど、この広い家では迷子になりそうだった。

 

「とりあえず、部屋から出るか。途中で誰かに会うかもしれないしな」


 そう思って、俺は部屋から出た。

 俺が泊まっていた部屋は紫苑さんのお部屋がある右側の方だった。

 こっち側は客室と家族それぞれの部屋があるらしい。なので、当然、天谷さんの部屋もこのいくつもある扉のうちのどこかにあるということだ。


「どこなのかは見当もつかないけどな」


 全部の扉をノックして確かめるわけにもいかず、俺は階段を降りて1階に向かうことにした。


「あら、唯川君。おはよう」

「あ、おはようございます。水穂さん」


 ちょうど、1階に到着したところで、水穂さんとばったり会った。


「ちゃんと寝れたかしら?」

「はい。ばっちり寝れました」

「それはよかったわ。今、紫穂ちゃんがお雑煮を作ってるから、楽しみにしててね〜」

「そうなんですね。それは楽しみです。あの、顔を洗いに行きたいんですけど、洗面所って・・・・・・」

「洗面所ね。ついてらっしゃい」


 水穂さんに案内されて無事に洗面所に着くことができた。


「タオルはそこにあるから好きに使っていいわよ〜」

「ありがとうございます」

「8時になったら、大広間に来てね!大広間の場所は分かるわよね?」

「はい。それは大丈夫です」

「じゃあ、また後でね〜!」

 

 俺は水穂さんに頭を下げて見送ると、顔を洗ってスッキリとした。

 

「さて、8時まで何しようか」


 8時まではまだ残り30分近くあった。

 せっかくなので、来るときに見た、バラ園を見に行くことにした。

 家の外に出てバラ園に行くと紫苑さんがいた。


「おはようございます」

「あぁ、おはよう。唯川君」

「何されてるですか?」

「バラの手入れだよ。ここのバラは私が育てているからね」

「そうなんですね」


 なんの種類かはわからないが、そこには数種類の形の違うバラたちが綺麗に咲いていた。


「綺麗ですね」

「ありがとう」

「生のバラは初めて見ました」

「そうかい。気の済むまで見ていくといいよ」


 そう言って紫苑さんは優しく微笑んだ。


「ところで、唯川君」

「はい」

「唯川君は紫穂と結婚する気はあるのかい?」

「え!?」

「どうなんだい?」


 急に真剣な顔になって紫苑さんがそんなことを聞いてきた。

 結婚か・・・・・・。

 考えたことがないわけではなかった。しかし、俺たちはまだ高校2年生だ。そんな話をするのは早すぎるような気もして、あえて何も言ってこなかった。 

 もちろん、出来ることなら天谷さんと結婚したいとは思ってる。

 

「可能であれば、したいな、とは思ってます・・・・・・」

「そうか。ならいいんだ。また、同じ過ちを繰り返さなくてすむ」

「どういうことですか?」

「紫穂に姉がいることは聞いているかい?」

「はい」

「舞には悪いことをしたと思ってるよ。自分たちの価値観を押し付けすぎた。このことも聞いてるかもしれないけど、舞は3年前に家を出て行ったきり戻ってきてないんだ。今、どこで何をやっているのか・・・・・・」


 天谷さんは再会したことを伝えてないのか。

 

「すまない。朝から辛気臭くなってしまったね」

「いえ、その、もしも、舞さんと会えるとしたら会いたいですか?」

「そりぁあ、会えるなら会いたいさ。舞も私たちにとって大事な娘だからね」

「そう、ですよね」

「あ、そろそろ朝ごはんの時間だ。大広間に向かおうか」

「はい」


 やっぱり会うべきだよな。

 なんとしてでも天谷先生を説得して、家に帰ってもらおうと、俺は決意した。

 紫苑さんと一緒に大広間に向かった。

 大広間に近づくにつれ、甘くていい匂いが漂ってきた。

 大広間の前には玄さんが立っていた。どうやら、俺たちのことを待っていたみたいだ。

 俺たちが来たのを確認すると大広間の扉を開けた。


「あ、紫穂ちゃん、2人が来たわよ〜」

「文秋君、お父さん、おはようございます」

「おはよう」

「おはよう。紫穂さん」


 テーブルの上には鍋とお椀が置いてあった。

 昨日と同じ席にそれぞれが座る。


「文秋君はおもち何個食べますか?」

「2つでいいかな」

「分かりました」


 天谷さんが鍋を開けた。

 中には昨日、天谷さんが作ったおしるこで作られたお雑煮が入っていた。

 天谷さんはその美味しそうなお雑煮をお椀に入れてくれて、手渡してくれた。


「ありがとう」


 4人でいただきますをしてお雑煮を食べ始めた。

 1日寝かせたからか、お雑煮のおしるこは昨日よりも格段に美味しくなっていた。

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