第44話 11.【今年の抱負】癒しの天使様はお見合いにお困りです

 初詣を終えた俺たちは再び天谷家に戻った。

 帰りの車の中でふと思い出したのだが、天谷さんのお見合いはどうなったのだろうか。

 ここまで一切その話が出てないから少し不思議に思っていた。

 だから、小声でそのことを聞いてみた。


「紫穂さん。お見合いの話はどうなったの?」

「文秋君が来てくれることが、決まったのでなくなりましたよ?」

「そうなんだ」

「文秋君が来るのにあるわけないじゃないですか」

「そりゃあそうだな」


 これから、鉢合わせなんてことがあるかもとか思っていたが、ないみたいだ。

 そのことに俺はホッとした。


「家に着いたら、次は書初めです」

「本格的だな」

「私の家のお正月は本格的なのですよ」


 そう言って天谷さんは、くすくすと笑った。


「ということは、他のお正月行事もするのか?」

「しますよ。羽付きに福笑いに凧揚げも」

「本当に本格的だな」

「でしょ?」

「でも、楽しそうだな」


 実家ではお正月にそんなことしなかったからな。

 

「楽しみましょう!」

「そうだな」


 天谷家に到着して、再び大広間に戻った。

 するとすぐに玄さんが書初めの道具を持ってきた。

 4人で並んで書初めを書き始めた。

 

「文秋君はなんて書きますか?」

「こういうのって何を書くんだ?」

「今年の抱負とかですかね」

「今年の抱負か〜」


 何を書こう。

 抱負ね・・・・・・。

 俺はパッとは思いつかなかった。

 チラッと横目に天谷さんのことを見ると、天谷さんはすでに筆を持って書き始めていた。


「紫穂さんはもう決まってるんだな」

「ですね。というか、毎年これを書いてます」

「そうなんだ」


 綺麗な所作で今年の抱負を書く天谷さんの横顔は、思わず見惚れてしまうほど美しかった。

 

「できました」


 天谷さんは筆を置いて顔を上げた。

 そして、自分の書いた抱負を俺に見せてきた。


「私の今年の抱負はこれです」


 そこには、達筆な字で『思いやり』と書かれていた。


「思いやり、か」

「はい。文秋君と付き合うようになって、より一層思いやりが大事だなって思うようになりました。些細なことでも気づいてあげられるようにしっかりと思いやりを持っていろんなことに接していこうかと」

「そっか」

「文秋君はまだ決まってないのですか?」

「う〜ん。いざ、抱負ってなるとな〜」


 今年の目標なんてそんなすぐには思いつかない。

 まぁ、唯一あるとすれば・・・・・・。

 俺は筆を持って書き始めた。


「決まったんですね」

「まぁ、抱負になるかどうか分かんないけどな」

「いいんですよ。なんでも」

「そうだな」


 天谷さんのような達筆な文字は無理だったが、俺にしては綺麗な字で書けたと思う。


「できた」

「え・・・・・・」


 俺の書いた抱負を見て天谷さんは驚いた顔をした。そして、徐々に頬を赤くしていった。


「な、なんですか・・・・・・その抱負」

「ダメか?」

「ダメじゃないですけど・・・・・・恥ずかしい、です」


 俺が書いた今年の抱負は『紫穂さんを幸せにする』だった。

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