第2話 彼氏のフリをすることに・・・・・・
ファミレスを後にした俺たちは電車に乗って駅を一つ移動した。着いた先は、俺がカフェに行くためによく使っている駅だった。
「俺、この駅からいつも電車に乗ってカフェに行ってる」
「私もです。この駅から行くのが1番近くて」
「マジで?今まで1度も会ったことないよな?」
「ないと思いますよ。たぶん、時間が違うので」
「なるほど。てことは、学校はこの近く?」
「そうですね。徒歩10分といったところでしょうか」
徒歩10分ってことは、あの高校かな。
俺はこの辺に住んでいるから土地勘はそれなりにある。どこに何があるのかをだいたいは把握している。
「てっきり、カフェの近くの高校に通ってるのかと思ってた」
「そういえば、あの辺にも高校がありますね。ちなみに、私が通ってるのは『私立式部学園』です」
「マジか・・・・・・めっちゃお嬢様学校じゃん」
『私立式部学園』
そこは、この辺では有名な女子校で、なんでも通っている生徒の大半がお嬢様らしい。
そんなところに通ってるってことは天谷さんもお嬢様なんだろうな。
なんだか、納得だ・・・・・・。
ルックスは言わずもながら、カフェの常連さんたちから『天使様』と呼ばれるほど可愛い。
スタイルも華奢で小柄ながら、出るとこはしっかりと出てる理想的な体つき。
毛先まできちんと手入れされてるサラサラな黒髪が風に靡いて、ふんわりと甘い匂いが漂ってくる。爪先までもきちんと手入れされており、仕草や姿勢もいつも綺麗。
そんな天谷さんが醸し出している雰囲気はまさにお嬢様って感じだった。
「なんで、バイトしてるんだ?」
「やっぱり、それ気になりますか?」
「まぁな・・・・・・」
お金持ちなのにバイトする理由はさすがに気になる。
「それは、恩があるから、ですかね」
「恩・・・・・・」
「はい。あのカフェ、実は私の行きつけだったんです」
「え!?そうなの?」
「はい。中学生の時ですけどね。よくあそこに通ってアイスココアを飲んでました。あのアイスココアは博さんの直伝なんですよ」
「そうだったんだ」
「私がいつもアイスココアばかり頼むから、博さんが作り方を特別に教えてくれたんです」
天谷さんは、その時の様子を思い出したのか、楽しそうに微笑んだ。
ちなみに、博さん、というのはあのカフェの店主の名前だ。
「博さんと同じ味を作れるようになるまで1年もかかりましたけどね」
「凄いな。俺が教えてもらっても、同じ味を作れるようになるとは思えん」
「そんなことないと思いますよ?なんなら、私がお教えしましょうか?」
「いや、やめとくよ」
「そうですか」
どうせなら、天谷さんの作ったアイスココアが飲みたいしな。
天谷さんに、あの男がついてきていることを気にさせないように、そんな雑談をしながら歩くこと15分。
天谷さんが住んでいる高層マンションに到着した。
あの男はここまでついてきていた。てことは、もう家は知られているってことだな。でも、ここならセキュリティーは万全そうだ。
「到着しました。ここです」
「高いな〜」
「20階建てです」
「マジか・・・・・・」
俺が住んでいるマンションの5倍か・・・・・・。
さすが、お金持ち。俺の家もそこそこ裕福だが、天谷家とはどうやら段違いらしい。
天谷さんは改まって、俺の方を向いて頭を下げた。
「唯川さん。ありがとうございました。おかげで無事に家に着きました」
「どういたしまして」
「ところで、唯川さん。本題に入ってもいいですか?」
「え?本題って、一緒に帰るのが本題じゃないのか?」
「違いますよ。まさか、一緒に帰ってくれるとは思ってもいませんでした。でも、一緒に帰ってくれてありがとうございます。助かりました」
「そっか。で、本題って何?」
「唐突ですけど、唯川さんって彼女さんいますか?」
「本当に唐突だな・・・・・・いない、けど・・・・・・」
「あの、本当に嫌だったら断ってもらってもいいんですけど、私の彼氏のフリをしてくれませんか?」
天谷さんは、ほんのりと頬を赤くしてそう言った。
なんだ、そんなことか。
女性経験はないけど、俺は即答で頷いた。
「いいよ」
「え、即答ですか・・・・・・本当にいいんですか?」
「うん。特に断る理由もないしな。それに、何か事情があるんだろう?」
わざわざ、そんなことを頼んでくるってことは、ストーカー以外にも何か事情があるのだろうと思った。もしかしたら、ストーカーがあいつ1人ではない可能性もあるしな。
「なら、お言葉に甘えてもいいですか?」
「もちろん。ていっても、何やればいいのか分かんないけどな。これまでの人生で女性とお付き合いしたことないし」
「それは、私も一緒なので、いろいろと学んでいきましょう。まずは、学校の行き帰り一緒に登下校しませんか?」
一緒に登下校するのは、ストーカーから『癒しの天使』を守るためには絶対に必要事項だな。
「了解」
「ありがとうございます!」
「他にも何かしてほしいことがあったら、言ってくれ、出来る限りのことはするから」
「やっぱり、頼もしいですね」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、あの、お礼を持ってくるので、少し待っててもらえませんか?」
「別にお礼なんて・・・・・・」
「私が渡したいので」
結局、天谷さんに強引に押し切られ、俺はマンションの前で待つことになった。
天谷さんがマンションの中に入っていくと、俺は後ろを振り返った。
「さて、悪者退治といきますか」
俺はゆっくりとこっちを見ていた男の元へと近づいていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます