第34話 と言う事で、一番最初の転送者のご登場です。

 俺の名前は赤義カンナ。異国の民であり、この国【イヴェンタ】に最初に降り立った者だ。


 元は日本って所にいたのだが、そこでの生活や人間関係が嫌になってタイムリープやら異世界転生術?みたいなのを試みた。そしてある日、俺は見知らぬ世界へと転生していた。

 だがそこは思い描いていた高校時代ではなく【アルヴェルデ】と言う異界の地だった。


 その世界で一人のじいさんから刀を貰って裏世界【ジャグナ・ノルベルク】と戦う事を誓った。

 けどその戦いは壮絶なものだった。表世界で七人の仲間を手に入れ、いざ裏世界に行ったと思いきや強い奴がいすぎて三人まで減った。

 悔しかったさ。自分の無力さがな。でもその度に俺は強くなった。元の世界で大切にしていた人をこの手で葬った時も…。

 

 まぁ、そんなこんなでジャグナのボスまで辿り着いた訳だが、どういう訳かそいつが俺の一卵性の双子の弟だったんだ。

 産まれたと同時に死んじまったその魂と元々ジャグナのボスをやっていた奴の魂が交差して結合。そんでそこの世界に飛んで来たって事だった。


 長い時間の死闘を繰り広げた末、俺はソイツ…裏カンナと相撃ちになって死んじまった。そん時の奴の言葉は忘れられなかった。


 『これで気兼ねなく死ねる…ありがとう…兄ちゃん…。』


 辛かったぜ。敵とは言え実の兄弟だったんだからな。で、そっから俺も死んだと思いきや突然真っ暗な空間で目を覚まして、「とうとう死んじまったなぁ」って思ってたら別方向から金髪で透き通った目を持った女が現れた。どうもソイツは死神って言うらしくて、「貴方は選ばれた存在。これからも十分に生き抜き、活躍する価値のある人間よ。」って言われて、更に違う所から【これぞ死神】ってなるような骸骨が出てきた。


 金髪の姉ちゃんが「何か望みのものはあるかしら?」って聞いてきたからこう答えた。



カンナ「とりあえず…今の俺に欲しいものはない。強いて言うならば、俺が守り抜いた世界の人々に最高の幸せと、せめてもの報いをくれてやってくれ。」



 ってな。  

 そう言うと金髪姉ちゃんは優しく微笑んで手に持っていた水晶みたいな丸い石に手を掲げて目を瞑りながら「アルヴェルデの地に、幸があらんことを…。」って言ってた。それが終わったら「情報を調べてみた。とても辛い状況で戦い抜いたのね。それももうお仕舞い。今度は、平和な地に降り立って残った人生を生き抜いて。」って言ってきた。


 その時、俺は元いた日本に行きたいとは言わなかった。一番大切だった人を殺してしまったからな…。戻った所で、辛い現実が待っているだけだったから。

  

 その後で骸骨が何かを唱えていたら足元が光り出して、気付いたらイヴェンタにいた。

 不思議な世界だったけど結構平和な世界だった。人は優しくて人情に溢れてて。

 ここに来てもう約七年になる。平和なこの世界で冒険者として魔獣倒したり緊急クエストクリアして国に貢献して人生を終えようと思っていた。

 

 でも三ヶ月ぐらい前の事だ。ここに魔王と呼ばれる一人の男が現れた。それと同時にミリリアって言う女も出てきた。その女に見覚えのある奴が多いらしく、聞けば何とここに来る前に会った死神だったらしい。

 だが一つの疑問が生じる。俺が会った死神はこんな奴じゃなく、もっと心が浄化された美しい人だったからだ。 

 正直、この女は女神だ等と思えない様なドス黒い心、そして侵略心を持っている様に見える。この期間中、俺は人前に出る事なく女がボロを出すのを見ていた。

 

 その行動が吉と出たのか、一ヶ月ぐらい前から状況が不味くなってきた。敵対心を持つ者、反抗する者に罰が下され、場合によっては死人も出ていた。


 一刻も早くこの状況をどうにかしねぇと…マジでヤバい事になっちまう。このままじゃ、俺までどうにかなりそうだ。

 光神族の末裔、ルークも俺と同じ考えを持っていたらしい。だが最近ルークの姿を見ない。外に出て調査をしていたのを何回か見たけど、今じゃ全く見なくなった。


 この国で力を持っている強者、名のある能力者は半数ぐらいが減った。理由は魔王討伐の依頼を受けたから。全員が討伐に行ったきり帰ってきていない。その現場を誰も知らないからどうなっているのかも解らない。《浮遊》を使って偵察に行った連中も全員が帰ってきていない。真相はてめぇの目で確かめろって事か。

 

 まぁ、もしかしたら生きているのかもしれないしな。それに、その魔王って奴が本当に悪い奴ならば既にここを攻め立てて自分の領土にしてるだろ。

 チラッと聞いた話だが、魔王はとんでもない力を手にしているらしい。だったら尚更、潰しに来ないのがおかしい。


 ミリリアに狂い、魔王に憎悪を抱いた国民はそんな事を考えている余裕が無い程まで精神がぶっ壊れてる。見てて哀れになるレベルにな。

 この国はもうイヴェンタじゃない。別の何かに成り下がってる。

 こうなりゃ、少しの希望に掛けるしかねぇだろ…。


 って事で、前置きは長くなったが魔王がいるって言われている所まで来た。俺も知らなかったぜ。こんな所にこんなにも立派な古城が建ってたなんてな。


 じいさんから貰った刀…【紅蓮嵐】が熱くなっていやがる。こりゃ、何か起きそうな予感だぜ…!!



…………………………………………………………


 

リーナ「いつもありがとうね。」



 リーナさんは俺に礼を言うと共にテラスにお茶を持ってきた。 

 今日も今日とて俺達の領土は平和な日常。特にこれと言ってする事もなくリーナさんとミーニャ、リミナ、俺の四人でお茶を嗜んでいた。

 ん?美柰咲?アイツなら寝てるぜ。珍しく俺の部屋と風呂場の掃除をしてくれたからな(笑)  

 城前の警備員も今日は休暇の日だ。大体一週間に四回ぐらいのペースで任務に就いてもらってる。その方が、疲れも溜まらないし楽しくやれるだろ!(笑)


 後頭部に両手を回して平和な余韻に浸っていた時、城に一人の男が歩いてきた。


 その男は少し長めの黒髪、キリッとした眉にギラギラと光り輝いている様な目、体型は少しゴツく、首には赤いスカーフにも似た大きめの布を巻き、服装はゼータやレイド達の様に鎧を着飾っているのではなく、黒く丈の長いジャケットのウエストから腰辺りにかけて茶色のベルトを巻き、グレーの少しタイトめのジーンズ、膝下までのブーツを履き、腰には赤い鞘に納められた古い刀があった。


 新しい敵襲(住民)か?

 一先ず《能力透視》で覗いてみる。


 【赤義カンナ】Lv.892 HP380/? (異国の民)

《火魔力:25036(上限∞)》《水魔力:150(上限240)》

《風魔力:185(上限250)》《光魔力:540(上限684)》

《闇魔力:22012(上限∞)》

   《未解放特殊潜在能力:?》

《正義の心》《伝説の力》《攻撃強化》

《DFE強化》《龍の護衛》《紅い霹靂》

《究極の見切り》《能力透視》《冷静》

《戦略》《覇気》


 ににににににににに25036と22012?

 ついに俺にも死ぬ時が来たのか…!!


 って違ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁうッ!!


 はぁ!?

 何!?

 何そのステータス!?

 

 鼻水を垂らして顎を外しているとミーニャ、リミナが「カンナ!!」と少し嬉しそうに声を上げた。 

 なななな何だ?知り合いか?

 泣きそうな震え声でリミナに聞いた。するとリミナは笑顔で答える。    



リミナ「カンナはイヴェンタで一番かそれの一つ下に来るぐらいめちゃくちゃ強い人だよ!!カンナが味方になってくれたら百人引きだよ!!」


 

 うん。そりゃあ、あんなクソ強ステータスの人が味方になってくれたら百人引きだわ。

 でも敵になったら?アドメルみたいに単純な奴じゃないと思うから《記憶抹消》なんか使えねぇ…。


 泣きそうだ。どうしよ。

 

 絶望に浸っていると赤義カンナが俺の目を見て目力を強める。次の瞬間、俺は全身から力が抜けてその場に崩れ落ちた。


 何が起こったんだ…!!

 

 もう一度ステータスを覗く。そして一つの能力を見て一瞬で理解した。


《覇気》だ…!!

 

 スゴい…気迫だけで力を奪われた…!!こんなのが敵になったら…!!敵に…なってしまえば…!!


 冷や汗を流し死を覚悟した時、赤義カンナはリーナさんを見て呆気を取られた。そして呂律が回っていない様な状況で口を開いた。



カンナ「あ、貴女は…!!」



 何を言っているのか解らないが、この一瞬で《覇気》の能力の効果が切れ、俺は立つ事が出来た。

 対するリーナさんは紅茶を飲みながら軽く笑い、「こんな所で会うだなんて…久しぶりね…赤義カンナ…。」と口にした。


 赤義カンナは戦意を完全に捨て、リーナさんに話し出した。

 


  

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