第29話 と言う事で、同士との絆、結びました。

 いつもの如くモーニングルーティンを終え、俺は歌いながら城の周りの草刈りをしていた。自分の好きな歌を熱唱するのは楽しいな。服が服だから動きにくいけど、楽しい。



千智「眠りから覚めし機神よ~!漆黒と化したこの地に~!振り裁け~!聖剣を~!白銀の鎧に刻まれた~鋼の魂が燃える~!!」



 因みに、今歌っているのは俺が元いた世界で長年に渡って放送された上、大好きだったロボットアニメ「ネメシス・Z・エターナル」の主題歌である。コレクションしてたフィギュアとかDVDとか、勿体なかったなぁ(笑)ま、しゃあねぇか(笑)

 芝刈りも終盤に差し掛かり、歌っていた曲も最後のフレーズになった。袋に最後の雑草を投げ入れると同時に曲を終わらせる。



『邪悪にZを刻め~!ネメシス神の名に懸けて~!』



 しかし不思議な事が起きた。俺が気持ち良く終わらせると同じタイミングで誰かの声が重なった。


 …誰?ってか、この曲知ってるのって異国の民しかしねぇよな。


 声がした方を見る。そこに居たのはセンター分けのロン毛にバンダナを巻き黒縁のメガネを掛け、いかにも『THE・オタク』と言ったちょいムサめの顔。服装は赤のチェックのシャツを紺色のジーンズにインして着こなしている。イヴェンタにそんな服あるんだな。久々に見たぞ、そんなレトロオタクスタイルの典型的な奴は。


 《能力透視》で見てみるか。



【坂本光信】Lv.79 HP95/120 (異国の民)

《火魔力:102(上限125)》《水魔力:52(上限73)》

《風魔力:44(上限82)》《光魔力:79(上限98)》

《闇魔力:99(上限135)》

   《未解放特殊潜在能力:無し》

《友好》《正義の心》《高知力》《高視力》


 坂本光信…どっかで聞いた事があるような…。思い出そうと難しい顔で見つめる俺に、光信がメガネをクイッと中指で上げながら腕を組み話し出した。



光信「デュフフ…!!小生は坂本光信!!イヴェンタに降り立った主人公ポジの勇者なり!!」


 

 は?その程度の戦力で主人公は草だわ。それより、俺には気になって仕方がない事がある。それは何でコイツがネメシス・Z・エターナルの主題歌を知っているのかだ。


 光信にその理由を聞いた。すると光信はまたしても中指でメガネをクイッと上げ、得意気に笑って口を開いた。



光信「デュフ!!何を隠そう小生のダディは超大天空魔神ネメシス・Z・エターナルの制作スタッフ兼…第一期から現行までの作画担当主任なのだッ!!」



 その時、俺は思い出した。この【坂本光信】と言う男の名を。興奮した俺は考えるよりも先に言葉が出てしまう。



千智「さ、坂本光信って…まさか!!」



 その問い掛けに中指でメガネをクイッと上げ、口元を吊り上げ笑いながら応える。

 


光信「デュハハハ!!そのまさかである!!」



 中指でメガネ上げるのクセかよ…。いやいや、そんな事よりもやっぱこの人…あの伝説のネメエタオタク、【坂本・M・エターナル】…!!


 何でこんな所に?…って、死んだからか。それにしても最高の偶然だ…!!SNSやイベントで頂点に君臨していたあの人に会えるだなんてな…!!  


 感動の余り坂本さんに近付き、自己紹介とSNS上でのハンドルネームであった【ネメシス信者葛城】の名を伝えて握手をしてもらう。ヤバい泣きそうだ…。涙で目が潤む俺にガッチリと握手を交わしながら笑顔で声を掛けてくれる。



光信「いやぁ~!こんな所で同士に会えるとは、それに、ネメシス信者葛城殿は我々の業界でもちょっとした有名人だったのだぞ!!」



 嘘だろ?


 この俺が…?


 この方達の業界で…?


 俺の目に溜まっていた涙が溢れ出てきた。それを見た坂本さんは優しく先程と変わらぬ笑顔で話を続けてくれる。



光信「202X年の年始に葛城殿が投稿してた数量限定版の超合金を片手に主人公の不知火一真のコスプレをしていた写真はとても良かったですぞ!その他も、我々はチェックしていたのでござるよ!!」



 生きてて良かった…!!今まで色々とあったけど、生きてて…良かった…!!こんな感動したこと…今まで無かったぞ…!!


 俺は坂本さんに椅子を用意し、長時間に渡ってネメエタについて語った。そして話し始めて2時間程が経過した時、リーナさんが声に反応したらしくいつもと変わらぬ冷静な態度で様子を見に来た。

 


リーナ「誰?」


 

 リーナさんに上がったままのテンションで坂本さんを紹介する。するとリーナさんは「え?」みたいな顔をして俺に質問した。



リーナ「それ、ミリリアの支配下じゃないの?」



 すっかり忘れていた。ここに来る人は基本的に俺の敵だと言う事を。しかし笑顔の坂本さんの口から飛び出したのは耳を疑う言葉だった。



光信「ミリリア?あぁ!あの邪悪な女でござるか!!あの女が来てからと言うものの、イヴェンタが狂い始めた様な気がしましてなぁ!!で、魔王とやらがどんなものかと思って来てみたのだが、どうやら小生はあの女に騙されていたでござるな!」


 

 何てこった…。この人、すげぇいい人だ…。思い出したぞ、潜在能力にあった《正義の心》を。そう言う事か。相手を見極める為の力だったのか。


 坂本さんは変わらぬ態度で更に話を進める。



光信「それに、葛城殿には邪悪な物は見当たらぬ!それはこの城も、ここら辺一帯の空気も同じである!今のイヴェンタは邪悪と負の塊。しかしこの城に近付くに連れてそのドス黒い空気も無くなった!やっぱり、死神の女神は信用なりませぬなぁ!!デュフフフ!!」



 坂本・M・エターナル…!!なんていい人なんだ…!!笑い方はキモいけど最高にいい人過ぎるぜ!!

 俺の《見切り》も敵だとは判断してねぇ!これは…個人的にだが、すんげぇ仲間を手に入れたぞ…!!


 俺が満面の笑みで感動を実感していると、いきなり剣幕を変えた坂本さんが俺にグーパンチを飛ばしてきた。



光信「我輩の名の元にその命を美しく散らせッ!!」



 飛んできた坂本さんの拳を受け止め、ニヤリと笑いながら横顔で空を見つめ、少し透かした声で応答した。



千智「美しく散るべきは…この無意味な争いと…あんた等ソルニード連邦軍さ…。」



 その反応を見せた瞬間、坂本さんは腰に手を当てながら豪快に笑い、満足気な顔と声を発する。俺もそれに負けないぐらいの反応を見せた。



光信「デュハハハ!!やはりこのネタは知っておったか!!」


千智「もちろんっすよ!!ネメエタ第三期の最終回でエルメスが一真に殴り掛かったあの名シーンっすよね!」


光信「その通りでござるよ!!」



 おっとすまない。テンションが上がり過ぎてついつい作品を無視してしまった。気にしないでくれ。ただのオタクの会話だ!と言っても、今ここにはリーナさんしか居ないけどね(笑)でもリーナさんはドン引き顔で俺達を見てくる。ま、そんな事は馴れてっから気にしねぇな!!


 って事で、今日も今日とて新しい仲間をGET出来たぜ!!


 明日はどんな事が起こるか、皆予想してみてくれ!(笑)


 じゃ、そう言う事で…またなッ!!



【今日の千智のステータスチェック!!】

 


【葛城千智】Lv.270 HP36/∞ (異国の民)

《火魔力:580(上限∞)》《水魔力:154(上限∞)》

《風魔力:142(上限∞)》《光魔力:158(上限∞)》

《闇魔力549(上限∞)》《打撃魔力562(上限∞)》

   《未解放特殊潜在能力:不明》

《解読能力》《浮遊》《能力透視》《演技》

《侵食》《冷静》《戦略》《超見切り》

《ド根性》《覚悟上等》《ホームラン王》

《起死回生》《漢気》《友好》《護衛》

《死神の加護》《超魅力》《超誘惑》《色気》《NTR》《デンジャラスキッカー》《五感鬼神》

《無邪気》《魂の投手》《アイコンタクト》

《調整》《超記憶抹消》《心の潜入》《疑り》

《判断力》《超妄想癖》《イメージング》

《実現化》《残忍》《無慈悲》《冷酷》

《クソオタ》《ネメエタ信者葛城》


うん、もう突っ込まんぞ…。




???「とうとう光信まで帰って来なくなったか…。魔王の討伐に向かった奴等は皆帰ってきていない。たが何故だ…紅蓮嵐の反応が妙だな。こりゃ、俺が直々に向かってみるしかないな…。」



 男は一本の刀を手に持ち、ギラリと光る刃にその顔を写していた。

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