第121話 旅路は常に隘路にて(10月14日)

 阿蘇の火口に至る道にやっとのことで気付くことができたため、仕事の前に立ち寄ることとした。

 十月の半ばというのに異様に暑いことを除けば快適そのものの道程であったのだが、終着地で火口周辺への立ち入り規制があることを知り、苦笑する。

 仕方ないかという乾いた声がやや灰色に覆われた山肌に消えていった。


 これだけ書くとさぞ悔しかったことだろうと指差されそうなものだが、然程に気落ちしていない。

 昔はその地の名物を拝めずに立ち去ることを確かに悔やんだものであるが、そうした経験を重ねていくうちに、これまた旅の醍醐味と楽しむようになった。

 無論、思いの通りに回れることも面白いのであるが、次の機会の楽しみが増える、次に出かける口実ができると能天気に考えてしまっている。

 一期一会という言葉もあるが、全てが思い通りにならぬ以上、これもまた一つの一期一会の形ではないだろうか。


 しかし、万事がこの調子で進むとは限らない。

 帰りの道の駅で地ビールを買い求めようとしてその専用のお店を訪ねたのだが、


「配達中のため、物産館でお買い求めください」


との表示が一つ。

 そこで物産館に回ったのであるが、売り切れて入荷待ちの状況にあるという。

 少々納得のいかぬところがあり、専門店の方が戻ってこられるのを待ったのだが、お答えは同じであった。


 自然と人間が対話することはできないが、我々の間には言語がある。

 ただ一言がないために、私の一日はどこか釈然としないものが残されるものとなった。


【本日の出来事】

◎衆議院解散 総選挙へ

 ほぼ任期満了であることを考えれば、解散という言葉は相応しくないのではないかと思ったのだが、どうやらさほどに関係ないらしい。

 心配していた出社も解消されたため、投票日当日、真摯に用紙に向かい合うとしよう。

 なお本エッセイでは選挙戦の様子を事細かに記すつもりは毛頭ない。

 何かを問うほど高尚な政治信条を持ち合わせず、等しく論議の俎上に乗せられぬ故、当然の判断と考える。

 少なくとも市民の声を代弁してなどという増長著しい文句を用いるつもりはないので、安心していただきたい。

◎阿蘇山小規模噴火

 今日は所感と出来事が一体化してしまっているのだが、やはり阿蘇山は活火山であり、生き物である。

 残念な思いがないと言えば嘘になるが、噴火という事実を知った時には無事に帰ってくることができただけで十分に幸いであった。

 またしばらくは阿蘇を拝むのもお預けになるということなのだが、自然との向き合い方などこれが最も良い。

 花は咲くに任せよ、月は出るに任せよというゆとりを持ちたいものである。

【食日記】

朝:かけ蕎麦小、とり天、半熟卵天

昼:肉そば、おろしそば

夕:牡蠣フライ、油淋鶏、とんかつ、白飯、ウィスキーお湯割り3

他:八女茶、タリーズブラック

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