第110話 稀勢の里サイド(10月3日)

 白鵬関の引退会見を目にしながら、六三連勝で記録を留めた稀勢の里のところで思わずが熱くなり、酒がいやに塩辛く感じた。

 誰が酒に塩を入れたんだという戯言は、虚しく鍋の湯気へと消えていく。

 窓の向こうには月でも出ているかと思ったとき、乾いた笑いと私が愛した力士の姿が静かに浮かんだ。


 正直なところ、これほど早くに白鵬関が引退するとは思っていなかったので準備が整っていない。

 来場所には横綱同士の一番が見られると期待していたほどで、様々な事情をラジオで聴取できなかった自分に嫌気がさしたほどである。

 ともあれ引退自体は事実であり、そうなるとカメラの向こうで明るく話をしている荒磯親方の姿がどうしても目についてしまう。

 致し方なく、私は古傷のような稀勢の里と白鵬の戦いを書くこととした。


 荒磯親方の名前を初めてめにしたのはまだ四股名が「萩原」であった頃であり、琴欧州関と共に番付を駆け上がったというのを今でも昨日のように覚えている。

 ただ、ファンとして強い興味を示すようになったのは、白鵬の六三連勝を止めた時である。

 白鵬にとって印象に残った一番は、一稀勢の里ファンにとっても分岐点となった。

 この一勝の重みは稀勢の里のみによるのではない。

 稀勢の里にとって白鵬という大きな壁があることは、その身を高めるのに欠かせぬものだと気付かされたのである。

 

 その後の対戦成績は必ずしも芳しいものではなかったが、両力士の対戦というのはそれだけで滾るものがあった。

 稀勢の里が負けて嘆くこともあったが、白鵬の強さに舌を巻くのも忘れなかった。

 次第に稀勢の里へと「日本人横綱」への期待が高まっていったが、私はそれには反発した。

 ただただ、稀勢の里の綱を純粋に望んだ。

 だからこそ、稀勢の里へのコールや白鵬を下した際の万歳には怒りというよりも恥ずかしさを覚えた。

 名勝負を汚す観客があってはならない。


 個人的に白鵬が稀勢の里へ向けた言葉として最も強く残っているのは、

「勝つなら勝ってみろ。それで横綱になってみろという感じだった。強い人は大関になる。宿命のある人が横綱になる」

という叱咤の言葉である。

 これを放言と捉えるのは自由である。

 ただ、横綱という地位の重さを最も知る白鵬だからこそ出た一言だったのだろう。


 ただ、両親方の戦いはこれから始まる。

 土俵を降りた二人の活躍がどのようになるか、今から楽しみである。


【本日の出来事】

◎第百回凱旋門賞開催

 日本の馬が云々よりも今回は単勝万馬券が出たそうでそちらを羨ましく眺めている。

 これこそまさに宿命の成せる技、ということか。

◎成田空港反対派 全国集会

 反対意見があるのは仕方ないにせよ、流石に見ていて切なくなってくる。

 少数派の意見を聞くことは大切なことであるが、それを丸呑みにするのはおかしな話である。


【食日記】

朝:ヌク

昼:ナスとベーコンのホイル焼き、ご飯、大蒜味噌、ビール、スパークリングワイン

夕:カップヌードル ポークチャウダー

他:コーヒー

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