第53話 先立つもの無き秋の始まり(8月7日)

 立秋ということで今日から秋となったのであるが、それを祝うかのように日本列島は三つの台風に取り囲まれている。

 季語として登場するにはまだ少しばかり早いのであるが、天象もまた浮かれることがあるということであろう。


 そも「秋」という言葉の定義はまちまちであり、

①天文学上の秋:秋分から冬至までの期間を指す。

②気象学上の秋(北半球):九月から十一月までの期間を指す。

③日本の秋(古代):稲の刈り上げの前夜までの三月ほどを指す。

④日本の秋(季語):立秋から立冬の前日を指す。

と調べただけで頭が痛くなりそうになった。

 私の中での秋はあくまでも文芸寄りのものとため今日から秋となるのだが、それを堂々と言うと不思議そうな顔をされることもある。

 現に私も身体と頭がちぐはぐになるため、しばらくはそれを整えるのに時間がかかることだろう。

 そこで今日は手許にある連句用の歳時記を紐解きながら、初秋の季語を眺めて頭の衣更えを行うこととしたい。


 初秋の季語でまず思い浮かぶのは「七夕」と「盆」である。

 一か月も過ぎているではないかと言われてしまいそうであるが、旧暦では今日が七月の朔日(一日)であり、六日後に七夕を迎える。

 そのため晴天に恵まれやすく、織姫と彦星の逢引も衆人環視の中で行われるということである。

 なお、先立って勘違いしてしまったが、星月夜は「三秋」の季語であった。

 また、盆は「初秋」の季語とあり驚かされたが、旧暦の盆は七月の十三日より十五日に行われたということで、今年は二十日前後で初秋となる。

 ここに終戦忌や震災忌が混ざるというのは何とも象徴的である。

 難しいのは原爆忌で、広島は八月六日、長崎は八月九日であるため夏あるいは秋の季語となる。

 この「盆」と「終戦忌」を用いた俳句に、高校時代の私は素直に打ち負かされた。

 折角なので、ここで引用したい。

 いずれも全国高等学校文芸コンクールの最優秀賞を得ている。

『羊水の ごと揺らぎけり 盆の海』(十九回)

『終戦忌 ダリの時計は またゆがみ』(二十回)

 この生死観と世界観をそれぞれまとめ上げたような一句を、果たして詠める日が来るのだろうかと問うた高校時分の私に、今のところまだであると答えたい。


 この時期の季語として「相撲」があるというのも目を引かされる。

 昔は天覧相撲が旧暦の七月に行われ、そこに諸国の力自慢が集ったという。

 まだ暑さの厳しい折にぶつかった巨躯を、土俵下から見上げた時、その美しさはえも言われぬものであっただろ。

 殿上では見下ろす形となるため、そうもいかぬのであろうが。


 「ホップ」という三文字を見て心が躍るのは呑兵衛ゆえに致し方ない。

 新酒までは二月空くが、この三文字を肴に今宵も酒をいただくとしよう。


 山椒の実が季語となるのもこの時期である。

 熊本ではもう殆ど目にすることが無くなってしまい、ちりめん山椒づくりのための備蓄をし損ねたのであるが、その想いは句作に回すこととしよう。

 我が家のちりめん山椒は山椒の辛味を存分に残し、何とも喉に心地よい。

 来秋はその爽快を味わえるよう気構えておこう。


 蕎麦の花もこの時期の季語であり、いよいよ新そばに向けて心を整える時期となる。

 蕎麦好きとしては豪州産の蕎麦粉を求めるか、昨秋のものを秋の恵みを祈りつついただくかの二択を強いられる時期であるが、その猛る思いも蕎麦の可憐な白い花を見れば自然と凪ぐこととなる。

 そして、八朔の頃に摘み取られた蕎麦を、その年の恵みに感謝しつついただけば師走に向けての活力を得る。

 なに、根っからの蕎麦好きというものはとどのつまり、何事にも楽しみを見いだしてしまうものだ。


 締めには「大根蒔く」と来るのだが、残暑の厳しい中ではや冬支度を始める情景もまた慎ましやかで面白い。

 明けぬ暑さはないという言葉を胸に、もう暫しこの酷暑と対しよう。


【本日の出来事】

◎タイ首都のデモ 強制排除

 タイでは二万人超のコロナウィルス感染者が出ている中で、大規模なデモが行われたようであるが、この判断は難しかったことだろう。

 意志を明確に見せるには集まるより他になく、しかし、同時にそれは疫病の拡大に資する可能性がある。

 それと同時にその可能性が強制排除の正当性を高めかねず、何とも動きづらいものであっただろう。

 それにしても王室費と国防費の削減による疫病対策費の捻出を求めるとは、中々に過激な内容である。

 王室への尊崇の念の低下はこうしたところにも表れているのだろうか、それとも、現国王により王室費が高止まりしているのか。

 いずれ余裕がある時に調べてみたい。

◎タリバン アフガニスタン北部州都を制圧

 下手な地域介入により、内線が激化した典型である。

 世界史を俯瞰して見れば日常茶飯事なのであるが、それを二十一世紀にしてなお目にするとは歴史を学ぶ意味を考えさせられる。

 ただ、一度崩れた均衡が二十年程度で戻らぬことを気付くには十分に資している。


【食日記】

朝:ハンバーガー

昼:ごつもり味噌、梅ひじきおにぎり、から揚げ

夕:とろっと野菜のカレー、蕎麦ぜんざい、日本酒

他:リポD、おーいお茶、タリーズブラック

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