第434話 (幕間)名工ドライゼンの眼鏡
ガルド王の住まうドワーフの集落には、多数の工房が存在する。
一番有名なのは、やはり
質の良い武器や防具などを製作して、世界各地に卸していた。とはいえ流通経路や流通量、職人の数は人間に劣る。また関税などで値段が跳ね上がるため、人間の領域では高額だった。
他にも服飾工房や装飾工房など、多種多様な工房が存在する。
「おい! 手が止まっておるぞ。早く打て!」
「「へいっ!」」
工房を持つことができるのは、腕利きの職人だけだった。
一般的には親方と呼ばれ、弟子を多く抱えている。基本的に各地へ出回る商品は、この弟子たちが製作していた。
それでも種族的な才能を持っているので、質が高いのだ。
「ですが、親方の手も止まっていますよね?」
「ワシの眼鏡に
鍛冶職人で名声が高いドワーフは、この集落に工房を持つ名工ドライゼン。
製作した武具は少ないが、どれも最上級の品質だった。気に入った人物の注文しか受け付けず、人物眼にも定評がある。
「そんなことを言ってると、コルチナさんに怒られますよ?」
「うるさい! 無駄口を
「へっへい!」
弟子の一人を怒鳴ったところで、ドライゼンは仏頂面になった。
服飾師コルチナに肩パッドを作らされ、大損したのを思い出したのだ。酒の飲み比べで負けたツケだが、鉄の料金でプラチナを使わされた。
それと同時に、リリエラという人間を脳裏に浮かべる。
(正直作るつもりはなかったが、えらい喜んでおったのう)
何気にリリエラの武器はドライゼン作である。
肩パッドの件でコルチナにリベンジを挑んだが、あと少しのところで負けた。そのせいで、忍者刀と苦無を作らされる羽目になったのだ。
今回は鉄で勘弁してもらったため、大損はしてない。もちろん手は抜いていないので、鉄武器の中では一級品に該当する。
その完成品を、子供のような
「そう言えば、同じような奴がおったな」
目を細めたドライゼンは、リリエラの面影に似ている人物を思い出す。
とても無邪気な人間の男性で、表裏のない笑顔が印象的だった。似ているのはそれだけで、彼女と違って眼鏡に叶っている。
そして、先ほど怒鳴った弟子に問いかけた。
「だいぶ前に、ミスリル装備を一式作ってやった奴を覚えとるか?」
「話しかけないでくださいよ!」
「うるさい! 手を動かす前に答えろ!」
「さっきと言ってることが……。帝国のSランクの冒険者ですよ」
「名前は?」
「エリルじゃなかったですかね?」
「おおっ! そうじゃったな」
ソル帝国のSランク冒険者チーム「竜王の牙」。
そのリーダーのエリルを思い出したドライゼンは、ニカッと白い歯を見せる。才能あふれる若き戦士で、彼の武具は手入れが行き届いていた。
渡したミスリルの剣も、大事そうに抱えていた光景を思い出す。
「ボケました?」
「うるさい! 無駄口を叩く前に鉄を叩け!」
「そりゃ理不尽ですよ!」
「ふんっ!」
ドライゼンは自分の机に戻って、試作品の武器を眺める。
これもリリエラからの依頼なのだが、とても奇天烈な武器だった。
「鉄扇じゃが……。斬れるようにじゃったな」
護身用や暗器として有名な鉄扇。
その使用法は閉じた状態で、叩く、突く、受けるだ。形状や強度的にも斬ることを想定していないので、なかなか難しい案件だった。
基本的に開いて斬る鉄扇は、創作物の中だけである。
しかし……。
「ミスリルならいけるか? 付与魔法も必要か?」
イービスには、様々な鉱石や魔法が存在する。
それらを駆使すれば可能になるが、製作が難しいことに変わりはない。しかも魔法での付与は、鍛冶職人の領分ではない。
また使い手を見ていないので、ドライゼンの手は止まってしまった。試作品だけは作ったが、どうにもやる気が起きない。
「うーむ。小娘やコルチナには悪いが後回しじゃな」
「すみませーん!」
ここまで考えたところで、工房の外から声が聞こえた。
ドライゼンは来客かと思って弟子たちを見るが、全員が忙しそうにしている。先ほど理不尽と言われたばかりなので、仕方なく自分が対応した。
これでも少しは気にしている。
「何じゃ何じゃ? ここは鍛冶工房じゃぞ!」
工房の外には、六人組の人間がいた。
声を出していた人物は女性で、その後ろから金髪の男性が前に出た。
「遺跡調査隊から紹介状をもらったんだけどよ」
「人間ではないか。紹介状じゃと?」
「駄目なのか?」
「いんや。珍しいと思っただけじゃ」
「とりあえず読んでくれよ」
ドライゼンは金髪の男性から、紹介状を受け取った。
内容としては、大金貨八枚分の武具を製作してほしいと書かれている。ということは、オーダーメイドの依頼だ。
エルフ族からの依頼なので、特に問題はないようだった。
ならばと武具の製作にあたり、質問攻めを開始する。
「お前の分だけか?」
「まさか」
大金貨八枚の内訳は、まず六人で一枚ずつを使うようだ。
余った二枚は、金髪の男性と大柄な男性に回している。
「鍛冶工房に用があるのは誰じゃ?」
「俺とギッシュとアルディスだな」
名前を言われても分からないが、大柄な男性がギッシュで声をかけてきた女性がアルディスだろう。
他の三人を見ると、魔法使いと神官だ。彼らの武具は、鍛冶職人の領分ではなかった。他をあたってもらえば良い。
ドライゼンは知らないが、この一行は勇者候補チームである。
「そいつらは?」
「服を見たいそうだぜ。どっかねぇか?」
「なら……」
服飾工房にも用があるとの話なので、ここはコルチナを紹介した。
貸しにしておけば、無理難題を言われたときに突っぱねられる。
「お前の名前は?」
「シュン・デルヴィ名誉男爵だ」
「エウィ王国の貴族か?」
「そうだぜ。だから、エウィ王国の紋章もよろしくな」
紋章については問題ない。オーダーメイドなので、細工職人と協力して完成させれば良いだろう。
それと貴族には興味がない。どの国の人間かを知りたかっただけだ。
「材料は鉄で構わんのか?」
「今の装備は鋼だよ。ミスリルとかは駄目か?」
「相場を知らんのか。剣だけでも白金貨は必要じゃ」
「高ぇな!」
「鉄と違って希少じゃぞ? 嫌なら他の鍛冶工房に行け!」
ドライゼンは三人の武具を見て
とても払えない金額を提示したのは、体の良い断りの文句だ。
(まったく武具を手入れしておらんな。ボロボロじゃ。こんな奴らに扱われると思うと、武具が可哀そうじゃ。他の親方も同じじゃろうな)
使い込んでいる、とは違う。ボロボロなのだ。
多少は手入れをしているようだが、武具を雑に扱っている証拠だった。鍛冶職人としては看過できない。
確かに使い捨てられる武具は存在する。量産品がそれに当たるとはいえ、オーダーメイドとして製作するのだ。最後まで大切に扱ってもらって、武具の使命を全うしてほしいとドライゼンは思っている。
「いや。他の工房でここを紹介されたんだよ」
ドライゼンの工房は、立地条件が悪い。
集落の入口から遠いため、他の親方に押し付けられたようだ。とはいえ、弟子が一番多いという理由なので嫌がらせではない。
最近は忙しく、次回の討伐隊に渡す武具の量産体制に入っていた。
「なるほど。まぁ鋼ならどこの工房も変わらんな」
「なら頼むぜ」
「いいじゃろう。おいっ!」
「へい!」
ここでドライゼンは、先ほど怒鳴った弟子を呼ぶ。
この弟子は、オーダーメイドの依頼を達成させたことがある。下に何人か付けてやれば問題ないだろう。
そして、依頼内容と予算について伝える。
後は任せれば良いので、一行に背を向けて机に戻ろうとした。すると、ギッシュに止められてしまった。
「ちょっと待てや」
「何じゃ?」
「俺の分は修理でいいか?」
「ワシが決めることではないわい!」
ギッシュの言った内容は、一行の中で決めることだ。しかしながら、かなりボロボロの装備である。
無視しても良いのだが、ドライゼンは彼らの会話に興味が出た。
「おぅホスト、俺の一枚分はてめぇが使っていいぜ」
「ギッシュは作らねぇのか?」
「いやよ。今の武器が使い慣れちまってよぉ」
「くれるなら
「修理なんぞいくらでもねぇだろ?」
「なら使わせてもらうぜ」
ここまで武具をボロボロにしておいて、今更修理したいと言った。もしかしたら、何か事情があるのかもしれない。
そこでドライゼンは、武具を作る三人に詰め寄った。
「ちょっと手のひらを見せてみろ!」
「あん?」
「別にいいぜ」
「ボクもいいわよ」
ドライゼンは三人の手のひらを見て、次に指で押してみる。
最後は深く
「お前はこっちにこい!」
「なっ何だよ?」
「修理じゃろ? いいから来い!」
ドライゼンとギッシュでは、体格にかなり差がある。にもかかわらず、力強く引っ張っていった。
いきなりのことで、シュンとアルディスは
「まっ待てよ!」
「ちょっと!」
「お前らはそいつと打ち合わせじゃ!」
「親方!」
「うるさい! さっさと始めろ!」
「へっへい!」
まさに問答無用だが、ドライゼンは自分の机に戻った。
そして矢継ぎ早に、ギッシュへ問いかける。
「そのグレートソードは使い慣れておるのか?」
「まあな。手に
「だろうな」
ギッシュの手のひらは、シュンと違ってゴツゴツしていた。手にできた豆が何度も潰れており、皮が厚くなっている。
毎日欠かさずに剣を振るっている証拠で、戦士の手と呼べるものだ。
アルディスについては、拳武器なので分からなかった。
「だからよ。修理でいいか?」
「駄目じゃな。その剣はもう持たん」
「何だよ。じゃあ買わねえと駄目か?」
「いや……。ちょっと待っとれ」
「おっおい!」
ドライゼンはギッシュを置いて、工房の奥にある倉庫に向かった。
そして、一振りの剣を持って戻る。彼の持つグレートソードより一回り大きく、刀身が濃い緑色だった。
「持ってみろ!」
「すげえ剣だな!」
「いいから持ってみろ!」
「分かったよ」
ギッシュは剣を受け取った後、持ち上げて首を傾げた。次に自分のグレートソードを持ち上げて、重量を確認している。
その光景を見て、ドライゼンはニヤリと口角を上げた。
「重いか?」
「いや……。持ちにくいが、重さは丁度いいぜ」
「柄を合わせりゃ持ちやすくなるわい!」
「んで? これを買えってことかよ」
「いんや。見せびらかしただけじゃ」
「ふざけてんのか!」
からかわれるのが嫌いなのか、ギッシュは物凄い形相で怒った。しかしながら、ドライゼンは動じずに話を続ける。
まだ先があるのだ。
「欲しいか?」
「要らねえよ!」
「嘘を言うな。ただし、条件があるぞ」
「あん? 条件だぁ?」
「ワシが武具の手入れを教えてやる」
「ああん?」
「それを覚えたら、タダでくれてやるわい!」
「マジか!」
「ワハハハハハッ!」
ドライゼンは大笑いした。
持ってきた一振りは、名工と呼ばれる以前に製作したものだ。思い入れは無いが、倉庫に眠らせておくのも
そこで戦士の手に免じて、ギッシュに渡してしまうほうが良い。ボロボロになってまで修理したいと言ったのは、手入れの仕方を知らないだけだろう。
それさえ覚えれば、きっと大切に使ってくれるはずだ。
「願ってもねぇぜ! 教えてくれ!」
「そんなに難しくないわい!」
「何日ぐらいかかんだ?」
「手入れ自体は半日もありゃいいぞ。ただな……」
手入れの他にも教え込むことがある。
遺跡調査隊のドワーフが鍛冶道具を携帯していたように、知識や心構えを身につけさせるのだ。もしも完璧に覚えられたら、防具の製作も請け負うか。
そんなことを考えたドライゼンは、また工房の奥に向かうのだった。
◇◇◇◇◇
大陸の北に存在する
元々は魔族が統治していた町であり、天仰ぐ都市ソーズヒルと呼ばれていた。ジグロードへの道という大トンネルが存在する場所だ。
砦群は神兵に守護されて、トンネルには何人も通さない結界が張られていた。つい先日には、結界の更新に三人の賢人が訪れている。
その内の一人大賢者ドゥーラを護衛する依頼で、ソル帝国のSランク冒険者チーム「竜王の牙」も同行した。
現在は依頼を完了させて、砂漠の国ハンバーまで出向いている。
(ハンバーまで来たはいいけど……)
砂漠とは、砂と岩石に覆われた地域のことだ。
寒暖差が激しく、昼は炎天下に
そのために水が得られるオアシスだけが、人間の生きられる領域だった。
「店員さん、まだぁ?」
砂漠の国ハンバーの東側にも、オアシスが存在した。
ソル帝国との国境に一番近い場所であり、「竜王の牙」の面々は情報収集を行っている。集合場所は酒場で、赤髪の青年が一人だけテーブルに着いていた。
そして、女性店員が食事を持ってくる。
「待たせたね。デザートスネークの日干しだよ」
「ハンバーに来たら、これを食べないとね」
「冗談がうまいねぇ。ゆっくりしていきなよ」
女性店員が赤髪の青年の肩を叩いて、酒場の奥に戻った。
デザートスネークとは、砂漠に生息する蛇である。砂蛇とも呼ばれ、魔物ではなく食用になる生物だ。
砂地に点在する岩石の下に巣を作り、氷点下の夜に活動する。調理方法は多いが、ハンバーでは干して食べるのが一般的だった。
実のところ、味はよろしくない。
「この苦味がなんとも……」
「エリル!」
赤髪の青年の隣に、酒場へ入ってきた大柄な男性が座った。
エリルと呼ばれたように、この赤髪の青年がSランク冒険者チーム「竜王の牙」のリーダーである。
大柄な男性は仲間の戦士グラドだ。
「グラドも食べる?」
「砂蛇はなぁ。岩石
「よく肉を
「まぁ頼むか。店員さん!」
「はいよ!」
このように不毛な砂漠でも、それなりに食材は確保できる。
それでも全人口を養えるほどではないので、輸入に頼っているのが現状だ。輸入元は、ソル帝国とターラ王国である。
「お待たせ! ロックラビットの肉野菜
「なんか……。野菜が少なくねぇか?」
「勘弁しとくれ。ターラ王国からの輸入量が減ってんのさ」
「あぁ。スタンピードが発生したからか」
「収束したけどねぇ。畑がやられちまったようだよ」
「なら仕方ねぇな」
「悪いね。代わりにエール酒を一杯入れるからさ」
女性店員は、グラドの前にエール酒を置く。
衛生面で安全な水は、オアシスの支配部族が管理している。一日の配給量は決まっているので、商品として販売する人はほとんどいない。
このオアシスを支配するのは、ソル帝国と同様に戦神オービスを信仰する大地の民だ。神殿勢力と協力して、配給水の浄化を行っている。
「スタンピードは大地震で収束したらしいぜ」
「地面が揺れたり割れたりする現象だっけ?」
「体験したことはねぇけどな」
エリルたちは結局、スタンピードの対処には向かわなかった。
Sランクとはいえ冒険者チームが一つ参加しなくても、収束が近いと予想したからだ。結果としては当たったわけだが、その傷跡が察せられた。
現在は魔物の掃討作戦に移行しているらしい。
「んでよ。フレネードの洞窟が崩壊したって聞いたぜ」
「行ってたら巻き込まれたかもね」
「だな。まぁこっちが良かったとも言えねぇけどよ」
「あ、ははっ……」
グラドの言葉に、エリルは乾いた笑みを浮かべる。
そのとき、酒場の扉が開いて二人の女性が入ってきた。
「「ただいま」」
二人の女性も仲間である。
〈妖艶の魔女〉シルマリルと女神アルミナの神官クローソだ。彼女たちも同じテーブルに着いて、それぞれで注文を入れた。
Sランク冒険者チーム「竜王の牙」は、この四人で組まれている。
「どうだった?」
「風竜だったわ」
「しかも最西端のオアシスが全滅よ」
「なら亀裂を渡るのは無理かぁ」
「空の王者よ。さすがにねぇ」
エリルたちは西の未開地を探索するために、砂漠の国ハンバーを訪れたのだ。しかしながら到達するには、深い亀裂を渡る必要があった。
そのための情報収集だったが、亀裂の先に上級竜が巣を作ったらしい。種類を特定するために、今まで聞き込みを行っていた。
結果は風竜で、Sランク冒険者チームでも対処は不可能だ。
「亀裂の下ってさ。どうなってるのかな?」
「さぁ? 文献では誰も戻ってこなかったとあるわ」
「うーん。降下中に魔物に襲われたとか?」
「ほぼ確定でしょうね」
「はぁ……。もぐもぐ」
エリルは
それから空になった皿をどかし、机に
「上級竜って話せるよね?」
「見逃してくれって頼むつもりかよ」
「背に乗せてほしいな、と。グラドは竜に乗りたくない?」
「すっ少しは興味あるが……。なぁシルマリル」
「無理よ。パロパロ様じゃあるまいし、ね」
「でもパロパロ様は人間だよ? ねぇクローソ」
「竜王の盟約者ですよ。エリルとは違います」
「やだっ! 乗りたいっ!」
「「まったく……」」
エリルは子供のように駄々をこねる。
未知を求める真の冒険者をやっているときは、いつもこうだった。とはいえ、嘘偽りのない気持ちを表現しているだけだ。
三人は呆れながらも、その口角は上がっていた。
「ならドライゼン様に作ってもらったミスリルの剣で!」
「バッサバッサと斬るか?」
「無理だよねぇ。じゃあサザーランド魔導国に行こうか」
「「はぁ?」」
話が飛躍したエリルの言葉に、三人は今度こそ本当に呆れた。
現在地は大陸の西にある砂漠の国ハンバーだ。サザーランド魔導国は、大陸の南である。普通に向かっても、三か月以上はかかるだろう。
途中で路銀を確保することも考えると、更に日数は必要かもしれない。
「ちなみに聞くが、何でサザーランド魔導国なんだ?」
「パロパロ様さ!」
「エリル、まさかパロパロ様を連れてくるつもり?」
「当たり! 風竜と話してもらおうよ」
「無理よ!」
「オークニーでは誘われたじゃん。ねぇクローソ」
砦群オークニーでは、パロパロと長時間話し込んだ。
彼女がチーム名に興味を持ったからだが、今までの冒険話に目をキラキラさせていたのが思い出される。
別れ際には、国に立ち寄ることがあれば訪ねてこいと言われた。
「社交辞令ですよ」
「そうかなぁ? かなり本気だったように見えたよ」
「でもパロパロ様は女王だわ。気軽には会えないわよ」
「まぁあっちも行ってみたかったしさ」
「エリルが気になる場所ってあったか?」
「ナナ・タワー」
エリルの口から飛び出したナナ・タワー。
サザーランド魔導国に立つ七十七階の塔だ。未知と言えば未知で、現在までの最高到達地点は五十階である。
そこから先に進めない理由は、上に昇る階段が無いからだった。
いつの時代から存在するかも分かっていない。最初に発見されたのは二百年前で、危険な魔物の領域内に存在していた。
塔は魔法の防護壁が張られているために、内外共に破壊することはできない。また外からの入口は一カ所だけだった。
謎の多い塔だが、竜が領域の魔物を掃討したので、現在は開放されている。ちょっとした観光名所にもなっていた。
そういった塔なので、シルマリルがエリルに問いかける。
「最上階を目指すのかしら?」
「いやあ。まずはどんなもんか見たいじゃん」
「でも遠いわよ?」
「第一の目的はパロパロ様。次にナナ・タワーだ!」
エリルは決定してしまったようだ。
こうなると反対しても無駄なので、三人はサザーランド魔導国行きに賛成する。もちろん、それが楽しいからチームを組んでいるのだ。
「どうせ手詰まりだ。構わねぇぜ」
「ならすぐに出ない? 太陽の光が強すぎて美容に悪いわ」
「明日でいいですか? アルミナ神殿に寄進してきます」
「じゃあ明日出発で、今日はゆっくり休もう!」
行き当たりばったり感が否めないが、これも冒険の内だった。
まずはソル帝国に戻って、エウィ王国に向かうのが良いだろう。以降は船か馬車になるが、ベクトリア公国を目指す。
そして四人は、本格的に食べる料理を選ぶのだった。
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