第二十三章 瓢箪の森と大婆の試練

第319話 ダークエルフの御嬢様1

※第ゼロ話の①キャラ別立ち絵を追加しました。

https://kakuyomu.jp/works/16816452220999346801/episodes/16816927862577193579

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 ソル帝国帝都クリムゾン。帝国領内の中心に位置しており、威厳というものがかもし出されている都市だ。それは整然と区分けされた都市の造りが物語っている。

 皇帝ソルが鎮座する帝城リドニーは帝都の中心地にあり、その周りを大きな区画が取り囲んでいる状態だ。帝都クリムゾンを上から見ると、ちょうど八角形に見えるだろう。これを一つの都市として、帝都と呼んでいた。


「城塞都市ミリエとは違うなあ」

「そうですわね。帝都だけで、一つの世界とも言えますわ」

「その比喩はいいね」

「ふふ。フォルト様の好きそうな言葉を選んでみましたわ」


 フォルトは隣に座るレイナスの肩を抱き寄せた。すでにテンガイは別の馬車へ移っている。アルバハードとの国境から五日の行程だったので、フォルトも馬車へ乗る身内をコロコロと変えていた。

 帝都では宿舎へ泊まる事を了承したが、道中にあった町や村では壁の外でやり過ごしていた。あんな活気のある場所へは入れない。


「帝国のやつらは、みんな笑顔だったな」

「そうですわね。皇帝ソルの治世がいい証拠ですわ」

「まあ、治世がよくても俺みたいなやつらは居るさ」


(ソル帝国かあ。完全なる独裁国家だったな。ならば、俺みたいな社会になじめなかった者は排除したか。嫌な国だな)


 引き籠りの人間嫌い。当然のように社会へなじめない。エウィ王国では、そういう者を見捨てる。そして、ソル帝国では切り捨てると聞いた。

 同じように見えて全然違うのだ。見捨てるという事は相手にしない事。つまり放置だ。切り捨てるという事は遠くへ排除する事である。

 おそらく社会からドロップアウトした者は、遠くの村へ押し込められているか、強制労働をさせられているはずだ。それがソル帝国の治世だと思った。


「うぇぇ。マジ? そんなに怖い国なんだ」

「さあな。あの皇帝からは、そういう雰囲気が漂っていた」

「へへ。ほんと、最悪の世界ね!」


 隣にはアーシャも居る。日本との差に嫌気がさしているようだが、妙に明るい。それが彼女のいいところだが、なぜ明るいか聞いてみた。


「ど、どうした? 言ってる内容のわりには明るいな」

「私には関係がないもーん。フォルトさんが守ってくれるしぃ」

「そ、その通りだ!」

「だからさ。超、他人ごとなんだけど!」

「そうか。俺もそうだけどな」

「だ・か・ら。安心をちょうだい?」

「んんっ! アーシャさん、今はつつしんでください!」


 同じ馬車にはソフィアも居る。カーミラが別の馬車に乗っている。何かがあった時の保険だ。セレスも違う馬車なので、力と頭脳を分けていた。彼女たちの馬車にはベルナティオも居るが、それはフォルトとの力のバランスである。


「ははっ。帝都へ入ったしな」

「ええ。宿舎は貴族街と聞いていますが」


 どの人間の国でも同じだが、貴族の屋敷だけで区分けされた場所がある。それを貴族街という。その貴族街で屋敷を持てるのは伯爵以上の上級貴族と、一部の子爵家である。その子爵家は、代々上級貴族へ仕えているような家柄のよい家だ。


「あまり人通りはないって聞いたな」

「そうですね。屋敷から出る時は馬車でしょうし」

「ある意味、静かな場所って事か」

「はい。城塞都市ミリエの貴族街も同じような感じです」

「ふむふむ。なら、多少はマシだな」


 宿舎は、ある上級貴族の別荘とのことだ。領地を持っている貴族だろう。しかし、執事やメイドなど身の回りの世話ををする者たちは居るようだ。他に別の貴族でも泊まっているのかもしれない。


「メイド……。メイド……」

「フォルトさん! 目がイヤらしいんですけど!」

「家に引き籠ってなければ、メイド喫茶に行ってみたかったからな」

「ふーん。メイド服でも作る?」

「さすがはアーシャ。目の付け所が違う」


 フォルトの興味は身内だけである。メイドと言っても、その人物に興味があるわけではない。メイド服というアバターを着た身内に興味があっただけだ。

 そうなると、ますますコルチナが重要になってくる。リリエラと魔族組が向かっているが、友好を深めてもらいたいものだった。


「フォルト様。見えてきたようですわよ」

「あれか? シュンたちの屋敷より大きいな!」


 レイナスにうながされて前方を見ると、先導しているテンガイたちの馬車が屋敷の敷地へ入っていった。デルヴィ侯爵の屋敷には敵わないが、シュンたちが拠点にしている屋敷より大きい。

 屋敷には広い庭があり、玄関先の前に噴水があった。アニメで登場する豪華な貴族の屋敷だ。馬車は噴水を回り込んで玄関先で止まった。その玄関先では、話に出た執事やメイドが整然と並んでいた。


「フォルト殿、お疲れさまでした」


 馬車から降りたフォルトたちは、先に出ていたテンガイに迎えられた。護衛の帝国兵も馬から降りてテンガイの後ろに居る。


「ここが宿舎か?」

「はい。滞在中は、この屋敷を好きなように御使いください」

「え?」

「執事やメイドも用意してあります」

「そ、それは聞いていたが、宿舎だろ? 他に泊まってるやつらは?」

「居ませんね。フォルト殿たちだけです」

「………………」


 宿舎と聞いていたので、他の貴族でも泊まっているのかと思っていた。しかし、フォルトたちのためだけに用意された宿舎のようだ。


「こんな広い屋敷へ泊まっても」

「はははっ。英気を養っていただければと」

「そ、そうか。仕方がないな」

「出発は一週間後でいかがでしょう?」

「え? すぐに向かいたいのだが」

「なにぶん、私も忙しい身でして」

「俺たちだけで行くぞ」

「もうしわけないですが、ターラ王国までは御一緒します」


 要はフォルトたちの相手はテンガイがするという事だ。これもアルバハードから出る時と同様に、バグバットの顔を立てる必要がある。


(と、とにかくターラ王国へ入るまでの我慢だ。入ってしまえば、文句も言われずに瓢箪ひょうたんの森へ向かえるはずだ。うん? 瓢箪ひょうたんの森か……)


「あぁ、テンガイ君。つかぬ事を聞くが」

「なんでしょうか?」

瓢箪ひょうたんの森から案内人が来ていると思うが」

「はて? 聞いておりませんね」

「あれ?」

瓢箪ひょうたんの森と言うと、エルフかダークエルフですか?」

「うむ。バグバットから会ってほしいと言われている」

「待ち合わせは帝都ですか?」

「そうだ」

「名前は分かりますか?」

「名前……」

「旦那様。レティシアとキャロルです」

「そう、それ」


 セレスが助け船を出してくれた。ダークエルフの族長の孫娘と、その従者だ。会えと言われても場所までは聞いていない。この広い帝都で探すなど面倒臭い。ここは帝国軍師テンガイへ任せるに限る。


「分かりました。こちらでも探してみましょう」

「よろしく頼む。では、一週間後だな?」

「はい。お迎えにあがります」

「分かった」


 テンガイは一礼をして玄関の前に並んでいる執事を呼んだ。そして、馬車へ乗り込んで屋敷の敷地から出ていく。

 フォルトは隣に来たカーミラの腰へ手を回した。他の身内はフォルトを取り囲んでいる。アーシャが後ろから腰へ手を回してきて、体を密着させてきた。


「ギュッ、ギュッ」

「でへ、でへ」

「では、お部屋まで御案内いたします」

「あ……。うん、よろしく頼む」


 フォルトたちのふしだらな行動に目もくれず、執事に礼儀正しく対応されてしまった。少々恥ずかしくなるが、まずはこれから一週間をどうダラけるか。そんな事を考えながら、玄関に並ぶメイドの間を通って屋敷へ入るのであった。



◇◇◇◇◇



「やああっ!」

「ギャアアア!」


 アルディスの強烈な蹴りが、襲ってきた人型の魔物の頭へ直撃する。その頭は首から切れて地面へ落ち、うつぶせに倒れたのだった。


「ねえ、ノックス。これがアルラウネ?」

「そうだね。獣人族から聞いた姿だ」


 アルラウネ。人間の女性のような姿をした緑色の魔物だ。衣服を着ていないので丸見えなのだが、その体は植物のつたが変化したものである。それでもリアルな姿をしているので、男性なら赤面する者が居るかもしれない。


「こっちも倒したぜ」

「お疲れ、シュン」

「しかし、女性の姿をされると斬りづらいな」

「ちょっと。あんなのに欲情したわけ?」

「そんなんじゃねえよ。顔は不細工だしな」


 アルラウネの首から上は植物の花である。目や鼻、口などはあるが、配置が変だったりする。それでも形相がすごいので、福笑いのように笑えると言うよりは怖かったり気持ち悪かったりする。


「でも、まともな顔になってるのも居るらしいからね」

「へえ。でも、こんな魔物も居るんだな」

「放置すると大量に出るらしいよ」

「うぇ。勘弁してほしい。まあ、そのための討伐隊だけどな」


 シュンたち勇者候補チーム一行は、討伐隊が駐屯した場所から出撃をしているところだ。フェリアスにはさまざまな魔物が居る。このアルラウネもそうだが、人間の顔をした耳で飛ぶチョンチョンなども倒した。

 他にもアーマーゲーターと呼ばれる危険なわにの魔獣も居る。フロッグマンなどは見た事があるが、それ以外にも大蛇やら巨大な昆虫も居る。


「おう! これならすぐにレベルは上がりそうだな!」

「まあな。ちょっと弱いのが難点か?」

「弱いと言いましても、戦う術を持たない人たちには脅威ですよ?」

「ラキシスの言う通りだが……。って、エレーヌは?」

「あれ? エレーヌはどこ?」

「ムー! ムー!」

「どこだ?」


 シュンの周りにエレーヌだけが居ない。しかし、かすかに声が聞こえる。そこで、手分けをして探す事にした。


「近くには居そうだ。探そう」

「馬鹿女が……。どこだ!」

「エレーヌ! エレーヌ!」

「ムー! ムー!」


 声は聞こえる。しかし、口でも押さえられている声だ。魔法使いは口を押えられると魔法が使えない。まだ魔物の領域に居るのだ。急いで探さないとまずい事になるだろう。他の魔物が寄ってくれば、探す暇などなくなってしまう。


「シュン様! 上です!」


 ラキシスが発見をしたようだ。シュンや他の仲間も彼女の所へ集まる。視線を上へ向けると、食人植物に頭からみ込まれているエレーヌを発見した。

 彼女は腰までみ込まれている。足をバタバタと動かして脱出を試みているが、腕も植物の中へ入っているので出れないようだ。


「待ってろ! 今、助ける!」

「ムー! ムー!」


 しかし、エレーヌの居る場所は地面から高い場所だ。剣は届かない。その間にもズルズルと木の上へ向かっている。木の上には葉が茂っているが、どれも食人植物である。その中の一つが彼女の暴れている足に食いついた。


「シュン! ギッシュ! 受け止めてあげて!」



【ファイアボール/火球】



 このままではまずいと思ったノックスが、中級の火属性魔法を使う。森で火は厳禁であるが、そんな事を言っている場合ではなかった。

 放たれた火球はエレーヌをみ込んでいる食人植物へ当たる。他にも足へ食いついている食人植物にもだ。それらは一気に燃え上がり、上から彼女が落ちてきた。それをシュンとギッシュが受け止めたのだった。


「けほっ、けほっ」

「エレーヌ! 大丈夫か?」

「だ、大丈夫だけど……。怖かったよ!」


 その場でエレーヌはうずくまり、自分の体を抱きしめた。一人だったら食べられている。まさか、真上から襲ってくるとは思いもよらなかっただろう。それにしても、彼女は緑色の粘液でドロドロになっていた。


「す、すぐに浄化を!」



【ピュアリフィケイション/浄化】



 ラキシスが信仰系魔法を使い、エレーヌの体へ付着している粘液を浄化する。しかし、粘液の効果が浄化されただけだ。彼女はドロドロのままだった。


「ド、ドロッとして気持ち悪いです」

「消化作用のある粘液です。付着させたままですと、体が溶けますよ」

「え、ええ! あ、ありがとう」

「エ、エレーヌ。服が……」

「え?」


 アルディスの指摘を受けて、エレーヌが自分の服を見た。すると、あちこちが溶けて肌が露出している。ギッシュはソッポを向き、ノックスがジーっと見ていた。


「きゃあ! み、見ないで!」

「こ、これを羽織れ!」


 シュンが急いで自分のマントを取ると、エレーヌが勢いよく奪い体を隠した。そして、顔を赤らめながらうつむいたのであった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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