第263話 黒い棺桶3

表紙絵が完成しました2022/02/16

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それでは、本編を御楽しみください!

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 薄暗い部屋に円形のテーブルが置かれている。その周りには、同じローブを着てる者たちが椅子へ座っていた。その数は五人である。

 特徴的なのは、その顔を隠す仮面だろう。目の部分だけが空いている、のっぺりとした白い仮面だ。


「さて、「黒い棺桶かんおけ」の定例会議を始めよう」


 その座っている椅子のうち、ひときわ大きな椅子へ座る者が声を出した。他の四人は、その者の仮面を見る。


「まずは、賭博部門の猿からだ」


 大きな椅子へ座る者から、右へ座る者へ声がかけられた。猿と呼ばれた者だが、仮面の頬の部分に猿の装飾がされていた。

 他の者も同じように、違う動物が装飾されている。これが通り名となっているのだ。猿と呼ばれた者は、賭博を担当する部門長だった。


「ほれ、書類を見な。闘技場での賭博を始めたがな。いい具合だぜ」

「ほう」


 猿が人数分の紙を取り出して、全員へ配った。彼らの後ろには、汚いボロ布をかぶった戦士が居る。どれも、彼らの護衛だ。

 もしも、紙以外を取り出したら取り押さえられるだろう。彼らは互いを信用していない。たとえ、協力関係であろうともだ。


「全財産だか知らねえけど、白金貨を賭ける馬鹿も居てよ」

「貴族ではなく?」

「冒険者だったか? いい依頼でもあったんだろ」

「カモだな。しかし、これほどの収益がなあ」

「始まったばかりだから、過熱してるのさ」

「そうだな。だが、落ちついたとしても……」

「その通りだぜ、獅子。相当な金が落ちてくる」

「分かった。では、次の者」


 猿と話し定例会議の開催を宣言した者が、獅子と呼ばれる者だ。この「黒い棺桶かんおけ」をまとめるおさである。

 この獅子を頂点として、五つの部門があった。一つは猿の賭博部門。もう一つは獅子が部門長を務める娼館しょうかん部門。他にも鳥が部門長の密売部門に、熊が部門長の奴隷部門。そして、犬が部門長の情報部門もある。


「密輸の方は順調よ。南方小国群の国々が、武器や防具を買ってくれるわ」

「ほう。なら、公国の誕生も近いか」

「そうねえ。ただ、数が足りなくなってきたわ」

「熊よ。隠し鉱山で働かせている奴隷は?」

「増やしたいがな。あの御方に言われただろ?」

「うーむ。控えろと言われたからな」


 現在のところ「黒い棺桶かんおけ」で活発に動けているのは、賭博部門と密輸部門だ。娼館しょうかん部門と奴隷部門は動きを控えている。ある人物から止められたのだ。


「動いてもいいんじゃねえか?」

「いや。あの御方との関係は壊せない」

「そうよ。密輸の方は、目をつぶってもらってるわ」

「賭博もな。兵士すら参加するから、収益が大きいんだよ」

「でも、なんで控えるんだ?」

「徴兵を念頭に置いてるんだろ」

「だろうな。北は帝国、南はベクトリア公国か」

「まだ南は樹立していないがな」

「その時がきたら、構成員も減る。だからこそ、資金の確保だ」


 「黒い棺桶かんおけ」は裏組織のため、お目こぼしなどない。徴兵をされれば、構成員でも兵士になる必要があった。そうなると、活動に支障が出るのだ。現在は、存続するために必要な資金の確保に動いていた。


「まあ、報告は分かった。流通を制限して、少しずつ売ってやれ」

「そうするわ。それで、オークションの方は?」

「アレが売りに出される」

「アレ?」

「もしかして、戦神の指輪か?」

「そうだ」

「結局、持ち主は誰だったの?」

「知らん。このオービスってのは偽名だろう」


 おさの獅子が、オークションへ出品される品をまとめた本をたたく。この本は品物の持ち主から、品物の内容までをまとめた本だ。オークションへ参加する者には有料で配られている。これを使い、ほしい物を決めて金を集中させるのだ。

 そして、戦神の指輪の出品者の欄にはオービスと書かれていた。戦神オービスと同じ名前であり、あからさまな偽名だ。


「知っているぞ」

「「え?」」


 戦神オービス神殿の秘宝である戦神の指輪は、勇魔戦争のどさくさで盗まれていた。その盗人は特定されていない。しかし、ここで犬が口を挟む。十年以上も知られていない情報なので、他の者たちは驚きの声を上げた。

 犬は情報部門長として、国内外の情報に精通している者だ。慎重な犬は、声色も変えている。


むくろの傭兵団団長だ」

「クラウケスか!」

「よく特定できたな」

「売りに出されれば、簡単に調べはつく。品物の真偽を確かめるからな」

「しかし、今になって売るとは……」

「おおかた、グラーツ・アリマーが来るからだろう」

「なるほどな。帝国の財務尚書か」

「帝国との国境を通ったって聞かないけど?」

「アルバハードを経由してる。まあ、御忍びなのだろう」


 帝国との国境は制限をされていないが、警戒をされている。帝国軍が徴発を繰り返しているのだ。小競り合いも起きているので、往来をする者は少ない。

 しかし、中立の自由都市アルバハードを経由すれば簡単だ。時間はかかるが、安全に通れる。外交特使なども、こちらの道を使っていた。


「やつなら買うだろうな」

「戦神オービス神殿へ、恩を売るチャンスだからな」

「なら、手数料はガッポリねえ」


 今回のオークションは、闇のオークションだ。世界中から、違法で手に入れた品物が出品される。主催をするのは「黒い棺桶かんおけ」だ。

 当然、取引で生じる手数料は高い。しかし、違法な品物ばかりなので、手放すなら闇のオークション以外は難しい。


「王国の出方は?」

「見て見ぬふりだ。違法でも、品物が回れば金も回る」

「ははっ。闇でも経済が回れば、国が潤うからな」

「そうだけどね。でも、あの御方へ払う金が高すぎない?」

「仕方があるまい。本腰を入れられれば、組織の縮小はまぬがれない」


 あの御方の力もあって、この手の事は黙認されている。しかし、その代償は大きい。あの御方へ納める金が多額なのだ。

 それでも資金は潤うし、組織も存続していける。それもあって、あの御方へ逆らう事はしていない。要望があれば聞き入れてもいる。


「この関係は続ける。それより「蜂の巣」なのだが」

「生意気にも、私たちの縄張りを荒らしてる連中だねえ」

「小さいから黙認していたが、そろそろ制裁か?」

「いや。ガマスと息子が死んだのは知っているな?」

「知ってるぜ。もうガタガタだろ? やっちまおうぜ」

「取り込む話を進めている」

「は?」

「仲介役が、あの御方なのだ」

「ほう」

「もしかして、それが狙いで……」

「そうらしいな。せいぜい使ってやろう」


 「蜂の巣」の思惑。組織として取り込ませる事で、普通の構成員より良い目を見ようとする事だ。部門長を狙えずとも、中堅に位置する事で力を持てる。そのために、組織として「黒い棺桶かんおけ」の縄張りを荒らしていたのだ。


「これは、ガマスや息子の思惑じゃないね?」

「だろうな。今のボスは、ライゼンってやつだ」

「「蜂の巣」の幹部だったやつだね」

「あの御方へ渡りをつけたのも、そいつだ」

「頭がキレるな。使い道は?」

「武闘派が残っている。警備部門を創設して、そいつらにやらせる」

「へえ。荒事をやらせるのか」

「そういう事だ。必要なやつは使ってやれ」


 今までの荒事は、下っ端の構成員がやっていた。そのために、かなりの確率で捕まっている。上層部は捕まらないが、やり方がド素人だったりするのだ。

 「蜂の巣」には、敵対組織が縄張りへ入ってきた時に撃退をしてもらいたい。「黒い棺桶かんおけ」は規模が大きい。しかし、国内には小さな組織が多数ある。それに加えて、他国から入ってくる場合もある。表に頼れないので、裏で撃退する必要があった。


「犬。他にあるか?」

「そうだな。クラウケスの話に戻るが、血煙の傭兵団を傘下へ入れた」

「ほう。あのグランテがなあ」

「何者かと戦闘をして、壊滅寸前になっていたらしい」

「魔族狩りで、強い魔族でも引いたか?」

「そこまでは分からない」


 この話は、つい先日の話だ。しかし、すでに犬の情報網が入手をしていた。なんとも、すごい情報網である。


「最後に、フォルト・ローゼンクロイツの事を共有しておこう」

「誰だ、それ?」

「宮廷魔術師グリムの客将だ」

「ああ。だいぶ前に、異世界人だって言っていたやつだろ?」

「そいつが三国会議の時に、ローゼンクロイツ家を名乗った」

「当主はジュノバじゃないのか? 死んだという話は聞いていないぞ」

「それについては分からん。とにかく名乗ったという話だ」


 犬の情報網に引っかかったのが、ビッグホーンの素材が売りに出された時だ。あんな魔獣を倒せるのは、勇者級のチームしかいない。そして、現在は勇者級のチームが居ない。魔王を倒した生き残りは、個々で動いていた。

 そこで、情報だけは集めようと動いていたのだ。「黒い棺桶かんおけ」と関係がなくとも、それほどの強者なら知っておくべき人物である。

 上級貴族から情報を買ったりして、整合性も合わせていた。それでも後回しではあったが、最近になって集めた情報で状況が変わった。


「集めた情報では、高位の魔法使いという話だ」

「ほう。それでグリムの客将か」

「その関係性は分からないがな。ただ、そいつの周りに居る者たちがな」


 犬は書類を取り出して、全員に配る。そこに集めた情報が記載されている。それを見た者たちは、仮面に空いた穴の奥の目を見開いた。


「前から知られていたのは、ローイン公爵の廃嫡された娘だろ?」

「それと小娘が一人と、異世界人の女が一人だったな?」


 これに関しては古い情報だが、調べ始めた時点では得体えたいのしれない異世界人という位置づけだ。関わり合いもないので、たいして調べてはいなかった。

 マリアンデールとルリシオンの事は、グリムが完璧に情報封鎖をしている。そのため、「黒い棺桶かんおけ」でも把握のしようがなかった。


「なんだ、こりゃ。〈剣聖〉、〈狂乱の女王〉、〈爆炎の薔薇姫〉?」

「元聖女のソフィアも居るね」

「エルフの女か。この情報の出所は?」

「闘技場へ一緒に来たらしい。それ以外に居るかは分からん」


 フォルトはカーミラとともに、おっさん親衛隊を闘技場へ連れていった。その情報が入っているのだろう。今の時点で知られていないのは、シェラとリリエラだ。それと眷属のニャンシー、ルーチェ、クウである。


「家の名前からして、〈狂乱の女王〉と〈爆炎の薔薇姫〉は分かった」

「分かったと言っても大物すぎるがな。それに〈剣聖〉かよ」

「馬鹿馬鹿しい戦力だね。エルフって、フェリアスのエルフ族かい?」

「その上、本人は高位の魔法使いだって?」

「客将という話だが、個人が持つ戦力ではないぞ」

「裏は取ってあるから、間違いはない。それに、問題はそこではない!」


 犬が珍しく大声を上げる。いつもは精密機械のように、淡々と情報だけを言う人物だ。内容からして、冷静でいられないのだろう。


「問題とは?」

「われらが、どう扱うかだ」

「こんなのは、放置が妥当だろ」

「いや、待て。使い方次第では、金のなる木だぞ」


 獅子はフォルトを利用したい。組織へ入れないまでも、貴族などと同等の扱いができればいいと考えていた。


「獅子よお。それはさすがに、無理ってもんだ」

「金で動けばいいんだが……」

「女で落ちれば簡単よ。周りは女ばかりだしね。当てがって見るかい?」

「脅せる材料があればな。でも、魔族と一緒なだけでも……」

「こっちが暴力へ訴えて、勝てるやつならいいぞ? だがなあ」

「と、とにかく情報が足りん! 出された条件が合うか調べてくれ」

「分かった。金か女でなびくか。または弱みだな?」

「そうだ」


 ヘタに触ると火傷やけどをする。火傷やけどで済めばいいが、戦力が凶悪すぎる。お堅いグリムの客将なので、接触を持つだけでも危険だろう。本来ならば、近寄りたくもない人物だ。それは別として、今の最重要課題は別にあった。


「今は資金の確保を急げ」

「分かってるけどよ。そのフォルトというやつは?」

「勘定に入れるな。不確定すぎる」


 エウィ王国最大の裏組織「黒い棺桶かんおけ」。その実態は表に知られていない。今後も裏で暗躍を繰り返すだろう。定例会議は、まだ始まったばかりだ。各部門長が情報を共有しながら、今後の動きを決めていくのであった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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