第248話 グリム家にて3

 グリムの屋敷に来てから数日後。新しい命が誕生した。ソフィアの母親であるフィオレが、無事に出産を終えたのだ。

 しかし、フォルトは祝いの輪へ入らなかった。カーミラと二人で、与えられた部屋へ引き籠っているのだった。


「こういうのは苦手だ」

「えへへ。人間の子供なんて、どうでもいいでーす!」

「でも、ソフィアに弟ができたわけだな」

「御主人様とは、比べ物にならないほど小さいですよお」

「そ、そ、それは、当たり前だ!」

「えへへ」


 何が小さいかはさておき、これでソフィアとともに帰れる。グリムと話した事はソネンやフィオレにも聞いたが、やはり情報はなかった。

 戦神の指輪はどこにあるのか。誰が持っているのか。悪魔崇拝者の影も、まるで見えない。部屋に引き籠っているので、それ以降も情報はなかった。


「この際、悪魔崇拝者は後回しだな」

「まずは、アーシャとソフィアの限界突破が先ですね!」

「そうだな。シルビアとドボが、こっちに居るから……」

「リリエラちゃんのクエストですかあ?」

「いや。調教が先だな。でへ」

「御主人様の、その顔は大好きでーす!」

「そ、そうか?」


 さすがはリリスである。色欲しきよくにまみれた顔が、お気に召しているようだ。そんなカーミラと、ベッドでイチャイチャする。まさに、至福の時だった。


「そう言えば、シュンたちも居るな」

「居ますねえ。あの玩具たちは、情報を集めたでしょうか?」

「どうだろうな。集めてはいるはずだが……」


 フォルトは、アルディスとエレーヌの事を考えた。ギッシュには強制できないので、頭の中からは消しておく。

 アルディスは空手家だ。引き締まったボディが魅力的で、ボクっ娘がえる。エレーヌはミスコンの優勝者だけあって、顔は奇麗だが胸が大きい。もう一度ぐらいなら、挟まれてもいいだろう。


「御主人様?」

「あ……。違う事を考えてた」

「ですよね! ちゅ」

「でへ」


(実験の時の事を考えてる場合じゃないな。考えてもいいが、今じゃない。やつらの拠点はハンだから、ちょっと遠いな)


 アルディスとエレーヌにほどこした絶対服従の呪い。その実験の時を思い出して、イヤらしい表情を浮かべてしまう。それから、どうやって情報を受け取るかを考えた。飛んで行けばすぐに到着するが、そんな事はやらない。


「やっぱり、ニャンシーかな?」

「面識はないですよお?」

「そう言えば、会わせてなかったな」

「手紙を届けさせて、来させればいいと思いまーす!」

「それだ! さすがはカーミラ」

「えへへ。でも、抜けられるかが難しいかもですねえ」

「チームだしな。こっちへ来る用事でもあれば……」


――――――トン、トン


「入っていいぞ」


 カーミラと話していると、部屋の扉がノックされる。許可を出すと、吸血鬼のコスプレを着た男性が入ってきた。


「主様。戻りました」

「ご苦労さん。ってか、俺が俺に話すのって、なんか……」


 入ってきたのはドッペルフォルトのクウだ。自身は祝いの輪に入っていないが、クウを参加させた。本当に便利である。


「気づかれなかった?」


 ドッペルゲンガーの変身能力は完璧だ。見た目はもちろんの事、思考までマネるので、気づく者はほとんどいない。国王のエインリッヒ九世やグリムが、ドッペルデルヴィに気づかないほどだ。


「ソフィア様は気づきましたが」

「ほう。それは嬉しいな」


 ソフィアは気づいたらしい。違いなどないはずだが、言動やしぐさに、微妙な違いでもあったかもしれない。


「触らなかったので」

「あ……。そうだよね」


 クウはフォルトの眷属けんぞくなので、身内には手出しをしない。たしかにソフィアへ悪戯いたずらしたら、眷属けんぞくを解消して殺しそうだ。


「クウが聞いてくるのは、駄目ですかねえ?」

「絶対服従の命令は、本人じゃないと駄目みたいだ」

「それは残念ですね!」

「まあ。使い道を実践できたから、それでよしとしよう」

「御主人様は動かなくていいですね!」

「その通り! それで、もう一つは?」

「こちらです」


 クウはフォルトの格好から、町娘に変身した。闘技場の売り子の女性とは別人だ。素朴だが、とてもかわいい女性である。

 グリムの屋敷へ来る前に、売り子の格好をさせて町を散策させたのだ。フォルトの好みは、眷属けんぞくなので分かっている。その結果が、この女性だ。


「じゃあ、しばらくはそれで」

「はい」

「御主人様。クウで遊びすぎですよお」

「あっはっはっ! 楽しくて、ついな」


 実にくだらない使い方だ。根が女好きなので、キャバ嬢をチェンジするかのように使っている。

 本来なら物凄い能力で、要人の暗殺から、国を滅亡へ導く事も可能な能力である。しかし、使う者がフォルトだと、こうなってしまうようだ。


「では、クウよ。また、俺の代わりをよろしく」

「はい。主様」


 クウが便利すぎるので、部屋に引き籠れて満足だ。後でソフィアの頬がふくれるだろうが、今はカーミラとイチャイチャする事に専念する。

 食事の時だけ交代すればいいだろう。そんな事を繰り返しながら数日がたち、フォルトたちは双竜山の森へ帰還するのであった。



◇◇◇◇◇



「シュン様。バルボ子爵が、お見えになっております」


 冒険者ギルドの依頼を終わらせたシュンたちは、拠点である屋敷へ戻ってきた。屋敷には、デルヴィ侯爵から借りているメイドたちが居る。そのメイドから呼び止められて、来客を告げられた。


「バルボ子爵?」

「はい。ファミリールームへ、お通ししてあります」

「応接室じゃないのか?」

「ええ。すぐに帰られるそうなので」


 それでも応接室の方がよさそうだが、バルボ子爵が望んだなら仕方がない。それにファミリールームなら、全員へ聞かせるために来た可能性もあった。


「まあいいか。みんな、ファミリールームへ行こうぜ」

「では、お茶をお持ちします」


 屋敷の外で立ち止まっていても仕方がない。シュンは仲間を引き連れて、屋敷へ入りファミリールームへ向かう。ここは屋敷の者がくつろげる場所で、フカフカのソファーが全員分あった。


「バルボ子爵様」

「戻ったか」


 バルボ子爵は、デルヴィ侯爵へ代々仕えている子爵家の当主だ。四十代後半で、侯爵の腰巾着と言われている。


「俺らもいいのかよ?」

「構わないぞ。伝える事は、たわいもない話だ」


 ギッシュの礼儀がなっていないが、バルボは気にも留めていない。もう何度も会っているので、性格は分かっているだろう。


「宮廷魔術師長であるグリム様の孫娘、ソフィア嬢は知っているな?」

「知っています。聖女の時に、面倒を見てもらっていました」

「弟が産まれたそうだ」

「弟ですか?」

「デルヴィ侯爵様から、祝いの品を持って行けとの伝言だ」


 実際はソフィアの弟というよりは、グリム家に男子が産まれたと通知が来たのだ。形式上のもので、全ての貴族や関係者には通知されている。


「グリム家へ届けるのはもちろん、ソフィア嬢にも渡せ」

「と、なると。グリム領へ行って、アルバハードにも行くのですか?」

「いや。双竜山の森へ戻っているそうだ」

「戻ってる?」


 形式上の事なので、祝いの品を送るのは当然だ。国の重鎮であり、エインリッヒ九世の側近の家だ。それにソフィアの両親であるソネンとフィオレも、宮廷魔術師として地位が上がっている。


「それでな。フォルト・ローゼンクロイツの様子を見てこい」

「は?」

「やつも戻っている」

「いつの間に」

「高位の魔法使いという情報が入っているな」

「おっさんが?」

「うむ。それは陛下から通知がきておった」

「ちっ」


 フォルトの事は、すでに貴族へは伝わっていた。しかし、国民へは伝わっていない。グリム家の客将で地位などなく、魔族の事は国民へ伝えられない。扱いに困る者だが、伝えても衛兵長ぐらいまでだろう。


「で、祝いの品がこれだ」

「これは……。金貨ですか?」


 バルボ子爵が取り出したのは、金貨の入った袋だ。これには怪訝けげんそうな表情を浮かべる。一目瞭然な袋だからだ。


「祝いの品が金貨とは……」

「グリム家への品は、後で到着する手筈てはずだ」

「なら、これはソフィアさんにですか?」

「そうだ。直接渡せ」

「失礼にあたるのでは?」


 出産祝いに現金を送るのは、基本的に失礼にあたる。送る相手にもよるが、上から目線で祝っているように思われるからだ。または、生活に困窮していると思っていると勘違いをさせてしまう。ソフィアの場合は後者だろう。


「いいのだ。どう受け取られようがな」

「それは?」

「送った事実。受け取った事実。それだけでいいのだ」

「………………」

「ははっ。シュンにも、いずれ分かる」

「そ、そうですか」

「では、忙しいのでな。これで、失礼する」

「ありがとうございました」


 ニヤリと笑ったバルボ子爵は、ファミリールームから出ていこうとした。シュンは屋敷の外まで送ろうと立ち上がるが、手を挙げて止められる。そして、そのまま屋敷を出ていってしまった。


「なんか、感じ悪いなあ。ボク、あの人は嫌い」

「そ、そうですね」

「そうか? まあ、気にすんな」


 バルボ子爵は、アルディスとエレーヌには評判が悪い。しかし、シュンは好意的だ。帰り間際の笑いが、そう思わせた。


(これも貴族になるための勉強ってか? 俺には考えられねえ行為だが、効果があるのか? まあ、せいぜい勉強させてもらうぜ)


「おう、ホスト。俺は風呂に入ってくんぜ」

「あ、わ、私も……」

「なら、私も御一緒しますね」

「僕は、ちょっと眠らせて。魔力を使い過ぎて」

「いいぜ。アルディスはどうする?」

「ボクは庭で汗をかいてから、お風呂にするよ」

「分かった。俺も部屋で一眠りしてから風呂に入るぜ」


 今回も魔物の討伐依頼だったので、体が悲鳴をあげている。屋敷の手伝いが食事を作るまで、みんなは休むだろう。

 シュンも部屋へ戻ってやる事がある。せっかくアルディスとエレーヌが分かれたのだ。ラキシスがエレーヌについて行くので、やる事は決まっていた。


「んじゃ、夕食の時に集合な」


 シュンは解散を宣言して、自分の部屋へ向かった。部屋では鎧を脱いで、簡単な布の服を着る。それからベッドで横になって、目を閉じた。


「さて、アルディスが来る前に……」


(バルボ子爵は、おっさんが高位の魔法使いとか言っていたな。魔法については、まだまだ分からねえんだよなあ。使えれば強いのは分かるが……)


 幽鬼の森では、ノックスも同じ事を言っていた。ならば、魔法使いなのだろう。この点は要注意である。

 シュンは信仰系魔法を使った戦いをやり始めて、魔法の強さを実感している。ノックスやエレーヌからの援護ではなく、自分が使える事で戦術に幅ができた。


「魔法使いは、腕力がないのが一般的だよな」


(接近戦に持ち込めば、俺は騎士だ。おっさんが魔法を使う前に、殺せるかもしれねえ。でも、高位か。くそっ、痛そうだな。それに……)


 フォルトを殺すシミュレートをする。しかし、実際の強さが分からないので、まったく戦術がたてられない。そして、戦いに向かうのではなかった。


「アルディスはまだか?」


――――――コン、コン


「お、来たか。入っていいよ」


 少々時間がたってしまったが、アルディスが来たようだ。シュンはベッドの上から許可を出し、彼女を部屋の中へ入れる。


「シュン」

「アルディス。来いよ」

「う、うん」


 さっそく行為を開始する。魔物退治をしてたかぶっているので、数回はやっておきたいと思っていた。しかし……。


「あ、シュン。ボク、お風呂に入ってくるね」

「え?」

「ごめん。汗を流しておきたくてさ」

「そ、そうだな」

「じゃあ、食堂でね!」

「あ、ああ」


 一回で終わってしまった。やる事はやったのでいいのだが、なんだか不完全燃焼だ。これには少々、呆気あっけに取られてしまった。


「なんだあ?」


(最近のアルディスは、素っ気なくねえか? 嫌ってるわけじゃないと思うんだが……。気持ちよくなかったとか?)


 幽鬼の森から戻ってからだが、アルディスと交わる回数が減った気がする。しかし、ホストだった時の経験で、嫌っているようには見えない。

 それに、エレーヌやラキシスとの関係は知られていない。何やらに落ちないが、このまま部屋に居ても仕方がない。そう考えたシュンは、ベッドから立ち上がって風呂へ向かうのであった。



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Copyright(C)2021-特攻君

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