同じ穴

ナヲザネ

彼女

薄い雲の残る空から、忘れ物のように雨粒がぽつりぽつりと落ちてくる。


『狐の嫁入り』だ。


天気雨の降った、雨上がりの午後。

湿った地面が太陽に照らされて蒸し暑い。



古民家のかび臭い天井板は老朽化が進んでいる。


板を踏み抜いて落ちてしまわぬよう、ぼくは慎重に前へと進んだ。


丸く黒ずんでいる板の『ふし』に開いた穴から、下の部屋の灯りが差し込む。


ぼくはそっと、その穴から真下の部屋に暮らすを見つめた。




艷やかな黒髪を肩で切り揃えた女性が、敷きっぱなしの布団の上で微睡まどろんでいる。



しっとりと白い、むき出しの四肢が扇情的で艶めかしい。



伏せたまつ毛は、まるで朝露を乗せたように淡い光を放つ。


ぼくは声は出さないように、口の形だけで話かける。




「こんにちは麻珠まみ。いまはお昼寝中かな」




麻珠との出会いは、今日と同じような天気雨の降った日だった。



ぼくは急発進した車に撥ねられそうになり、その場で咄嗟に抱き留めてくれた彼女に命を救われたのだ。


その時ぼくは、まるで雷に打たれたように全身が痺れた。

彼女にひと目で恋をしてしまったのだ……。



それ以来、どうしても彼女を忘れられない。



再び彼女を見かけた時、衝動的に彼女を尾行して自宅の屋根裏に忍び込んだ。

これが約ふた月前の出来事。



それから、ぼくは毎日すぐ側で彼女を見守っている。



ぼくの存在を、決して知られてはいけない。

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