第156話 出発準備

 エルフの少女レダによってもたらされた、クーデターの情報。

 トーネスの森は俺たちの住むオルデア王国とそれほど離れてはいない。そのため、他種族に対して過激な思想を持った連中によって牛耳られた結果、こちらへ武力による侵略行為に及ぶ可能性があるとゾイロ騎士団長は判断した。


 すぐに王都へ戻って対策会議を開く予定だというのだが……なんと、その場に俺も同席するよう求められた。


 理由はただひとつ――エルフ族との通訳だ。

 まさか、このような形で騎士団に同行することになるなんて……一年前からは想像もできない展開だ。

 ただ、ゾイロ騎士団長は俺を選出した理由はそれだけでないという。


「もちろん、君の持つ言語スキルは頼もしいが――それだけじゃない。君が学園の昇格試験で見せたという実力……ガインの話では、相当なものらしかったな」

「い、いや、あれは……」

「謙遜するな。あのガインがあそこまで手放しに誉めるのも珍しい――君は彼に認められた男だ。それだけでも、選ばれる理由としては十分だろう」


 ガインさん……信頼されているんだな。

 とはいえ、それであっさり決めてしまうゾイロ騎士団長の判断力も凄かった。


「では、今から三十分後に王都へ向けて発つ。それまでに準備を整えておいてくれ」

「わ、分かりました。――あ、あの」

「うん? どうした?」

「みんなへの報告ですが……俺にやらせてください」


 ゾイロ騎士団長が伝えてくれると言ってくれたが……やっぱり、こういう大事なことは俺の口からみんなへと伝えたい。そう思っての直訴だった。

 これに対し、ゾイロ騎士団長は、


「分かった。ただし、時間厳守で頼むぞ」

「っ! は、はい!」


 快諾。

 俺は急いで部屋を出ると、レダを連れてみんなが待っている部屋へと向かった。



 サーシャたちが待機している部屋へ入ると、一斉にこちらへと駆け寄ってくる。そしてすぐに質問攻めにあったが……今はそれに答えている時間がない。


「すまない、みんな。俺はこれからすぐにゾイロ騎士団長と一緒に王都へ向かうことになったんだ」

「「「「「えっ!?」」」」」


 サーシャ、エルシー、ソフィ、ポルフィ、マイロの五人は突然の展開に戸惑いつつも、なんとなく察しがついたようだ。俺だけ部屋に残るよう言われていたし、その辺りから勘づいていたのかもしれない。


「エルフ族の問題を解決しに行くのね?」


 どこか寂しげな声で、サーシャが問う。

 静かに頷くことで、俺はその質問に答える。


「ハーレイ殿なら通訳もできますし、当然ですね」

「おまけに強い」

「まあ、学園で偉そうにしている連中よりはずっと戦力になるわね」

「でも……怖くない?」


 マイロの言葉に、俺は一瞬詰まった。

 まったく怖くないといえば、嘘になる。

 実際、ただの学生である俺が、どこまで騎士団と行動をともにするのか、まだまだ不透明な部分は多い。そもそも、騎士団が最終的に不介入という判断を下せば、それまでだからな。俺は何もせずにお役御免となるだろう。


 しかし、これはなんとしても解決しなければならない問題――ゾイロ騎士団長はそう捉えているみたいだし、おのずと俺の出番も増えるだろう。


 ……冷静になって考えたら、ちょっと自信がなくなってきたよ。

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