第155話 新たなる舞台へ
気を取り直して――レダとゾイロ騎士団長は向かい合う形でソファへと腰を下ろし、レダの方からこの場に至るまでの経緯を説明する。
「ふむぅ……」
話を聞きながら、騎士団長は何度か頷く。
そして、ひと通り説明をし終えると、真剣な眼差しで何かを考え始め、しばらく沈黙。やがてゆっくりと口を開くと、
「分かった!」
バシッと膝を叩きながら、力強く言い放つ。
「ここにいる限り、君の安全は保証しよう」
「い、いいんですか、ゾイロ騎士団長!?」
俺としては、一度国王のもとへ連れて行くと思っていた。人間とエルフ族の関係は、ここ数年良好とは言えず、かといって疎遠とも言えない、なんとも微妙なものとなっている。そこへクーデターの発生を知らせに来た子がいるとなれば、放置しておくはずがないと俺は踏んでいたのだ。
しかし、ゾイロ騎士団長は冷静だった。
「彼女の正体については、彼女自身の証言を頼りにするしかない――が、それだけで国王のもとへ連れて行くのは危険と判断した結果だ」
……なるほど。
それで「ここにいる限り」と場所を限定したのか。
「それと、ここだけの話……トーネスの森で不審な動きがあるという報告があげられているのも事実なのだ」
「えっ!?」
「今はまだ軽視されているが……彼女の話が本当ならば、我々も準備を進めていく必要がある」
「じゅ、準備って……」
「真相解明のため、さ」
言われてみれば、今回の件……騎士団長という立場であるこの方にとっては無視できない話だろう。
平和主義を掲げ、他の種族との平和的交渉を望んでいた新しい長こと聖女セルシェの父親。
だが、それに反対する勢力が森を支配した――つまり、過激な軍事政権となっている可能性が極めて高い。
そんな彼らが、オルデア王国とトーネスの森の間で結ばれている不可侵条約を無視して攻めてくることも十分に考慮できた。
事前にその可能性があるということが分かっただけでも、ゾイロ騎士団長にとっては収穫だろう。
「私はすぐに王都へと戻る」
ソファから立ち上がると、ゾイロ騎士団長は俺にそう告げた。
「サーシャたちにはここへとどまるよう伝えておこう。警護も今から王都へ帰還し、増援を要請しておけば明日の朝一には到着できるはず」
「わ、分かりました。みんなには俺から伝えておきます」
「いや、その必要はない」
ゾイロ騎士団長は部屋を出ようとする俺をそう言って呼びとめる。
「ひ、必要ないって……」
「みんなへの報告は使用人に任せる。――君は私と一緒に来てくれ」
「き、来てくれって……」
「ともに王都へ向かう。君にはエルフ族との通訳を頼みたい」
「お、俺が通訳ですか!?」
それはつまり、まだ学生の身である俺が、騎士団とともに行動するってことになる。学園でも有数のエリートとして知られ、幼い頃から俺を見下し続けてきたマシューやロレインよりも先に……その事実を噛みしめた時、俺は心の奥底から震えてきた。
「お、俺なんかに務まるでしょうか……」
「君だからこそ大丈夫だと私は思っているのだがね」
そう言って、ニコッと微笑むゾイロ騎士団長。
……やるしかない。
騎士団長の期待に応えられるよう、俺は騎士団専属通訳としての務めを果たそう。
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