第154話 ハーレイの通訳デビュー

 保護したエルフの少女レダ。

 トラブルに発展しないかと心配していたが、彼女はとてもいい子で暴れだすようなこともなく、次第にサーシャたちとも打ち解けていった。

 ただ、言葉の壁があるため、通訳なしでの意思疎通には少々難がある。それでも、みんなレダのことを心配し、いろいろと声をかけていた。レダの方も、俺からみんなが何を言っているのか通訳され、その内容に深く感謝する。


 そんな時間がしばらく続き――気がつくと、窓の外がオレンジ色に染まっていた。

 時の流れに気がついた直後、


「旦那様がご到着されました」


 メイドさんがそう報告してくれる。

 途端に、全員の顔が強張った。


 国家の治安維持を常に考えているゾイロ騎士団長が、レダに対してどのような対応を取るのか……しかも、彼女は自分たちの住んでいた国でクーデターが起きたというとんでもない情報までもたらしている。


 しばらく部屋で待っていると、ついに騎士団長がやってきた。


「…………」


 無言。

 表情からも感情は読み取れない。

 ほんの数秒置いてから、


「悪いが……みんな少し席を外してくれないか?」


 静かにそう告げる。

 これにはもう黙って従うしかないと思い、ドアの方へ歩きだしたら、


「ちょっと待ってくれ。……ハーレイ。君はここへ残ってくれ」

「えっ?」

「通訳をしてもらいたいのだ」


 ゾイロ騎士団長は、俺にレダとの通訳を依頼した。こういう場合、専属の通訳がいるはずなのだが……そういえば、騎士団長はひとりでこの部屋に入ってきたな。もしかして、最初から俺に通訳を依頼するつもりだったのか?


 疑問に思うも、その理由を問えるような空気ではなかったため、とりあえず言われた通り通訳をすることに。


 レダの方も、ゾイロ騎士団長の放つただならぬオーラを前に緊張しているようだ。


「怯えなくていい。君を捕えようという気は毛頭ないからな」


 リラックスするように促すゾイロ騎士団長。俺もそうレダへと伝えるのだが……いかんせん騎士団長の顔が怖すぎる。エルフとの接触には細心の注意を払っているため、表情筋が固くなっているのだろうけど、これでは逆効果な気がする。


「レダ、安心していいよ。この方はさっきまで一緒にいたサーシャのお父さんなんだ」

「サーシャのお父さん?」

「そう。きっと君の力になってくれる。だから、何があったのか説明してほしいんだ」

「わ、分かりました」


 俺が言い終えると、レダは深呼吸してから前を向く。

表情が明るいものへと変わったことで、ゾイロ騎士団長もホッとしたようだ。


「何を話したかは知らないが……いい判断だよ、ハーレイ。おかげで話しやすくなった」

「い、いや、そんな」

「君は騎士だけでなく、通訳の仕事も向いているかもしれないな」


 通訳の仕事、か。

 今まで考えたこともなかった。


 ……将来の選択肢に加えておくとしよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る