第149話 発見
バカンス二日目の終わり際。
俺は近くの森に人影を発見すると、その正体を知るために駆けだす。
昨日から、サーシャの屋敷周りに何か気配を感じていたし、実際、護衛騎士たちから不審人物の目撃証言もある。
となると、さっきの人影は例の不審者?
だったら、今後のためにも捕えてその正体を見極めないと。
本来なら護衛騎士たちの仕事になるんだけど、この時の俺はそんなことは頭になくて、とにかく解決に必死だった。学園で起きた、黒騎士事件ではガインさんが瀕死の重傷を負ってしまったからな……その嫌な予感も脳裏をよぎった。
森の近くまでやってきたが、特に異変はない。
耳を澄ましても、聞こえてくるのは近くを流れる小川のせせらぎと小鳥のさえずりのみ。人の気配さえしない――そう思っていたら、
「あれ?」
茂みの手前に、何かを発見する。
木陰になっていて見えづらいので近づいてみたら……
「あっ!」
思わず叫んでしまった。
倒れていたのは――俺たちと同じくらいの年齢をした金髪の女の子だったのだ。
「まさか……この子が不審者の正体?」
そんな風には見えないが、そう簡単によその人が入って来られる環境でもないため、彼女が目撃された不審者である可能性は高い。
その少女だが、気絶しているようでまったく動かない。衰弱しているようにも見えるが、詳しいことは護衛騎士たちの到着を待って――
「うん?」
少女が怪我をしていないか調べていると、俺はある事実に気づく。
それは、彼女の「耳」にあった。
「この耳……人間のものじゃない?」
明らかに人間のものとはサイズの違う少女の耳。――だが、俺はこれくらいの耳に見覚えがあった。一緒にバカンスを楽しむためにこの地を訪れているハーフエルフのソフィとそっくりだったのだ。
と、いうことは……
「彼女もエルフ族なのか……?」
思わず疑問形になってしまったが、まず間違いないだろう。ここへ来てから、ソフィも何かを感じ取っていたようだし……あれは近くに同族がいたからだったのか。
もしかしたら、彼女はソフィの両親のことを知っているかもしれない。見た感じ、年齢も近いし。
……まあ、両親の件については本人にも確認を取らないとな。経緯が経緯だけに、ソフィとしてはもう触れられて欲しくない話題って可能性もあるだろうから。
しばらくすると、護衛騎士たちも到着。
彼らもさすがにエルフが倒れているとは思っていなかったらしく、動揺していた。そんな彼ら以上に動揺していたのだが――やっぱりソフィだった。
初めて見る、自分以外の同種族。
何も口に出せず、エルシーがそっと身を寄せて肩をさすっている。
「どうしますか?」
「ふーむ……このままにはしておけんだろう」
騎士団のリーダーは眉間にシワを寄せ、唸っている。
エルフと人間――今、その関係は非常にデリケートだからな。
無下にはできないが、本音を言うとかかわりを持ちたくないってところか。
とりあえず、一度屋敷の離れで身柄を預かることにし、同時に使いの者をゾイロ騎士団長のもとへと送った。
果たして、このエルフの少女は一体何者なのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます