第150話 正体不明のエルフ少女
貴族たちのリゾート地で保護された謎のエルフ少女。
とりあえず、このまま放置しておくわけにはいかないというサーシャからの呼びかけもあって、彼女はレヴィング家の別荘で身柄を預かることになった。
人間とエルフ。
その関係は長らく微妙なもので、少なくとも「仲良し」と断言はできない。かといって険悪というわけでもなく、つかず離れずの間柄が続いていた。
両種族がいまひとつ歩み寄れない原因に、言葉の壁があった。
エルフ族と人間では、言語が異なる。
そのため、事前知識のない者たちでは会話が成立しないという問題があった。
言葉の壁があるということは、つまり――
「ハーレイ殿の出番ですね!」
屋敷の一室で待機していたエルシーが、状況整理をした結果を叫ぶ。
「確かに、相手が人間の言葉を理解できるかもしれないけど……普通は無理よね」
「ソフィみたいな例は稀だからなぁ」
サーシャの言う通り、人間の言葉を話せるエルフ族は珍しい。ソフィについてはそもそもセスに保護され、そのままモンスターの村で生活していたから、エルフ族の言葉すら話せない状況だった。
そこから、俺がいろいろと人間の言葉を教え、あっという間にマスターしていったんだよなぁ……思えば、ソフィのあの記憶力は相当なものだ。
そのソフィだが、別室で眠り続けているエルフ少女に寄り添っている。
人間の部屋で目覚めても、すぐ近くに同種族のソフィがいればきっと安心するだろうという配慮からだった。
「でも、あの子はどこから来たのかしら」
「それは僕もずっと気がかりだったんだ」
ポルフィの言葉に、マイロが反応を示す。
……実は俺も同じことを考えていたんだよな。
「この辺りはそう簡単に入り込める場所じゃないからな……あの子がどうやってここまでやってこられたのか――同時に、なぜあそこまで弱っていたのかも気になる」
エルフ少女は、かなり衰弱していた。
外傷が見当たらなかったにもかかわらず、あそこまで弱っていた原因として考えられるのはまともに食事をとっていなかったことが原因だろう。
だが、なぜそこまで彼女は追い込まれたのか。
原因については皆目見当もつかなかった。
そんな時、サーシャがボソッと小声で囁く。
「もしかして……エルフの国で何かあったのかしら」
恐らく、直感だろう。
何か根拠があって言っているわけではなく、現段階までに分かっている情報からなんとなくそうじゃないかと推察しての言葉だろう。
「エルフの国、か……」
基本的に、エルフたちは森で暮らしている。
そこでひとつの国をつくり上げ、静かに暮らしているのだ。
だが、もしそこで何かトラブルが起きた――たとえば、それまでの生活を一変させるようなクーデターでも起きたとしたら、彼女のような状況に追い込まれたとしても不思議ではないし、それを人間側が知り得る機会もない。
想像の域を出ない話ではあるけど……俺たちはとんでもない事件に巻き込まれてしまったのかもしれないな。
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