第92話 ハーレイVSアーニー

 アーニー・ライローズの顔つきが変わる。

 彼とはここで初めて顔を合わせたため、日ごろから付き合いがあるわけじゃないけど……あれが本気になった表情だというのはすぐに読み取れた。


「やるじゃん。この前のヤツよりは楽しめそうだな」


 魔力が高まり、やがてそれは構えた剣からは紫色のオーラとなって現れる。

 肉眼で確認できるほどの濃い魔力。

 水や炎にしているならともかく、純粋に魔力だけをあのように目で確認できるというのは珍しい。ヤツの持つ魔力量が常人離れしている証だ。


 ――それだけに、勿体ない。


 あれは努力でどうこうなるものじゃない。

ヤツが生まれ持った資質だ。

 もっとちゃんとした師のもとで学び、高めてゆけば、世界でも屈指の魔法使いと鳴れただろう。


 だが、アーニー・ライローズはそれを拒んでいる。

 優れた力で他者をねじ伏せようとしている。


 それにより、本来彼以上に努力している者たちが、表舞台に立てないまま消えようとしていた。

そんな時、俺の脳裏に診療所のベッドで横になっているレオンの姿が浮かぶ。彼は勇敢に立ち向かったのだが、振り絞った勇気が報われることはなかった。俺たちの前では気丈に振る舞っていたが……内心、悔しさはあっただろう。


 レオンの悔しさを晴らすためにも、俺は負けるわけにはいかない。

 変化したアーニーの気配に押されていた心を奮い立たせ、俺は剣を構え直す。


「ふん。この前のヤツといい……実力差を理解できないヤツっていうのはみじめだねぇ」


 一見すると、表情自体には目立った変化は見られない。だが、その声色には明らかに怒りが滲んでいる。それほど、俺の攻撃がかすったという事実が気に入らなかったらしい。


 状況は好転していない。

 いや、むしろ悪化したかもしれないな。


 だとしたら、いよいよアレを使わざるを得ない。

 ロバートとの一戦で決定打となった、言語スキルの「とっておき」――だが、セスやソフィとの特訓をもってしても、完璧にマスターすることは叶わなかった。


 それをここで発動できるのか……結局は運頼みってことか。

 でも、できなければ俺は――


「おらぁ!」


 考えているうちに、アーニーが仕掛けてくる。

 

「ぐっ!?」


 強大な魔力――詠唱をともなう属性魔法を使用していなくてこれとは……それにこの力はAクラス入りを果たしているサーシャにも匹敵するぞ。やっぱりこのアーニー・ライローズという男子学生は……純粋な実力だけならもっと上のクラスに行けるんだ。


 それを、弱いヤツをいたぶるために今のクラスへとどまり続けているなんて……実に勿体ない。


 まあ、今はそんなことを言っても仕方がない。

 この窮地を突破する一手……それをなんとかして発動させなくては。


「どうしたよ! されるがままか!」

「ぐっ!?」


 ガードをしていても、俺の体力ゲージは削られていく。それはすでに半分を切っていた。このまま食らい続けたら――あと十分ともたない。


 ……やるしかない!


「このっ!」


 俺は力を振り絞ってアーニーを弾き返す。

 そして、「あの」言語スキルを発動させる。

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