第41話 セスの過去【前編】
※次は17:00投稿!
「ちなみにだが……明後日のパレードが終わると、姫様とやらはアースダインを去ったりするのか?」
「だろうね。嫁ぎ先のバズリーに行くんじゃないかな」
「…………」
おやおや?
セスの表情がなんかおかしいぞ?
――もしかして、
「ねぇ、セス」
「あんだよ」
「今教えている言葉を伝えたい相手って……セレティナ姫なんじゃない?」
「! バ、バカ野郎! んなわけねぇだろ! 別にセレティナ姫のことなんてなんとも思っちゃいねぇよ!」
……なんてわかりやすいヤツなんだ。
こうして、モンスター界初のツンデレが誕生した――て、アホなこと言ってないで、
「俺としては、どうしてセスがこの言葉をセレティナ姫に送りたいのか、その理由を是非とも知りたいな」
「…………」
セスは照れ臭いのか、腕を組んでその場をうろうろと歩き回り、ようやく答えを出した。
「しょうがねぇ……誰にも言うんじゃねぇぞ?」
「わかっているさ」
そして、セスは語り出す。
なぜ、モンスターでありながらモンスターらしからぬ思考に辿り着いたのか――その理由とセレティナ姫との出会いの話を。
「俺が姫様に会ったのはもう随分前のことだな……ちょうど、今のおまえと同じくらいの年齢だった」
「今の俺と?」
というと……五年くらい前ってことか。
「あの頃の俺はまだ血に飢えた獣同然……人間なんざ嫌悪の対象としてか見られず、騎士団の連中を片っ端から叩き潰していった――あ、ここの国じゃないぞ。もっと遠い別の国にいた時の話だ」
そうフォローしたけど……やっぱり昔は普通にモンスターしてたんだな。
「ある日、俺は数匹の仲間と共に遠征中だったある騎士分団を襲撃した。――が、そのすぐ近くに別動隊が潜んでいて、俺たちはあっという間に全滅寸前まで追いやられた」
「それで……どうなったの?」
「生き残っていた連中は――俺を囮にして逃げやがったんだ」
「に、逃げたって……」
「俺は見捨てられたんだ。足に傷を負っていてスピードも落ちていたし、他の連中からしたら足手まといと判断したんだろうな」
「助けようともしなかったの?」
「そういうとこがいかにも人間らしい考え方だな」
セスは皮肉っぽくそんなことを言う。
「おまえたちの言葉を借りれば、モンスターっていうのは究極に打算的な生物だ。道徳とか倫理とか関係なく、本能だけですべてを判断する。他者を助けようと、自分自身を危険な目に晒すようなマネはしない」
そう言われたらそうか。モンスターが手を取り合って仲良く協力しながら人間を襲うなんてシーン……ちょっと想像できないもんな。徒党を組むくらいはするだろうけど。
だけど、まさかモンスターの口から道徳や倫理なんて言葉が出るなんて……その辺も誰かの影響を受けているのだろうか。
「恐らく、俺があいつらの立場でも同じ行動をしたろう。『ドジなヤツめ』と鼻で笑っていたかもしれない。或は、いい囮役になってくれたと感謝をしていたか」
「でも……実際自分がその立場になったら……」
「ガラリと心境が変わったよ。まあ、虫のいい話だよな。覚えちゃいないが、きっとそれまでも多くの同族を見殺しにしてきたのに、いざ自分がその立場になったらなんで助けないんだと怒るなんて……」
表情に変化はない。
だけど、内心は複雑なんだろうな。
自分で自分の罪を認めるのって、結構辛いものがあるからな。しかも、一度や二度じゃないってなれば……下手すると精神をやられるくらいショックだろうな。
「それからどうしたの?」
「命からがら、人間たちの攻撃を振り切って近場の森へ逃げ込んだ……が、そこで力尽きちまった。もう終わりだと腹をくくった俺は、最後に腹いっぱい水を飲もうと森の中にある泉に這いずっていった。――そこで、あの子に出会った」
「セレティナ姫だね」
「ああ」
セレティナ姫のことを思い出している時のセスの口ぶりはとても穏やかなものだった。それだけで、どんな関係にあったのか、なんとなく想像できる。
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