第26話 祭りの準備
その後の話をしよう。
グランさんに目をつけられたアレン・トレイトンは最後まで足掻いたみたいだったけど、実際に騎士団が旧鉱山へ調査に赴き、その実態を把握したことで早期の決着となった。
この結果、廃鉱山の管理を任されるほど国から信頼を置かれていたトレイトン商会の裏切りという信じられないオチがついた。
おまけに、身内であるはずの領地管理官まで抱き込まれていたらしい――その事実がもたらす衝撃はことのほか大きかった。
さらに、事件の背後には大陸にある某国が絡んでいて、旧鉱山で現場責任者っぽい人物の行方が分からなくなっているといった不穏な事実が新たに判明するのだが――それはまだちょっと先の話。
◇◇◇
俺が商会の裏の顔を暴いた次の日。
父上にはこっぴどく怒られるも、同じくらい盛大に褒められた。
母上は心労が増えるからやめてほしいとお願いされたので、今後は控えようと思う。
その日、俺と父上、そして今日は母上も一緒にリーン村へと来ていた。
実は、リーン村では今日、神木祭というお祭りが行われ、今はその準備が着々と進められていたのだ。
王都で仕入れてきた食材をふんだんに使った料理や一級品の酒が丸太をぶった切って作った即席のテーブルにお行儀よく並んでいた。
「凄いご馳走だ」
「つまみ食いするなよ、ハーレイ」
父上に釘を刺され、伸ばしていた手を引っ込める。
「そういえば、今日は特別なお客様がいらっしゃるって村長さんが言っていたけど……ハーレイが招待したんだって?」
「ああ、うん。そうだよ」
母さんの言う特別なお客様というのはもちろんレヴィング家の方々――実は例の事件解決後に、エルシーを通して招待していたのだ。
サーシャへ神木祭への参加を提案したのは俺だが、正直、ゾイロ騎士団長が了承を出す確率は極めて低いと考えていた。
いくら娘の恩人だからって、俺はいわばライバル関係にあるグルーザー家の息子。そう簡単にはいかないだろうと踏んでいたのだ。
それでも、伯爵は護衛をつけることを条件に祭りへの参加を認めた。
今朝、エルシーがわざわざそれを伝えに来てくれて、その一報を伝えてくれてから俺のテンションは上がりっぱなし。今も積極的に祭りの準備に励んでいる。
「はい。もうひとつできたよ」
「ありがとうございます! 早速飾って来ますね」
彫刻刀を手に、父上たちが切った木をランプの形に加工して村の子どもに渡す。
この森に自生する木にはある大きな特徴があった。
それは――非常に燃えづらいということ。いや、燃えづらいというかまったく燃えないんだな、この木。名前はたしかラディだっけ? どういう構造してるんだか。
ともかく、そうした独特の特性を持ったこの木を使って作るランプもまた、この村の特産でもある。照明用の発光石を覆う木製のランプシェードっていうなら見たことあるけど、ランプ自体を木で作れるのはこの木ならではと言える。
こうやって、村の人たちで作ったこのランプをあちこちに飾って明かりにするのも、この祭りを盛り上げる演出のひとつ。森の木々に感謝を奉げるって意味があるらしい。
「ハーレイ!」
ランプを作っていた俺を呼んだのは父上だった。
どうやら、頼んでいたモノを持ってきてくれたみたいだ。
「頼まれていた切り株を持ってきたぞ!」
父上を含めた複数人の大男たちが、巨大な切り株を神輿みたいに持ち上げている。その大きさは幅三mほど。いいね。イメージ通りだ。
「ありがとう! それはこっちに置いて!」
俺は父上たちに指示を出して切り株をセッティング。
「運んどいてから聞くのもなんだが……これは一体何に使うんだ?」
「本番のお楽しみだよ」
これは今日のサプライズゲストであるサーシャのための仕掛けだ。
喜んでくれるといいんだけど。
そうこうしているうちに夜が訪れた。
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