第5話 到着

 屋敷へ到着すると、大勢の使用人が集まってくる。

 ひとりひとりが「おかえりなさいませ」と頭を下げ、それからすぐに馬車から荷物を下ろしていく。

 すると、

「あら?」


 ひとりのメイドさんが、俺の存在に気づく。


「あ、あの……ハーレイ様?」

「…………」


 ここへ来てもまだ声が出ない。

 すると、そこにモイゼスさんがやってきて、「この子のことはあとで説明するから」と言って遠ざけた。

 それから、屋敷の中へと入ったのだが――てっきり、奥さんであるホリーさんのもとへ向かうと思ったのだが、どうやら違うようだ。


「まず、おまえに会わせたい人がいるんだ」


 そう言って、モイゼスさんはある部屋へと俺を案内した。


「ガスパル、遅くなってすまない」


 部屋に入るなり、モイゼスさんはそこの主と思われる人物の名を呼ぶ。


「ほっほっほっ! お帰りなさいませ、旦那様。待っている間、この陽気につられてしまい、ちょいとうたた寝をしておりましたわ」


 現れたのは白髭を蓄えた初老の男性で、名前はガスパルさんというらしい。


「悪かったよ。――悪かったついでにもうひとつ。今日の予定は変更だ」

「と、いうと?」


 ガスパルさんが首を傾げると、モイゼスさんは俺を彼の前へと連れだす。


「紹介しよう、ハーレイ。うちで庭師をしているガスパルだ」

「ハーレイ? ドノヴァン様のご子息がなぜここに?」

「話せば長くなるが……それより、以前言っていたアレをやってくれないか?」

「おおっ! そうでしたな! しばしお待ちください!」


 ポン、と手を叩き、小走りで部屋の奥へと向かうガスパルさん。

 何やら準備をしているようだが……気になっていると、モイゼスさんがそれを察して説明をしてくれた。


「ガスパルは元冒険者ギルドのスキル鑑定士でな。手に入れたスキルを身につけさせることができるんだ」


 あの人……スキル鑑定士だったのか。

スキル――魔法兵団が魔法を使うのに対し、騎士団の騎士たちはスキルを駆使して戦う。身体能力を向上させたりするなど、補助的な役割を果たすことが多いとされている。魔法兵団の人間は、それらを魔法で実行するため、スキルを手にすることはないのだ。

 だから、俺も今日までスキルとは無縁の生活を送ってきた。

 父は特にこのスキルってものを見下していたからなぁ。


 ――でも、そのスキル鑑定士に何をさせようっていうんだ?


「ほっほっほっ! 旦那様のご要望通り、以前の伝手を頼りに仕入れておきました」


 部屋の奥から戻ってきたガスパルさんの手には、水晶玉があった。


「ほぉ……それが例のスキルか」

「はい。お望みの品――言語スキルです」


 言語スキル……?

 聞いたことがない。

 しかし、モイゼスさんは「よくやった!」とガスパルさんの肩をバシバシと叩いていた。それを嬉しそうに受け止めていたガスパルさんだが、その視線はゆっくりとこちらへと向けられた。


「ハーレイ様……この言語スキルをあなた様に授けたいと思います」

「!?」


 まさかの申し出だった。


「ほっほっほっ! この言語スキルとは、元々商人たちが交渉を優位に進めるため、己の話術をより向上させる目的で使用されるのですが……あなた様の場合は、自然と会話ができるようにするため、この言語スキルを身につけた方がよいでしょうな」


 ガスパルさんはそう説明した。

 言語スキル……か。

 それがあれば、俺はもう言葉に詰まらなくていい――つまり、普通に話せるようになるってことなのか?


 もしそうだとするなら……是非ともそのスキルが欲しいと俺は強く願った。

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