第15話「ぺてん」
自転車でたどりついた先、あの河川敷、初めてミヤモトと出会った場所。
足がつったみたいに痛い。あぁ、この気怠い痛みがハイテンションから私を我に返すんだ。
周りを見渡す。すっかり日も暮れ、「また明日」とでも言いたいような冷たい空気が私を震えさせる。
——ミヤモトはいなかった
「まァ、こんなもんだよな」
自分を守るような言葉を吐いてみると、よけい虚しくなった。
半壊した自転車を川辺に止めて、ぼんやりと宙を見上げる。目を閉じて、季節の変化に身を溶かす。
そしたらなんだかさ……頭ん中がジィワァ~ってなって、手とか足とか首とか、汗がにじんで、冷たくなって、不快なのに、まるで頭ん中に液体ムヒの原液をぶちまけたみたいに、痛気持ちいい感覚で満たされて……
「あーーーーーーーーーーーーー」
って低い声を漏らした私は、発狂したフリでもしてるみたいに頭を掻きむしった。
それで、その後、ミヤモトはもういないんだな、と改めて理解して、帰路についた。
自転車は壊れていたのでググって出てきた怪しいリサイクル業者に電話をして、車で回収してもらい、電車で帰った。
——半月後
私はかつてのミヤモトと同じように、底辺VTuberとして活動を始めていた。
視聴者は……いないときのほうが多い。
それでも、だからこそ、私は私の中に潜って、言葉を紡ぐことができた。
自分の中の革命爆弾を探すみたいに……
「あー! 私はさ、学校に行け! って言ってくるヤツよりも、学校なんて行かなくてもいーよ! だなんてわかったようなことを言ってくるヤツが……嫌いだな……」
初めて投稿した、自己紹介動画の中の私は言う。
「まぁ私はさ、誰が嫌いとかどうでもいいんだよな……そんな時間あったら好きなことしていたいから」
「それにさ、人からなにか言われるのを待っていたってダメでさ……自分からガーーーー!! って気合入れて捕まえにいかなきゃすぐに……消えちゃうなって思ったんだ。チャンスとかそういうの……」
私は変われたと思っていた。
でもそれは、一緒に馬鹿なことをしてくれる人がいて、浮かれ腐っていただけのことで……
泣きながら踊ってくれた誰かさんに、なんか楽しい気分にさせられていただけのことで……
私はなんも変わってなかったんだな。
だからさ、私は——
「私は、凹んだり、悩んでる人がいたら、一緒に海でも行くぞ! 楽しむぞ! って声をかけられる人になりたいです。なにか別の楽しいことを押しつけて、泣いたままでも踊らせてあげられるような人になりたいです」
そんな、その場しのぎの嘘をつきまくって……
私もアナタも、バカバカしくなって、笑いすぎて泣いちゃえばいいんだ。
それでさ、私は——
「私は、優しい嘘をつくペテン師になりたいんです」
もう一人の私は、魂一つでそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます