DAY 45
「いった⋯⋯!!」
床にぶつかった激痛と共に、私の意識は繋がった。
お尻をさすりながら立ち上がり、状況を整理してみる事にしよう。
眼前には暗くてハッキリとはしないが、紫色の石で作られた部屋の中というのが分かる。それに少し見覚えがあって、懐かしく感じた。
私以外には誰も居ない、カロンも当然来ていない。
「全く⋯⋯勝手に始めるんだもんな⋯⋯」
独り言を呟いてから、本格的に動く為に、部屋の扉を開こうとした。
でも扉に手を当てた瞬間、感覚で記憶が蘇る。
そうだ、此処は、魔王城だ。
この作りの扉は何度も開けた覚えがある。
小さかった頃は取っ手を思い切り引っ張って、ようやく開いた記憶も古くない。
それにしても何故ここに? 疑念が頭の上を駆け巡るが、それを晴らす方法は見つからず、私はそんな状態で扉を開けた。
ここも記憶に新しいから分かる、一定間隔に付けられた火で照らされている、長い通路。ここを歩いていたら賊に見つかって、全員の性処理に毎日付き合わされて、挙句売りに出されたっけ⋯⋯。
あまり思い出したくない記憶も最近の事だが、私は恐れず通路を進み始める。
進んでいくうちに下へ降りれる場所まで来たので、下へ降りてみる。
すると微かにだが、賑やかな声が奥から聞こえた。
そこへ吸い込まれるように、私も足を運んでみる事にした。
ところでこんなにも綺麗な場所だっただろうか⋯⋯私が目覚めてからの魔王城は、もう少し荒れてたような⋯⋯。
「あっ⋯⋯この場所は⋯⋯」
賑やかな声は近くなり、そこで私は足を止めた。
賊がいる事は間違いない、私は⋯⋯少し恐れながら、しかしぶちのめす覚悟で、その扉に手を添えた。
でもその声を聞いた瞬間、考えていた事は綺麗さっぱり吹き飛ばされる。
「アハハ、まてまて〜! たべてやるぞちょうちょ〜! アハハ!」
「こ〜ら、パパの真似をしながら蝶々を食べません⋯⋯」
「え⋯⋯?」
途端に、心臓の鼓動は速くなる。
目の前に映るその光景は、私の空いた口を塞いでくれなかった。
「え〜、でもおいしいって、パパいってたよ? ママもいっしょにたべよう?」
「もう〜、そんなの食べません。お腹が空いたなら、ママがお菓子を作ってあげるから、ね?」
一言、一言、耳に入るたびに記憶が蘇っていく感覚があった。
私は子供の頃、確かにこの造られた庭でずっと遊んでいた。
そして、ママの作ってくれたりんごのお菓子が大好きで、よく食べていた。
「わーい! りんごのケーキ、ベレスだいすき! はやくつくろー! おー!」
ただひたすらに、唖然となった。
確かに、小さい角に赤い髪、青い肌の子供は私でしかあり得ない遺伝だったはずだ。
そうだ、パパとママの遺伝で、私はこういう容姿だと聞かされた事がある。
でも、誰に⋯⋯?
そして、ここはつまり、過去⋯⋯? 私は過去にやってきてしまったのか⋯⋯?
✳︎
ベレスさんが消えて丸一日経過してしまった。
戻る可能性も鑑みると下手に動くのは億劫だ。
圧縮空間装置、心だけ別空間へ移動させ、精神的側面から様々な経験を覚えさせてから、身体へ戻った際に瞬間適合を発生、精神から得た物を融合させ、短期間で自分の物とさせる試み。
身体ごと移動してしまうのは完全に予想外だ。
ベレスさんは恐らく今、自身が身に付けたい事に関連した空間へと身体ごと飛んでいるはずだ。
圧縮空間装置は、身に付けたい経験量によって掛かる日数は伸びるように設計してある。
ベレスさんは覚えが早いからすぐに習得して戻ってくるだろうと鷹を括っていたのは間違いだったのかもしれない。
いや、そもそも経験する量が桁違いなのか?
ベレスさんが一番身に付けたい物⋯⋯確かに簡単な知識や力などでは無いだろう。
そうなると、過去か? 心や身体はそんな物の為になら空間など簡単に越えていくと言うのだろうか。
確かにベレスさんには過去の出来事を体験する事が一番かもしれない、だが流石に挙動がおかしい気がする。一体どうなっているんだ。
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