DAY 38-1
魔法学校に通う少女、アンジェとの出会いの後、結局ベレスは森の洞窟でその日の夜を過ごし、明日を迎えました。
そして朝、寝ぼけ眼のままその辺の岩に座ってボーッとしていると、洞窟からアンジェの声が響き渡りました。
「おーい! 生きてるかベレスぅうう!」
ベレスは少しだけ驚いてから、ごしごしと瞼を擦って、アンジェの顔を確認しました。
「⋯⋯? ああ、アンジェか。どうしたんだ? こんなに朝早く⋯⋯」
寝ぼけるベレスにため息を一つついてから、アンジェは手に持ったりんごをベレスの方へ放り投げて、呆れ口調で話し始めました。
「⋯⋯どうせ今日も食べ物に困ると思ったからな。家からりんご、持って来てやった」
目の前に転がり込んで来たりんごを見るや否や、眠気が覚めていくベレス。嬉しくなって、笑顔でアンジェに感謝を口にしました。
「い、良いのか⋯⋯!? ありがとう、アンジェ!」
「別に⋯⋯ただの気まぐれだよ、気まぐれ。じゃあ、わたし学校行ってくるから」
「そ、そうか。でも、嬉しい。えへへ」
「⋯⋯そうかよ」
去り際に笑顔を浮かべて、アンジェは学校へと行きました。
✳︎
レグメンティアには無い、赤い髪。
折れてはいるけど、確かに存在を主張している角の跡。
どの種族にも無い、青い肌に白い目。
その特徴からして間違いなく、彼女は魔族だった。
りんごをねだりながら地面に倒れ伏して気絶した時はビックリしたけど、わたしの足は、気付けば町の方へと向かっていた。
少ない小遣いからりんごを一つ買って、森に戻る。そして、もう一度顔を見た時に、もう一度ビックリして身を引いた。
本物の魔族。ただ、外見を除けばわたしとあんまり変わらない、細くて小さい身体の女の子。
だから、このまま放置しておくのは可哀想だって、ちょっとだけ思った。だから勇気を振り絞って、彼女の頭を膝に乗せて、りんごを放り込んでやった。
眠ってたけど、口の前にりんごを差し出せばむしゃむしゃと食べてくれてたから、とにかく口一杯に押し込んでやった。
そんな、わたしと魔族の出会い方。
それはもう、普通とは程遠い物だった。つーかこんなに⋯⋯控えめに言って馬鹿とは思わなかった。
「ま、まほ⋯⋯? なんだそれは」
「もー! そっからかよぉお!!」
「⋯⋯? ご、ごめん⋯⋯」
魔王の娘の癖に昔の記憶が無い、昔は樹林だったクレーターを、アルター国から配備された坑道の目的も知らず、あまつさえ魔法も知らないと来た。
なんていうか、そこまで来ると見た目だけが魔族のレグメンティア人の子供だ。
「じゃあ、勇者の仲間の一人だった偉大なる賢者、イズン様の事も知るはず無いよな⋯⋯」
「創世録を読んでいる途中なのだが、そのような人物はまだ出て来ていない⋯⋯」
「創世録、ねえ⋯⋯。んで? ベレスはこの先どうすんだよ。ここにずっと居る訳じゃ無いんだろ?」
「ああ、そうだな。行きたいところもあるから、明日には出て行くつもりだ」
「そっか⋯⋯あのさ」
何を思ったのか、わたしが次に口にした言葉は、自分でも意外な言葉だった。
「どうせ何もないなら、魔法、学んでみるか? 放課後、この森でわたしと」
意外だったけど、理由はちゃんと分かる。
「良い、のか?」
「お前さえ良ければだけど⋯⋯」
それはこいつが、生きる理由を探す顔してたから⋯⋯。
「ああ。だから、それまでは頑張って生きとけよな、ポンコツ魔族」
そんな言葉を口にした後の、ベレスの、雲間が晴れていくような純粋な笑顔は印象的だった。
とことん魔族とは思えない、可愛い女の子の顔。
家に帰ってからも、その表情は忘れられずにいて──
翌朝、気付けばわたしはまたりんごを片手に持って、ベレスの居る森の方へと歩いていっていた。
放課後、魔族と一緒に魔法の練習。
憧れとは違う形だけど、その方がなんか、偉くなった気分というか、自分が周りより優位に見えて、ほんの少し気持ちが良かったんだ。
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