DAY37-1
ベレスは町の近くにある森の小さな洞窟の中を拠点にした後、数日かけて食べ物を探しましたが、そこには食べれる物など一つもありませんでした。
前までは空腹も耐えられていたベレスでしたが、メアトの所で食べ物に慣れた事と、先日の出来事で身体が急成長した影響もあってか、今のベレスには食べ物は欠かせない存在となっていたのです。
どうにかして空腹を満たさなければならない、しかし賊を恨むベレスに町から盗むという選択肢は取れるはずもありません。
「⋯⋯木って食べたら美味しいのかな⋯⋯」
飢えた状態は思考を狭め、その場に生えている木でさえ美味しく見えてきてしまうベレス。もう限界になって倒れ込んだ、その時でした。
ムニッとした柔らかい感触と共に少女の絶叫が森の中へ響き渡りました。ベレスの身体は森にいた少女の背中へ倒れ込んでしまったのです。
「ぎええええーーー!? ゾ、ゾンビ!? 魔族の!?」
「おなか⋯⋯」
「はあ⋯⋯?」
「お腹すいた⋯⋯りんご⋯⋯」
ベレスが助かるにはもう目の前の少女に縋る他ありません。ベレスは気絶する前にその一言を残して、その身を地面に落としました。
✳︎
「ア、アル⋯⋯」
「おや、ベレスお嬢様。如何なさいましたか?」
「これ、こわしちゃった⋯⋯」
「おや⋯⋯これは、ベレス様が生まれた際に、母上から託されたペンダントではありませんか」
「パパに、アルならなおせるかもっていわれたから⋯⋯」
「ふふ⋯⋯なるほど。それで私の所に⋯⋯はい、私であれば治すことが出来ますので、一度此方を預けて下さい。一日もあれば、再生が可能ですので」
「ほ、ほんと? あ、あり⋯⋯ありが⋯⋯あ⋯⋯」
「⋯⋯? どうされましたか?」
「えっと、ううぅ」
「ああ、お嬢様⋯⋯っ! 行ってしまわれた⋯⋯。まだ、壁は分厚いですね⋯⋯」
✳︎
「⋯⋯ぶほっ」
口の中一杯に詰められた物を吹き出しながら意識を取り戻したベレス。
城に仕えていたアルという人物の夢を見るのはこれで二度目です。一度目より進展があったようですが、ベレスは結局自分の気持ちを伝えられないまま、今回もアルという人物から離れてしまうのでした。
「アル⋯⋯?」
ベレスはそう呟きながらゆっくり瞼を開けると、オレンジ色の空を囲む木々の景色の中で、白い髪の少女が、ベレスの頭を膝に乗せて、赤いりんごを丸ごと口に放り込んでいました。
「口に近づければ勝手に食べるんだな⋯⋯どんだけ食いしん坊だよ、こいつ⋯⋯あっ」
目を覚ましたベレスに気付くと少女はすぐにベレスの頭を振り落として立ち上がって、木の棒を前に突き出しながらこちらを警戒し始めました。
「お、おおいお前! 近付くんじゃないぞ!? お前が魔族なのは、わ、分かってるんだからな!?」
ベレスもゆっくり起き上がり、服の汚れを払いながら魔法学校の黒い帽子を被った目の前の白い髪の少女に言いました。
「⋯⋯そうか。でも助かった、お陰で生きてる。ありがとう」
「は⋯⋯な、なに? 魔族がお礼とか正気か? な、なあお前⋯⋯ホントに魔族か?」
ベレスは少し考えてから、疑う少女の前で頭を晒し、折れた角を見せました。
「ん⋯⋯ああ、ほら。折れてはいるけど、私はちゃんとした魔族だ」
「うわ、マジだ⋯⋯マジの魔族の生き残り⋯⋯」
少女は口を開けて驚きました。
それはそうと、ベレスはそんな少女よりも空腹を満たすことの方が大事だったので、地面に落ちたりんごを拾い上げると少女に言いました。
「ところで⋯⋯このりんごはもう貰って良いか?」
「え、いや、えっと⋯⋯本当にま、魔族だとは思わなかったから、食べさせてやってただけというか⋯⋯その」
「なら、貰っていく。じゃあな、私はもう、関わらないようにするから──」
「あっちょ、ちょっと待て! 待ってくれよ!」
前回の件を引きずって少女の前から去ろうとしたベレスですが、その前に少女から呼び止められてしまいます。
「⋯⋯なんだ?」
「あー、えっと⋯⋯その⋯⋯」
「ん?」
何やらもぞもぞとしだす少女、ベレスは一言だけでも聞いてあげようと振り向きます。
「お前⋯⋯百二十年前の事、覚えてたりするのか?」
少女はおもむろに、勇者の時代の事をベレスに聞いたのでした。
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