ばけものの監視者
仲仁へび(旧:離久)
第1話
この世界に在る、大きな国。光の国と闇の国。
ちょうど二国の境には、大きな建物がある。
その建物の中には、一匹の化け物が住んでいるらしい。
窓辺からたまに見るのは、ただの一人の少女のように見えたが、その背中には真っ黒な羽が生えていたから化け物にちがいない。
普通の人間にはあんなものが生えていないからだ。
だから、その国境を監視している人間は、あれは異形だと結論付けた。
あの化け物は我等人間が住む光の国と、悪しきものが住む闇の国を結界で分断しているらしい。
その理由は一体?
あれが、何のためにそうしているか分からない。
古代ならまだしも、悪しき者達が弱体化しているこの時代では、我等の国の国土拡大の邪魔にしかならないというのに。
まだ理解できない点はある。
あの化け物は時々、よく分からない字で手紙を書いては、各地に落としているらしい。
風向きの関係で、闇の国にしか落ちないから、そちらの国に向けて出した暗号文なのだと推測した。
だとするとあれは人間の脅威となる存在だ。
早急に対処しなければならない。
私は詳しい調査を行うために、その建物に入ろうと思った。
けれど、風化によって入口らしき場所が崩れていたため大人では入れない。
だから、仕方なしに我が子である娘にその役目を託した。
我等のような大人では調査がままならない。だから、代わりにやってほしいのだ、と。
そう伝えて。
娘はうなずいて化け物が住まう建物へ入っていった。
半日ほどして戻って来た娘は、化け物と友好的な関係を結んできたようだ。
けれど、化け物が口にする言葉は理解できなかったらしい。
喜怒哀楽ぐらいしか分からないといった。
それから何度か娘は化け物の建物へと足を運んだ。
我等は、そのたびに様々な調査を指示した。
それで分かったのは化け物の弱点だ。
様々な実験を経て、ある特定の毒に弱いと分かった我らはさっそく化け物を倒すための策を練った。
国からの予算も降りたので、十分に対策が進められる。
なぜなら、あの化け物がいなくなれば、結界がなくなり、光の国に住む我らはもっと国土を広くできるのだから。
きっとこの国の繁栄が約束されているに違いない。
それにしてもあの化け物は不気味だ。
今まで持った少量の毒はほとんど聞かなかったし、娘に暗殺器具で殺させようとしても怪我の一つすらしなかった。
見た目の大部分が我等人間と似ていいるから油断すると情けを書けてしまいそうだったのが心配だが、あの異常性を知った今なら大丈夫だろう。
それから数日後。
我等に好機が訪れた。
化け物は風邪でもひいたのかわからないが、体調が悪そうだった。
我等は、今までに盛った中で一番強い毒を娘に渡した。
思えば短い戦いだった。化け物と人間の戦いは。
でもそれも、今日で決着がつくだろう。
我等は運命の神に祈りながら、娘が部図に帰ってくるのを待つことにした。
じりじりと時間が過ぎていくのを感じて待機していると、仲間の監視員が報告をあげてきた。
どうやら、化け物が飛ばした手紙を解読することに成功したらしい。
いまさらだと思いながらも、報告に耳を傾ける。
それはもう今の時代では使われなくなった古代文字で書かれていた。
手紙に書かれていたのはこんな内容だった。
「私はいつも一人ぼっちでさびしいです」
「だから話し相手になってください」
「一日でもいいから友達になってください」
「会うのが恥ずかしいなら、文通相手になってください」
「私は外に出られません。ずっと前にお母さんとお父さんと使用人さんを守るために、結界をはるお仕事をすると約束してしまったからです。」
「それでもいいなら、私とちょっとだけ遊んでくれませんか?」
「我儘はいいません。もし友達になってもかまわないというのなら、お返事を下さい」
ばけものの監視者 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
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