人魚姫 ~悪魔の取引き編~
こういうことは、一度話に乗ってしまうと、なかなか抜け出せないのが世の常である。
男の要求は次第にエスカレートし、ついに人魚姫も闇金のお世話になる。
「ええけど、返せるアテはあるんかいな? こっちかてボランティアとちゃうねん。ムリなら体で払ってもらうで。知ってるか? 魚のエラは、対であるんや」
「それなら、私の声と引き換えでどうかしら? 美しいと評判のこの声を差し出すわ」
「ほう、そらええな。お嬢ちゃん、なかなかええ声しとるやないか」
「取引成立ね! (ふっ。水中と空気中では、発声方法が違うのよ。水中用の声なんて、陸上で生活するようになったら必要ないわ)」
「せやけどお嬢ちゃん、そこまでして貢いで、見返りはあるんかいな? 男の愛が得られんかったら、最後は水の泡どころか
冗談はさておき、彼女は無事に下半身の手術を終えて、二本の脚ならびに付属品をゲットした。ところがここで二つの問題が持ち上がる。
まず、歩けない問題。
そりゃそうだ。人間の赤ちゃんだって、日夜訓練を積み重ねた末にやっとハイハイから二足歩行へと到達する。昨日今日足を手に入れた魚が、そう簡単に歩けてたまるか。
混線した運動神経と感覚神経が誤作動を起こし、歩こうとすれば激痛が走る。ただし後述のとおり彼女自身はしゃべれないので、これは本人談ではない。
そう、二つ目はしゃべれない問題。
手術時の全身麻酔の後遺症によるものか、はたまた水中生活を主体とする人魚にそもそも人間と同様の構音機能がなかったかは定かではない。
でもそんなことは大した問題じゃない。愛があればなんだってできる。
お姫様は歩けなくたって「お姫様抱っこ」という移動手段がある。彼女の脚は歩くためにあるのではない。開くためにあるのだ。
人魚姫はさっそく王子のもとに居候し子作りに励んだ。
だが、子供はできない。当然だ。人間と人魚の遺伝子が同じであるはずがない。
そして王子には、後継者をつくる義務があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます