第11話 水辺の王子生態調査


 さて、泉から現れた女神。


 輝く金色の髪、彫りの深い顔、そして華奢きゃしゃな肩……まで水上へ出てきて、危険を察知して引っ込んだ。


 泉のほとりに這いつくばる王子が、異様な熱のこもった目で凝視していたからだ。


 ここで、女神というキャラを想像していただきたい。

 まずは服装から。


 特殊な嗜好しこうをお持ちの方を除いて、ほとんどの方が思い浮かべるのは古代ギリシア風の白い布ドレスではなかろうか。

 ドラクロワの女神が真っ先に浮かんだ方は、立派な変態と認定しよう。


 そう、白い布をまとった女神が、から出てくるのだ。白は透過性が高い。王子の期待値が爆上がり中な理由は、もうお分かりだろう。


 女性の皆様は、どうか怒らないでいただきたい。

 王子が助兵衛スケベでなければ、成立しないおとぎ話は多いのだ。



 例えば『カエルの王子様』。


 あらすじはこうだ――


 ある日、泉のほとりで遊んでいたお姫様は、大好きな金の玉をなくしてしまう。あらぬ誤解を招かぬように、まりという表記にしておこう。


 そこに都合よく現れたみにくいカエル。鞠を見つけて来るのと引きかえに、姫に無理難題を吹っ掛け、最後は同衾どうきんまで要求する。


「ねえ、一緒に寝ようよぅ……」


 カエルがこれを言うのだ。キモい。おまえ「ゲコッ」以外の言葉、しゃべれたんかい。姫は断固拒絶するが、カエルは「王様に言いつけてやるぞぅ」と脅して強引に姫をベッドに誘う。


 のちに彼はこの件について「悪い魔法使いにかけられた呪いを解くため仕方なかった」と供述している。だが、そこに下心の入り込む余地がなかったと断言できようか。

 もちろんこれは反語である。


 そもそも、彼の言葉が真実であると裏付ける証拠はあるのか。最後にちょっとだけ出てくる王子の従者が口裏を合わせるが、嘘クサいことこの上ない。


 そう、つまり呪いをかけられてカエルにされていたなんて、彼のに違いないのだ。


 彼は気味の悪いカエルに扮して姫にあれやこれやを求め、泣いて嫌がる彼女の反応を見て楽しんでいた、生粋きっすいのドS王子だ。最後はイケメン王子かねもちの姿を現せば何でも許されると思っている、おとぎ話の典型的なパターンである。


 実際、突如現れたイケメンを見て、姫はこれまでのすべての非礼を水に流してあっさり結婚を決めてしまう。


 おとぎ話の世界では、草食系王子の需要は低い。



 話を戻そう。


 ちょうど女神も、覚悟を決めて浮上してきたようだ。

 ちなみにこの女神には特殊な防水処置ウォータープルーフが施されているので、ご安心いただきたい。


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