第9話 王子・危機一髪!


 身軽なハクロが先陣を切って、王子に追いつかんとしていた。

 赤松、そして出遅れたジャックもそれに続く。


 ところが、丘の下に待機していたのは王子の愛馬フェラーリだ。

 馬の背後に立つと危険だと習っていたハクロは、とっさに距離を置く。


 その隙に王子はフェラーリを発進させた。こうなっては、もはや徒歩では追いつけまい。


 王子の顔面に一瞬現れたニヒルな笑いが、すぐに凍り付いた。

 前を見ると、泉が広がっていたのだ。


 迂回してコーナーを攻めるか? いやしかし、思わぬ危険地帯が待ち受けている可能性もある。

 いかんせん、王子には土地勘がない。


 泉の周囲の危険地帯とは、すなわち泥濘ぬかるみのことだ。べつに馬の足がとられるのが心配なわけではない。

 この美しい顔に泥がつくくらいならば、甘んじてわが首を差し出そう。


 あ、ごめん。やっぱり今のは、撤回させて?


 振り返れば、ハクロが美しいフォームで疾走してくる。

 美人に追い回されるのはまんざらでもないが、できれば肘から下を横に広げて、ついでに内股ぎみにしてくれないかな。


 その後ろを、小人の赤松が短い手足でえっちらおっちら走っている。うん、頑張れ。


 ジャックも斧を振り回しながら驚異的なスピードで追いかけてくる。

 一見すると、小人が追われている。


 だがすぐに追い越し、王子に迫った。


 追いつめられた王子は手綱を握りしめ、馬上に身を低くした。

 さてはこいつ、このまま馬で泉を跳び越える気だ。


「させるかっ!」


 正義感の強いジャック・ザ・木こりが、ここで思わぬ行動に出た。手持ちの斧をブン投げたのだ。良い子はマネしないでください。


 裂帛れっぱくの気合と共にジャックの手元を離れた斧は、高速回転しながら王子へと迫る。


 このままでは文字通り首が飛ぶ。


 どうする王子!?


 いななく白馬。


 迫り来る斧。


 王子はとっさに飛び降りた。

 馬はそのまま走り去る。


 地面へとダイブする王子。もはや土汚れなど構っていられない。

 さもなくば、白い衣装が真っ赤に染まる。


 その頭上スレスレを、斧はなおもスピンしながら通り抜けた。


 ヒュンッ、ヒュン、ヒュン……ヒュゥン…………ドポン。


 速度を失った斧は、そのまま泉へと落下。


 王子は頭に手を当てて、頭髪の無事を確認するとホッと安堵あんどをもらした。どうやらザビエル・ヘアは免れたようだ。


 あのヘアスタイルのイケメン枠は、中世日本まで行かなければなかなか見つからない。


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