第1話 白雪姫・・・?


 陽当たりの良い丘の上。ガラスのひつぎに、美しい姫君が横たわっている。


 艶やかな黒髪、雪のように白い肌。

 唇はまだ血のように赤く、色あせぬ美しさは、ただ眠っているだけに見える。


 継母によって城を追われ、命を狙われ、ついにこの地に果てたという、あわれな姫君。今はもう、花と小鳥たちに囲まれて、安らぎの中にあった。


 そこへ一頭の白馬が通りかかった。

 そう、世界中の子供たちが待っていた、みんなの憧れスーパーヒーロー、王子様の登場だ。


 本家の物語では最後の最後に登場してオイシイとこだけ持っていく、メインか脇役か微妙なキャラ。亜流の本作では、みなさんのご期待にお応えして一話目から登場しちゃうぞ。


 王子はマントをひるがえし、愛馬のフェラーリからひらりと降りると、颯爽さっそうと丘のいただきを目指す。


 そして棺のかたわらまで来ると、そっと片膝ついた。

 ただし白い衣装が汚れてしまわないように、膝をちょっとだけ浮かしておくのがポイント。いわゆる「ランジ」スタイルだ。


 ちなみにこのガラスの棺のように、中が透けて見える構造のものを「スケルトンタイプ」とも呼ぶらしいが、前述の通り棺の中身はまだスケルトン(骨)にはなっていないのでお間違いなく。


 間近で見る姫君は、ますますもって美しい。

 ショートボブの黒髪に縁どられた、あどけなさの残る顔。うっすら開いた唇の隙間からは、今にも吐息がこぼれて来そうだ。


 白い肌が引き立つ鮮やかなブルーのドレスは、補色効果を狙ったか、スカート部分はイエローというツートンカラーの切替え構造。

 丈の短いふんわりパフスリーブは、史実よりも男性の願望に忠実なものと思われる。その下から伸びる細くなまめかしい腕は、胸の前で合わせられ祈るような形に組まれていた。


 この美しい姫君を救えるのは、自分しかいないのだ。王子は俄然がぜんやる気が沸いた。口臭チェックも怠らない。


 そしていよいよ、棺の中へと顔を近づけて、


「姫……」


 そのとき、姫の身体がビクンと跳ねた。


 漆黒の長いまつ毛が震えたかと思うと、ゆっくりと持ち上がり、黒曜石のごとき美しい瞳が現れる。


 ふいに起き上がる姫君の胸元から、ドレスがはらりと落ちた。


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