第一話 社長来訪

あの後色々な人が借金を取り立てに来た。事情を説明するとまだ僕が未成年なのを考慮して、支払いを十八歳までにしてくれた。いい人達だなぁ。

・・・けど現実問題それまでに払えるかだよなぁ。しかもこれ高校いける?一応受かったけど保護者今いないよ?お金も払えないよ?

・・・辞退届け出すかなぁ。

そんなことを考えていると

ピーンポーン。

どうやらまた人が来たようである。

「今行きます。」

そう言い、僕はインターホンを確認し、扉に向かう。

ガチャ。

「どちら様でしょうか?」

立っていたのは三十前半と見られる男性だった。髪は整えられており眼鏡をかけ灰色のスーツに身を包んでいる。明らかに借金の取り立てに来る人には見えない。紳士のような立ち振る舞いをしており間違いなく上流階級の人間であることが伺える。

謎の人物は僕の声を聞くと

「ああ、すまない。少し話したいことがあってね。とりあえず中に入れてくれないだろうか。」

と、優しい声で言った。

見知らぬ人を入れるのには普通抵抗を覚えるものだが僕の場合連日借金取りが来ていたので最早抵抗はなかった。

「どうぞ。」

僕は扉を開け男性を招き入れる。入ったのを確認すると扉を閉め鍵を回した。

こういうところに来たことがないのか男性は辺りを見渡していたが僕が奥に向かおうとするとちゃんと後についてきた。

「それで。僕に何の御用でしょうか?」

黒テーブル越しに向かい合うと僕は早速切り出した。・・・なんかもう大半のことでは動じないようになってる。

すると男性は名刺を取り出しこう名乗った。

「私の名は音羽 宗一(おとわ そういち)。株式会社、音羽の社長をしている。」

・・・はっ?

えっ?今この人なんて言った?

「音羽」?音羽ってあの旧皇族の?

というか音羽宗一って音羽家現当主であの総合小売店をしている大企業、音羽の社長の?

今頭の中で繰り返している言葉は半分以上目の前の男がそう名乗っていたのだが、そんなことには気づかず、僕はただただ繰り返した。

「すまないが話に移っていいかな。」

側から見ると混乱し、あわあわとさぞ滑稽に見えたであろう僕の意識を現実に戻す。見るとニコニコとこちらを見つめていた。

音羽さんは僕が戻ってきたと見るや早速切り出してきた。

「私が君にするのは借金の取り立てじゃない。取引だ。」

「取引・・・ですか?」

「そうだ。その内容は・・・」

話について行こうとなんとか相槌を打つ。そしてそれに大きく頷くと音羽さんはとんでもないことを言い出した。

「君の借金を肩代わりしよう。」

呆気に取られた。更なる混乱。いやまた頭痛が。

僕は最近なんでこんなのばっかなんだと頭を抱え己の不運を呪う。しかしこれが魅力的であり現状の打開策になることからどうにか言葉を紡いだ。

「ありがたいお申し出ですが音羽さんと僕には何の接点もございません。いったいどのような理由で僕を助け、どのような見返りを求めるのですか?」

僕は藪蛇かとビクビクしながら切り込んでいく。

音羽さんは腕組みし、僕を鋭く見据えた。

「実は・・・」

ゴクリ。

唾を飲む音が聞こえるほど、場は静寂に、緊張に包まれていた。僕は心して一言一句逃すまいと待つ。これから紡がれる言葉を。

音羽さんは重々しい口を開けた。

「———娘が可愛すぎる!」

「へぇっ?」

僕が間抜けな声を出すと、ダムが決壊したかのように眼前の大人は捲し立ててきた。

「私の娘が久遠高校に受かってな!それはそれは大喜びしておった!私もそんな娘を誇らしく思っていたんだが、・・・ある日気づいてしまった。」

「気づいた・・・とは?」

僕は恐る恐ると聞く。すると今度は目をカッと開け(控えめに言って怖い)語った。

「あの子の様子を私に伝えてくれる子が居なくなるじゃないかと!」

怖いって言ったね。前言撤回。ただの親バカだった。

「考えても見てくれ!久遠高校は国内有数の名門。そうそう合格できる人間はおらん!故に今まで送り込み、学校での様子を報告してくれる子がおらんのだ!」

涙混じりにそう語る紳士。いやもう紳士は似合わないな。まぁいいや。ってあれ?久遠高校ってたしか・・・

「そこで君だ!君は久遠高校に受かっておりちょうどいい弱みを握っておる!借金に加え三年間の学費、衣食住払うからどうか、どうか久遠高校に通い私に娘の様子を伝えてくれんか!?」

すごい剣幕で詰め寄られ肩を掴まれる。って痛い痛い痛い!痛いし怖いし親バカだしなにこれ!?

「わっ分かりました。お引き受けします。」

「!引き受けてくれるか!」

安堵したからなのか肩から手を離してくれた。跡残ってそう。ただまぁ。

「しかしその程度でそこまでしていただくわけには参りません。大変ありがたいお申し出ですが少し条件を厳しくしていただきたい。」

すると丸めた手を顎に当て困ったように考え込んだ。

「うーむ。私としてはバランスの取れた丁度良い条件だと思うのだが・・・。」

これでバランスが取れてるって・・・。お金持ちすごい。いや社長がこんな金銭感覚狂ってて大丈夫?

「うーむ。そうだ!ならば娘の執事をやってもらおう。ちょうどいなくてな。」

「・・・よろしいのですか?」

「うむ!これから同じ学び舎に通うのだしな!だが、くれぐれも変なことはせんでくれよ。」

「もっ、もちろんです。」

そんなに大切な娘さんなのに、と疑問を浮かべる僕をいなすと笑顔でこちらを見据える。

「それではよろしく頼む。」

「はい。」

右手を差し伸べられ握手をする。自分の不幸を呪う前に、今はただこの出会いに感謝した。

こうして僕は社長令嬢の借金執事となった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき

初めましての方は初めまして。そうじゃない方はお久しぶりです。琴葉刹那です。

さて、僕の高校は明日からテストが始まります。中間なかったし最初のテストは児戯だったし高校入って初めての本格的なテスト。怖い。ん?勉強しろって?嫌です。やりたくありません。いっ、一応学年三位ですし?きっと大丈夫です。赤点なし十番内は狙えるはず。多分。閑話休題。それではまた次回、ばいばーい。

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