キャットシーカー
山本ゴリラ
起
あなたは冒険者だ。
冒険者とは冒険者組合に所属し、組合が紹介する様々な
組合が冒険者に紹介する依頼は多種多様だ。駆け出しであれば薬草の採集や、
ベテランの冒険者ならば、
しかし、あなたはそんな華々しく、派手な冒険とは無縁の存在である。
何故ならば、あなたは冒険者としてデビューした駆け出しの頃からずっと、ほぼ同じ種類の依頼ばかりを請け負っているからだ。
冒険者としてのキャリアや位階は中堅を超え、ベテランの域に差し掛かってはいるものの、戦闘系の依頼など片手で数えられる程度しか請け負った事がない。
そんなあなたが毎日のように請け負っている依頼。それは猫探しである。比喩でも隠語でも何でもない、読んで字の如く、迷子の猫ちゃんを探して飼い主の下に連れて帰る仕事だ。
あなたは冒険者になってからの数年間、毎日のようにその仕事をこなしていた。冗談のような話だが、本当の事だ。
今日もあなたは朝から、冒険者組合に顔を出した。入ってきたあなたの姿を見た組合の建物内にいた冒険者達は、あなたを視界に入れないように目を逸らした。あなたは他の冒険者達から避けられていた。
そりゃあ彼らから見れば、あなたは何年も猫探しばかりしてる変態である。さもありなんと、あなたは特に気にも留める事なく、受付のカウンターへと向かった。
「おはようございます、
あなたの姿を認めた顔馴染みの受付嬢が、笑顔を浮かべて挨拶をした。猫探し人。それが、あなたの通称である。今では本名よりも、その名で呼ばれる事のほうが多い。
「今日も指名依頼が入っておりますが、いかがされますか?」
またか、とあなたは呆れたが、受けないという選択肢はない。受付嬢から依頼書を受け取れば、そこにはいつもと同じ依頼人からの、いつも通りの依頼が書かれていた。
【猫探しの依頼】
依頼人:領主の娘
依頼内容:逃げ出した猫の探索および捕獲
報酬:猫1匹につき金貨1枚
備考:本日逃げ出した猫は3匹
備考以外のところは毎回共通である。あなたは「今日は3匹か、少ないな」という感想を抱いた。ちなみに、これまでの最高記録は8匹だ。
あなたと領主の娘は幼馴染だ。あなたは平民だが、幼い頃に彼女と出会って以来、仲の良い友人関係を続けている。
出会いのきっかけは、やはり猫であった。領主の娘は子供の頃から猫が大好きで、屋敷で猫を飼育していたのだが、彼女は不幸にも猫に避けられやすい体質のようで、飼っていた猫が屋敷から逃げ出してしまったのだった。
逃げ出した猫を追いかけて街に出た領主の娘はそのまま猫を見失って、自身もまた迷子になった。あなたは偶然そんな場面に出くわして、泣いている彼女を放っておく事が出来なかったあなたは、猫を探して彼女の下へと連れ帰り、その後彼女自身を良心の下に送り届けた。
その件があって以来、領主一家から気に入られたあなたは、娘の恩人であり、友人として領主一家と家族ぐるみで親しい付き合いをしていたのだった。
そんなあなたの幼馴染である領主の娘は、成長して立派なレディになった今でも猫が大好きで、そして相変わらず猫に避けられ、逃げられてはあなたに泣きついていた。あなたが冒険者になってからは、毎日のように猫探しの依頼を出してくる有様である。
そんなポンコツで手のかかるお嬢様だが、あなたにとっては数少ない大事な友人であり、長い付き合いの幼馴染だ。拒否するという選択肢は持ち合わせていなかった。
あなたは受付嬢に、依頼を請け負う旨を伝えた。
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