第44話 お家デート②



 先輩は手際よく野菜を切り分けている。

 僕は昆布でだしを取るくらいしかしていないけど、なんとなく共同作業感があっていい雰囲気だ。



「あ、伊万里いまり先輩、沸騰してきましたよ」



「それじゃあ、昆布を取り出しておいてください。私の方で味付けしちゃいます」



 そう言って先輩は酒やみりん、醤油などを取り出して鍋に少しずつ加えていく。

 手際が良過ぎて目分量にしか見えないけど、入れる量はしっかりと調整しているようであった。



「野菜とキノコを入れてっと。藤馬君、冷蔵庫から蟹を取り出して貰えますか?」



「はい」



 言われた通り冷蔵庫を開けると、すぐに大皿に盛りつけられた蟹が目に入った。

 どうやら鍋用に切り分け済のようだ。



「これですね。もう入れちゃうんですか?」



「野菜がある程度煮えてからです。まあ、すぐに火は通りますので、もう少し待って下さいね」



 蟹を目の前にするとつい気がはやってしまう。



(ゴクリ……)



 こんなに立派な蟹を食べれるなんて、かなりの贅沢な気がする。

 本当に、見事な甲羅だなぁ……



「っ痛!?」



 興味本位でツンツンと付いていると、その鋭いトゲが指に刺さってしまった。

 指先にプツリと血の玉が出来上がる。



「藤馬君!?」



 それを見た伊万里先輩が、火を止めて慌てて近づいてくる。



「だ、大丈夫ですよ。ちょっとつついてトゲが刺さっただけですので」



 子供のようなことをして怪我をしたのが恥ずかしく、つい指を隠してしまう。

 しかし先輩は、それを逃がすまいと手で掴み、そのまま口に咥えてしまった。



「っ!? 伊万里先輩!?」



 柔らかい舌が、流れる血液を優しく舐めとっていく。

 ちゅうちゅうという水気のある音が、静かなリビングに淫らに響いた。



「そ、そんな、汚いですよ!」



 僕はなんとか指を引き抜こうとするも、伊万里先輩が腕をロックして強く吸いついているため離すことができない。

 やがて全ての血を舐めとり終えたのか、今度は全体に巻き付くように舌が這いまわる。



「っ!?」



 これは、最早血を舐めとるという行為を超えたものであった。

 うごめく舌が、軟体生物のように指を這いまわり、同時に優しく吸引される。

 初めはちゅうちゅうとだけ聞こえた水音も、既に吸う以外の音を奏で始め淫靡さを増していた。

 そのあまりの快感に、引き離そうとしていた力がどんどんと抜けていく



(な、なんだ、これ……。こんなに、気持ちいいだなんて……)



 快感に腰が砕けそうになっていると、ちゅぽんという音ともに僕の指が解放される。



「気持ち良いですか? 藤馬君」



「き、気持ちは良いですけど、なんで、こんな……」



「この前の、お返しですよ」



 この前の、というのは例の罰ゲームで伊万里先輩の耳を舐めしゃぶった時のことだろう。

 あの時は、先輩の反応があまりに良かったため、僕もついつい熱が入り舐めるのに熱中してしまったのだ。



「私、あの時、凄く気持ちよかったんです。本当に、びっくりするくらいに……」



 確かに、僕が舐め終えたあとの伊万里先輩は、なんと言うか、完全に出来上がっていた。

 色っぽいを通り越して、最早サキュバスか何かと見紛う程のエロさを醸し出していたのである。

 だから、伊万里先輩の言うことはよーーーーくわかるのだが……



「で、でも、あれは伊万里先輩が勝った報酬なんですし、それにお返しを貰うなんて、おかしいですよ」



「おかしくありません。私は、藤馬君と気持ちよさを共有したいんですからね。……だから、こうして練習しておいたのですよ」



 そう言って、伊万里先輩は再びはむりと僕の指を咥えこんでしまう。

 今度はより強く、深く咥えこまれ、口内の粘膜全てを擦り付けるように上下に動いていく。

 上あごのザラザラした感触、頬肉の柔らかな感触、そして蠢く舌の艶めかしい感触が、ダイレクトに指に伝わってくる。

 その動きは、必然的にある行為を想像させ、僕の理性を瞬く間に溶かしていった。



「い、伊万里先輩! は、激しすぎます! これじゃ、僕……」



 本当にマズい。もう何度も体験しているマズいの中でも最上位だ。

 今回ばかりは隠しようもなく、僕の下半身は完全にギンギンになってしまっていた。



「本当にヤバイですって! お鍋食べれなくなっちゃいますから!」



 その声が届いたのか、伊万里先輩の動きがようやく大人しくなる。



「……それでは、これくらいにして、絆創膏を貼っておきましょうか」



 そう言って、僕の指はようやく解放される。

 もはや指は完全にふやけており、それが余計に淫靡さを感じさせていた。



「続きは、またあとで」



 伊万里先輩はそう言って、部屋の奥へと行ってしまう。

 恐らく、絆創膏を取りに行ったのだろう。

 しかし、僕の精神状態はそれどころではない状態までヒートアップしていた。

 何故ならば、またあとでと口にした伊万里先輩の顔が、信じられないほど妖艶に見えたからである。



(ゴクリ……)



 声も出せなくなった僕は、ただ生唾を飲み込むことしかできないのであった。


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