第23話 いざ、トイレへ……
(どうする……!?)
長時間
速やかに決断をしなくてはならないんだが……、だが……
(ええい、ままよ!)
僕は先程
そして案の定、僕の指はポップコーンごと咥えられてしまった。
(大丈夫だ! 気を強く持つんだ僕!)
麻沙美先輩の時は意表を突かれたのと、覚悟が足りなかったからこそ一気に飛びかけてしまったが、今は違う。
覚悟さえ決めていれば、なんとか耐えられるハズだ……!
「んっ……」
なんとも悩まし気な声が聞こえた気がするが、気にしてはいけない。
今の僕は、岩の上で座禅を組む修行僧のようなものだ。心頭滅却すれば火もまた涼し!
『あんっ……』
ちょっと待て! 何故そんな声を……、と思ったら、映画の方が濡れ場に突入してるぅぅぅぅ!?
目を開けた瞬間映ったのは、濃厚なキスシーンであった。
舌を絡め合う姿はとても扇情的で、他のお客さん達からも息を呑むような気配が伝わってくる。
その上、映画館は音響も良いせいか、水気のある音がサラウンドに響き渡り聴覚を刺激してくる。
(こんな状況で触覚まで刺激されたら……)
そう思った瞬間、僕の指がより深く咥えこまれる。
「☆#$%&wっ!?」
咥えられた二本の指の間を、柔らかな舌が往復していく。
その滑らかなのに少しザラザラとした不思議な感触が、くすぐったさと気持ちよさを合わせたような絶妙な快感を生み出していた。
このまま指が溶けてなくなってしまうと錯覚するほどに、伊万里先輩の口内は熱く、柔らかい。
(なんで、こんな……、さっきと、違う……?)
麻沙美先輩にされている時も気持ちよかったが、伊万里先輩のはまた少し違った快感を引き出していた。
舌や唇の感触や、口内の凹凸、それに温度……
僅かな違いではあったが、それが絶妙に作用しているのか、新たな快感を生み出しているのである。
どちらが気持ち良いかとかは一概には言えないのだが、どちらが好みかと言えば……
「あむ」
そんな僕の反応を窺っていた麻沙美先輩が、不意に僕の指に食いついてくる。
(ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!?)
僕の両腕は、クロス状態で完全にロックされてしまった。
そして、快楽のダブルパンチが襲ってくる。
(不味い不味い不味い! これは本当にマズいよ!?)
端から見れば間抜けにしか見えないだろうが、絶体絶命の大ピンチである。
このままでは、本当にエライことになってしまう。
そうなる前に、なんとかしなくてはならない……
(しかし、どうすれば……)
強引に引き抜きたいところだが、今は腕ごとロックされているせいでそれができない。
いや、本当に本気でやれば抜け出せるだろうが、それをやるとポップコーンや飲み物が零れて大惨事になってしまうのだ。
(二人が息継ぎするのを待つか……?)
いや、腕がロックされている以上、それは難しいかもしれない。
そもそも鼻で息をすればいいだろうから、息継ぎなんかしないかもしれないし。
「っはぁ……」
と思ったら、伊万里先輩の口から悩まし気に息が漏れる。
何故だか興奮しているようであり、息が荒くなっているようだ。
しかし、状況が好転したワケではない。
麻沙美先輩の方は全く口を離す様子がないし、段々と吸う力が強くなっているようだ。
伊万里先輩は伊万里先輩で段々と慣れてきたのか、舌の動きがリズミカルかつイヤらしくなっている気がする。
僕の限界は、刻一刻と迫って来ていた。
(考えろ! 僕は先輩の攻めを耐えきるため、これまでも努力してきたじゃないか……!)
日数にすれば大したことはないが、自分でも馬鹿らしいと思えるくらい真剣に考えてきたことである。
何か、何か対策があったハズなんだ……
色々な防御方法を、これまでだって……っ!?
その瞬間、僕の脳裏にマッサージをした日の記憶が思い浮かぶ。
(そうか!)
攻撃は最大の防御……
あの時は失敗に終わったけど、今なら!
最早余裕の残されていない僕は、即座に行動に出る。
「っ!?」
伊万里先輩の舌の動きが停止する。
されるがままだった僕が、動き出したからだ。
(よし、行けるぞ!)
僕は、咥えられた人差し指の腹で、伊万里先輩の上あごの辺りを優しく擦りあげる。
伊万里先輩の反応は劇的で、完全に動きを止めてしまっていた。
そのままの勢いで、今度は歯茎、そして舌の裏側といった感じで刺激していく。
「っ! っ! ひぅ!?」
ほんの数秒程の攻撃で、伊万里先輩の拘束を緩めることに成功した僕は、腕を引き抜き、そのまま麻沙美先輩の腕を掴む。
「麻沙美先輩は流石ですね。僕の攻撃に、ほとんど動じなかった」
「……そんなことはないさ。私はただ、されるのも愉しんでいただけだよ」
「そうですか。ま、それはそれとして、僕は失礼させていただきますね」
「おや、どこへ行くつもりだい?」
僕はそれに答えず、無言で席を立つ。
マナー違反だが、それどころではないのだ。
(いざ、トイレへ……)
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