第14話 月岡先輩は本当に女子なのだろうか?



「☆#$%&wっ!?」



 月岡先輩に耳を咥えられ、声にならない悲鳴を上げる。

 僕の耳は『耳そうじ事件』で非常に敏感になっている為、そんなことをされてはたまったものじゃない。


 そんな僕の反応に周囲の人達が訝しげな視線を向けてくるが、月岡先輩が上手く死角に入っているせいで何をしているかまではわからないようである。



「つ、月岡、先輩っ! 本当に、駄目ですって……」



 そんな僕の言葉が届いたのか、月岡先輩は最後にチュッチュと音を立ててから耳を解放してくれる。



「ふぅ……、ご馳走様。ちゃんと手入れがしてあって、なかなか美味しかったよ」



「お、美味しかったじゃありませんよ!? なんてことするんですか!?」



「別に、大したことじゃないだろう? こんなのはコミュニケーションの一環じゃないか」



「そんなコミュニケーションをとるのは、世界中どこを見ても月岡先輩くらいしかいませんよ!」



 コミュニケーションで耳をしゃぶるなんて国や地域があったら嫌過ぎる……



「ふむ。まあ、それはいいとして、どうやらそれなりに開発が進んでいるようで何よりだよ。私が開発してしまっては、伊万里の楽しみを減らしてしまうからね」



「なんなんですか、その心配りは……」



「当然の配慮だよ。まあしかし、今後の方針については要相談だね。何せ君はいささか魅力的過ぎる」



 そう言って月岡先輩は再び唇をペロリと舐める。



(おかしい……。絶対にこの人おかしいよ……)



 この人と比べれば、初瀬先輩のエロ度なんて大したことないように思えてくる。

 少なくとも、先輩は出会ってすぐに耳をしゃぶってくるようなことはなかったし……



「しかし、こうなってくると私も少し自制しなければいけないね。ひとまず、腕を組む程度に留めておくとしようかな」



「ひとまずってなんですか!? いや、腕を組むのもやめてくださいよ!?」



「そう言わないでくれよ。私は伊万里と違って胸もそんなにないし、可愛いものだろう?」



 僕の拒絶をものともせず、月岡先輩は強引に腕を絡めてくる。

 確かに初瀬先輩とは違い、ゴワゴワとした感触が伝わってくるが、それでも女子に胸を押し付けられればドキドキしてしまう。



「っ……、ふぅ……。抱き心地も悪くない……、いや、肘の高さ的に大分具合がいいな……」



 月岡先輩は僕の腕に胸を擦り付けるようにして、息を悩まし気に荒げる。

 そのあまりの色っぽさに、僕の顔は一気に熱くなっていく。



「な、なんて声出すんですか……。流石にマズいですって!」



 僕は小声だけど強めに月岡先輩に耳打ちする。



「別に、今は私が愉しんでいるだけだし問題無いだろう?」



「ありますよ! 僕が何かしていると思われるじゃないですか!」



「……ふむ。ただのオ〇ニーなんだが、確かにそう勘ぐられる可能性もあるね」



 そう言って、月岡先輩は僕の腕に胸を擦りつけるのをやめる。

 しかし、腕自体は解放してくれなかった。



「っ!? ていうか、今、なんて言いました!?」



「オ〇ニーだよ?」



 月岡先輩はなんでもなさそうな顔で、その単語を口にする。

 僕の中の常識が、また一つ音を立てて崩れ去った。



「おや、女子の口からオ〇ニーという言葉が出るのがそんなに不思議かな?」



「ふ、不思議ですよ! 普通恥ずかしがるものでしょ!?」



「まあ、そういった需要もあるけどね。実際、私も可愛い女子に恥じらいながら言われたらソソるものがあるとは思う」



「……だんだん先輩が女の子なのか、自信が無くなってきました」



「……そこまで小さくはないと思うけど」



「いや、胸の話ではなくてですね……」



 一言二言の会話のやり取りだけで、妙な疲労感がこみ上げてくる。

 ただのキャッチボールのはずなのに、返ってくるボールが全て変化球って感じだからだろう。



「……ふむ。しかしどうあれ、女子でないと思われるのはいささか不本意だなぁ。……よし、少し付き合ってくれ」



 月岡先輩はそう言うと僕の腕を引っ張ってどこかに連れていこうとする。



「ちょ、ちょっと月岡先輩!? どこに連れていく気ですか!?」



「なぁに、ちょっと君に、私が女であることを証明しようと思ってね」



 その言葉に、僕は嫌な予感を感じて冷や汗を垂らすのであった……




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