何が彼女を殺したか
惟風
①
私立の
林探偵事務所に訪れた依頼人の口から聞くまで、京一の記憶からも消えかかっていた。
「
依頼人の
「あんなに元気で明るかった娘が自殺するなんて!」
重苦しい雰囲気に似つかわしくない大声を張り上げたのは、自称“京一の助手”、
緑の黒髪と呼ぶにふさわしいロングヘアを高い位置でポニーテールにまとめ、彼女がオーバーな仕草で喋るたびに毛先が揺れる。濃く縁取られた大きな瞳は真っ直ぐに京一を捉えていた。
そもそも、今回依頼人を連れて来たのは舞美だった。由香里とは幼馴染みで、二人とも誠神高校の卒業生ということだ。
応接ソファで由香里の隣に座って、舞美は京一に熱弁を振るおうと身を乗り出す。
「すまないが、僕は伊集院さんから話を聞いているんだ。」
舞美は不服そうな顔をして口を閉じ、ソファに座り直した。京一は依頼人に向き直る。
「で、その妹さんの自殺の理由を突き止めてほしい、と?」
「はい、そうです。」
テーブルを見つめながら由香里が蚊の鳴くような声で答えた。
「遺書のようなものは見つかっていません。飛び降りる直前に私に電話をしてきたんですが、『ごめんなさい』と言うばかりで……どうして謝るのか、聞くことはできませんでした。」
その日のことを思い出したためか、由香里の目から涙が一筋伝った。ハンカチで静かにそれを押さえる。
「何か思いつめるような出来事が起きて、発作的に死を選んだのですかね。」
「同じようなことを、警察の方にも言われました。飛び降りた時の状況的にも、事故や他殺の可能性は低いと。自殺の理由までは、突き止めてもらえませんでした。でも、前日まで全然変わったところなんてなくて、すごく元気そうにしてたんです。理由を知ったところで、梨花はもう戻って来ません。けど、どうしても知りたいんです。あの娘が最期に何を思っていたのか。」
乾いた唇を噛み、由香里はそれきり黙ってしまった。
横で見ていた舞美が、捲し立てる。
「梨花ちゃん、明るくて優しくて友達も多くて、別にいじめられてるとかも無かったし、由香里ともおじさんおばさんとも仲が良かったのに。どうして自殺なんて!」
「交際している人はいなかったのですか?」
京一が舞美を無視して尋ねると、由香里は顔を上げた。
「……どうでしょう。少なくとも、私には話してはくれませんでした。」
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