132話 本心

 那奈さんに告白されてから考えていた。

 今後俺はどうするべきなのか。

 彼女達とどう向き合うべきなのか。

 

 考えても、考えても、答えは出ない。


 やっぱり、誰か1人を選んではっきりさせるべきか。

 いやいやあの中から俺が選ぶなんて畏れ多い。


 じゃあ誰も選ばず、このままの関係でいる?

 それが一番理想だけど、でも、そんなことをしてもみんな納得しない。


 なら、逆にみんなに嫌われるようなことをする?

 いやいや、みんなに嫌われるなんて俺のメンタルが持たない。

 それに並大抵のことじゃ、みんなの好感度は下がらないだろう。



「クソォォォォォォ、どうしたらいいんだぁぁぁ!!」


 部屋の中で、掛け布団を被りながら叫ぶ。

 

 結局、今の俺では彼女達と向き合えないんだ。今日西園寺さんにデートに誘われたが、行きづらくて、朱音先輩に代わりを頼んでしまったし。


「最低だ……」


 このままじゃ本当のクズになる。

 やっぱり、彼女達の気持ちに正直に答えないといけないな。

 よし、一人一人俺が思っている気持ちを考えてみよう。


 ベッドの中で俺は彼女達のことを考え始めた。


 まずは西園寺さん……。


 西園寺さんとの出会いから俺のモテ期は始まったんだよな。

 はじめはグイグイきて怖かったけど、でもすごくドキドキしたな。

 生まれて初めて告白もされた。

 それに俺は西園寺さんにはじめてのチュウもされた。

 清楚な顔して意外と大胆なんだよな。

 あと料理もうまくて、この前作ってくれたビーフストロガノフは美味しかったな。


 モデルで性格も良くて、料理もできる。

 俺には本当に勿体ないくらいだ。

 なのに……出会ってこの約1年、ずっと俺を好きでいてくれた……こんな気持ち悪い俺を……。


 何だかそう思うと心が熱くなる……。


 とまだ答えを出すのは早いな。


 香乃……。


 俺の幼馴染みで、地元にいる時はいつも一緒だった。

 でも俺が地元を出てからは音信不通になって、数年ぶりに再会をした。

 真っ直ぐで単純な所は相変わらずだった。それと俺を好きだと言う気持ちも相変わらずだった。


 数年ぶりに会ったあいつはすげぇ、綺麗になっていて驚いた。

 急に幼い頃の約束持ち出して求婚してきた時は驚いたけど、でも今でも俺のことを好きでいてくれたのは正直嬉しかった。


 それにまさかほのかちゃんのコスプレがあんなに似合うとは思わなかった。

 あの時は正直やばかった。

 

 あいつとの生活は騒がしい毎日だけど、でもきっと飽きないんだろうな。

 想像するだけで楽しそうだな。


 次に那奈さん。


 お隣さんで面識はあったけど、軽く挨拶を交わす程度だった。

 でも隣から聞こえてくるアニメの音で、いつかこの人は語り合いたいと密かに思っていた。まさかあんな形で語り合うとは夢に思わなかったけど。

 初めて会ったあの日、ホテルに泊まったんだよな。そんで誤って俺が那奈さんの胸を触ったんだっけ。

 あのおっぱいの感触は今でも忘れない。


 いつもオドオドしている人だけど、でもそこが妙に可愛いと感じていた。

 それと那奈さんはとにかくアニメとかの話が合って、話に夢中になって一晩明かしたこともあったな。

 那奈さんは俺を亡くなった弟さんと重ねて見てたとは言ったけど、俺としては話し合うオタク友達として那奈さんと接していた。

 でも熱海の時に告白してきて正直ビックリした。

 それと同時に本当は那奈さんのことを意識していた自分の存在にも驚いた。

 

 叶うことならこの先も那奈さんとはアニメの話をしていきたい。


 星川…….。


 星川の初めの印象はあんまし良くなかったな。みんなの前では優しいのに、俺の前だけ冷たくて何より後輩なのに俺のことを舐めていたな。

 でも、あいつとの仕事は案外退屈しなかった。話もしてくれるし、逆に乗ってくれるし、口喧嘩も沢山したが、その分笑話も沢山したな。

 あいつとの偽装デートも楽しかった。

 新鮮で何よりあいつ自身が楽しそうで、俺も何だか楽しくなっていたんだよな。


 京都で巫女グランプリに出ていたのは驚いたな。まさかあいつの実家が巫女の名家なんて。

 星川の巫女姿、めちゃくちゃ萌えたな。 

 あいつが夜、巫女服で俺の寝室に来た時は心臓が止まるかと思った。

 一緒に踊りを練習したのも今思うと良い思い出だ。

 普段は憎たらしいけど、でもそんなんでも俺への思いは真っ直ぐで、そんな星川を見ていると心が揺らぐ時があるんだよな……。

 高校生なんだし、もっとまわりのイケメンと恋愛をすればいいのに、なんで俺なんかと……でもあいつの思いはぶっちゃけ嬉しかった……。


 最後に朱音先輩。


 熱海で再会した時は本気で驚いた。

 もう会うはずがないと思っていたから。

 だけど久しぶりに会ったけど相変わらずマイペースで、何考えているのかわからなくて。

 でも俺はきっと大学時代からそんな先輩のミステリアスな所に惹かれていたのだろう。

 大学の頃から一緒に話すのが楽しくて、思わず同じサークルに入ってしまっていた。

 それくらい俺は先輩のことが当時は好きだったんだと思う。

 だからこそあの別れは心が痛んだな。

 それがいいと思ってやったことだけどでも、後悔したのも事実だった。

 

 でも先輩は何も変わってなくて安心した。

 いや、すげぇ淫乱で積極的な部分な変わっていたけど。

 全裸で俺に迫った時は本当に理性が飛びそうになるほどやばかったな。

 ギリギリで耐えたのは奇跡だった。


 まあ、本当に色々と危ない先輩だけど、俺の好きだった先輩のままだった。

 また先輩と色んな所に行きたいな。


 って……………!!

 

 うわ、なんだこれ!! 

 一人一人考えてみたけど、俺ここまでみんなのこと好きだったのか! 

 何だかきめぇー。

 クソ! 答えを決めるどころからさらに分からなくなってんじゃねぇーか!

 クソどうしたらいいんだ!

 

 本当に俺はどうしたら良いんだ!!

 

 誰か! 誰か!

 俺に答えをくれ!

 俺を助けてくれ!!


「クソ、俺はどうしたらいいんだぁぁぁぁ!!!」


「うるせぇ!!」


 隣のおっさんが罵声を浴びる。

 この際おっさんでいいや。


「おっさん! 俺はどうしたらいい! どうしたら彼女達を幸せにできるのか、教えてくれ!」


 そう壁に向かって聞くとおっさんはバンと思いっきり壁を叩く。


「うるせぇ! そんなの知らねぇ! てか他人に答えを委ねるな!」


 一喝されてしまった。

 確かにこの大事な答えを他人に求めるのは間違っているよな……。


「ただよ……」


「おっさん?」


「彼女達はお前が見繕った答えよりもお前の本心を言ってもらうことを望んでいるんじゃないのか?」


「俺の本心?」


 俺の本心……そうか。みんな常に本心を俺にぶつけてきた。それはつまり俺の本心を聞きたかったからなんだ。

 本心を知るためにみんな本心を曝け出したかったんだ。

 それがもしかしたら——。


「答えはもうあんだろ。だったらさっさといけ。もうこちとらお前のうめき声を聞くのはうんざりなんだ。ちゃっちゃと決めにいけよ」


 そう壁越しにおっさんが言った。

 不意に相談したけどよっぽどらしい答えが返ってきて、ちょっと引いてる。

 でも、おっさんありがとよ!


「はい!」


 俺は部屋を飛び出した。

 

 ちゃんとはっきり伝えなければ!!

 俺の想い。

 俺の気持ち。

 そして、俺の答えを!!!


 彼女達に自分の本心を知ってもらうんだ!!


 俺の最初で最後の恋愛が始まる!!!

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