118話 ボーリングのピンが倒せない
俺の放った全力のかめはめ波!
勢いよく、真っ直ぐと!!
真っ直ぐと……。
レーンの端へ……。
ガタンと……。
ガター。
「嘘だドンドコドン!!!」
俺はその場で倒れ込んだ。
「神原くんの投げ方、とても独特的だね……」
引き攣った顔で那奈さんが言う。
「くくく、全国大会に優勝した小学生の投げ方です。今回は失敗しましたが、次は必ず成功させます」
「いや、その投げ方はもうやめた方がいいと思う!」
恥ずかしそうにしながら強く言う那奈さん。
周りを見ると一斉に俺たちの方を見ているようだった。
確かに珍しい投げ方だから目立つのは当然か。
人に見られるのは俺も好きではないし、ここは普通の投げ方でやろう。
次は那奈さんの番。
言っちゃ悪いが那奈さんってインドアタイプっぽいし、こういうアクティブな遊びは苦手そうだな。
ま、ガターになっても盛大に盛り上げてやろう。
そう思って眺めていた。
だがしかし!
那奈さんは真っ直ぐとした姿勢でボールを持ち、ピンを見つめた。そして、誰が見ても"すげぇ!"と思うような綺麗なフォームでボールを投げた。
まさに黄金の長方形を描いているようだった。
その黄金の回転をしたボールは海○先輩が放つブーメランスネークのようにとてつもないカーブを描きながら、ピンの真ん中を見事仕留めた。
"ストライク"!!!
レーンの上にあるモニターがデカデカと表示する。
「え……?」
一瞬の出来事に俺の思考は固まった。
「やった」
小さく那奈さんがそう呟いた。
「す、すげぇー!!」
心の底からの言葉が出た。
「すげぇーよ那奈さん! というかボーリングめちゃくちゃうまいじゃないですか! 久しぶりって言うからそんな上手くないものかと思いましたよ。いやーー那奈さんの凄味とマラソン大会一緒に走ろうと言われて置いてかれた並の裏切りを今感じてます」
「い、いや……別に裏切った訳では……それにたまたまだよ」
「たまたまじゃ、あんな黄金回転はできないっすよ! スティールボールランレースに出なきゃ出来ない技ですよ! あれ!」
「レースは出てないよ……。ただ、一時期仕事帰りによく一人でボーリングに行っていたからそこで腕を磨いたのかな?」
謙遜しながらも嬉しそうに照れる那奈さん。
OLの嗜みでできる技でもないと思うが……まあいいか。
「そうなんすか。あ、いえい!」
そんな那奈さんに俺はハイタッチを求めた。
ストライクが出たからハイタッチするものだと俺の辞書に書かれていたからだ。
「あ……うん」
小さくハイタッチを交わした。
「よし! 俺も負けてられねぇーぜ!」
あの黄金の回転……那奈さんにできて俺にできない事はない。レッスン3……回転を信じろ!!
ゴゴゴ……ゴゴゴ……。
「いけぇー!!」
が。
"ガター"
だめ。
「く! 次だ!」
その後も那奈さんのすごい回転は続き、ストライクを連発する。
一方、俺は……。
"ガター"
"ガター"
"ガター"
"ガター"
何回やっても、何回やっても、ボーリングのピンが倒せないよ。
あの回転何回やってもできない。
うしろに下がって助走つけてもいずれはガターへ吸い込まれる。
かめはめ波も試してみたけど、真っ直ぐ進まなきゃ意味がない。
だから次は絶対倒すために、俺は滑り台だけは最後まで取っておく。
「だめだこりゃ……」
「ふふ、ははは」
ガターを連発する俺を見て那奈さんが盛大に笑った。
「そ、そんな笑わなくても……」
「あ、ごめんなさい……でも違うの。ただ楽しいなって思って……」
楽しくて笑ったのか。
だったらむしろ嬉しい限りだ。
俺の思惑はまずは成功したとも言えるしな。
「楽しんでもらえたなら何よりです」
「うん……ありがとう」
笑顔を俺に向けた。
そんな那奈さんみてドキッとしたのは言うまでもない。
「さ、さあ! ボーリングはここまでにして! 次はスポッチャ、スポッチャしましょう!」
「うん」
ボーリングでの恥はスポッチャで取り戻す!
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