117話 どんな時でも全力に!

 那奈さんをマルチの手から救ったが、しかし、なんでだ?

 しっかり者の那奈さんがあんな見え見えなマルチに引っかかるわけがない。

 何か抱えているのかな?


「那奈さん……悩みとかあったら俺でよければ、聞くっすよ」


「神原くん……」


 那奈さんは恥ずかしそうにモジモジとし始める。


「悩みという悩みではないんだけど……」


「はい……!!」


「え、えと……」


 真剣に見つめると、那奈さんの顔が徐々に赤くなっていく。


「ご、ごめん!! ちょっと言えない……」


 そう言い顔をふせる。

 一体なんなんだ? 今の反応見る限り悩んでいるのは確かなのに、どうして俺に言えないのだろうか。

 そんな重い悩みなのか? 

 まああまり、顔をつっこまない方がいいが、このまま放置も出来ないし……それに……。


 俺は那奈さんのことをどう思っているのか。自分の気持ちとしっかり向き合わなければ!!


「那奈さん、この後時間あります?」


「え?……うん、あるけど」


「だったらこれから俺と遊びません?」


「え……」


・・・・・・・・


 オタクの俺が選ぶ、遊ぶ場所……。

 誰もがアニメショップだったり、ゲーセンだったりカラオケと思うだろう。

 しかーし! それは二流だ。二流のオタク……いや男に過ぎない。

 自分が楽しければ相手が楽しいという道理はない。

 かと言って相手を楽しめるために相手に合わせるのも気を遣われてしまい、純粋に楽しめない。

 誰かと遊ぶということは二人で楽しくなければならないのだ。


 それプラス今回の目的は那奈さんのリフレッシュがある。

 二人楽しんで尚且つ、リフレッシュしてもらう場所……最大公約数で導き出した俺の答えは……!!


「ここ……?」


「はい!」


 那奈さんを連れて俺が訪れたのは複合エンターテイメント施設!!

 "バウンドワン"!!

 ボーリング、カラオケ、ゲーセン、それにスポッチャと一つの建物で全てができる夢の場所。

 陽キャ陰キャ問わず誰もが楽しめる。

 ここなら那奈さんもリフレッシュできるだろう。


「意外だった……遊ぶって言うから神原くんのことだから秋葉原だと思ってた……」


「いやいや、秋葉原は一人で楽しむ場所ですから。まあ那奈さんとなら行ってもいいかもですけど、今回はこの"バウワン"で遊びましょう」


「……」


 那奈さんが少し考え込む。

 あれ? バウワンはまずかったか? 

 急に連れてきたのは迷惑だったか……ちょっと不安に思い始めると。


「……うん! 楽しみ!」


 満面の笑みでそう答えた。

 まるで子供のような笑顔にギャップ萌えを感じたのは言うまでもない。

 

 早速中に入り受付をした。  


「まずはボーリングでもしますか」


「神原くん、誰かと来たことあるの?」


「いや、今日が初めてです」


「え?」


「え?」


 お互い顔を見合わせた。

 そう、先程まであんなにバウワンを推していたが、今日来るのが初めてだった。

 だってそりゃあそうじゃん。俺の地元バウワンなかったし、大学の時も行くような相手いなかったし、京也を誘っても男二人で行くのは無理と真顔で言われたし……俺は純粋にボーリングとかスポッチャがしたかった。インドアの俺だってバウワンに憧れを持ったりする。子供心はいつだって胸にあるんだ。そして、今日ようやく念願のバウワンデビューを果たせる。那奈さんのリフレッシュを名目としてな!


「と、とにかく、やりましょう!」


「う、うん」


 靴をレンタルし、言われたレーンへと向かう。

 平日の昼間ということもあり、俺達以外の客は少なかった。


「へぇー。ボーリングするのに靴も変えなきゃいけないんですね〜〜」


「あれ、神原くん、ボーリングも初めてなの?」


「はい。那奈さんはやったことあるんですか?」


「う、うん。でもやるのは久しぶりかな」


「そうですか。おっまず俺のターンからですね!」


 受付時に登録した自分の名前がレーンのモニターに表示される。

 俺は10ポンドのボーリング球を取り、レーンに立った。


「神原くん……投げ方とかわかる?」


 後ろで那奈さんが聞いてきた。だが、


「大丈夫っす! やったことはないけど、なんとなくわかります!」


 そう言い、並び立つ10本のピンをジッと見つめた。

 初めてだが、ここはいっちょストライクを狙いに行く。

 まあ、細かいことはわからないが、恐らくやれるはずだ……ボーリングはやってきてないが投げ方のフォームは何度も練習した。子供の頃から何回も……いつか"でる"のではないかと信じて……!!

 大丈夫……俺はやれる!


 少し重いボーリング球を両手で横に持ち、俺は腰を低くした。

 そして……。


「か〜〜〜め〜〜〜」


 気合いを入れようと掛け声を出す。


「は〜〜〜め〜〜〜」


 さらに助走をつけて、ステップしながら前に出た。


「波ぁ!!!!!!!」


 レーンの直前で止まり、ピンに向かって思いっきりボールを放った!!


 これが俺の全力のかめはめ波だ!!

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