オタ女に恋は無理らしい件について
116話 将来の夢と親孝行というワードが来たら気をつけろ
色々あった夏も終わり秋がやってきた。
秋は好きだ。
可もなく不可もない感じがして、ちょうどいい。
そんな秋の日のとある休日のお昼
俺はいつものように家で秋アニメを垂れ流しながらガンプラを作っていると。
「ん?」
那奈さんから、"今暇?"というLINEがきた。
久しぶりの那奈さんからの連絡だ。
思えば熱海以降会ってない気がする。
暇ではないが無碍にすることもできないし、一先ず、暇ですと言っておくか。
すると、すぐに家のインターフォンが鳴った。
「ごめんね、突然」
扉を開けると那奈さんが立っていた。
久しぶりの那奈さん……前まではオドオドしていた感じだけど、どこかシャキッとしている。服装も派手なオレンジ色のワンピースだ。なんでだろう。
「あ、いえ。どうしたんすか?」
「ちょっと神原くんにぜひ聞いてほしい話があるの。今から近くのファミレス行かない?」
「え、あ、良いっすよ」
女性からのお誘い。だが、少し嫌な予感がする。
俺の危険察知センサーが鳴ったが、無碍にすることもできないので、着替えて俺は那奈さんとファミレスに向かった。
ファミレスの席に着いた途端、那奈さんがメニューを渡す。
「神原くん、何にする? ここは私が持つよ」
「いや、それは悪いっすよ」
「大丈夫、私が誘ったんだし。なんでも頼んじゃって」
あまりに人に奢られるのは好きではないのだが(京也みたいなタイプは別)しかし、那奈さんの気持ちを無碍にはできないしな。
「それではお言葉に甘えて」
お互い注文する。
お昼ご飯はまだだったが、無性に甘い物が食べたかったので俺はチョコバナナパフェを注文した。
那奈さんはコーヒーだった。
「パフェうめぇ」
わんぱく坊主のごとくパフェを頬張っていると、那奈さんがジッと俺を見つめて、
「神原くんってさ親孝行とかしてる?」
と聞いてきた。
「親孝行すか?」
嫌の予感がする。
再び俺のセンサーが鳴った。
「いやーーどうでしょう。全然してないっすね……」
「そうなんだ。私もこの前までは何もしてこなかったんだけど、やっぱりそれじゃあダメだと思って、最近仕送りとか送っているんだよね。両親には色々と迷惑をかけたからさ恩返しがしたいんだよね」
「へ、へー。そうなんすね。立派ですね」
ワンアウト!
良いことは言っているんだけど、それを言う那奈さんの目がガチだ。
「立派だなんて……そんなことないよ。神原くんは親孝行したいとか考えてないの?」
「うーん。まあできるものならしたいんですけど、なかなかお金に余裕がなくて……親の誕生日には決まって"かたたたきけん"は送っているんですけどね」
「ふーん。そうなんだ〜〜。あ、じゃあ神原くん将来の目標とか夢とかある?」
ツーアウト!
ファミレスでこの手の会話の流れは完全に悪いぞ。
ただ単に意識が高くなったのかと思ったが、今の那奈さんはどこか胡散臭く思える。
「夢……ですか。そうですね……明確なものは特にないですが、いつか逆シャアのジオラマとか作ってみたいですね……」
「そうなんだ。すごいね。私はいつか自分でお店を経営したいと思っているんだよね」
「そ、そうなんすか。すごいっすね」
那奈さんがまるで別人のように変わってしまっている。
自己肯定感が増しているのはいいことだけど、だけど……なんかそれは正しい進化ではない気がする。
メタルグ○イモンではなくスカルグ○イモンって感じだ。
暗黒進化している感じがしてならない。
不安を覚えながらパフェを食らっていると、那奈さんがコーヒーを一口飲み、再び口を開く。
「神原くんが、親孝行とか将来について考えているなら……」
その次の一言で俺の不安は確信へと変わった。
「私がやっている簡単な資産運用のやり方教えてあげようか!」
「はい!! スリーアウト!!! チェンジ!!!」
俺は思わず声を出した。
那奈さんは目を丸くして俺を見つめている。
「ど、どうしたの? 神原くん?」
「那奈さん、大丈夫? うまい話に騙されてないか?」
「私は別に騙されてないよ。ただ、最近高校の同級生と再会して、その時に教えてもらった資産運用の話がすごく得するものだったから神原くんにも教えてあげようと思ったの。あ、これ見て」
そう言い一枚の紙を取り出し、俺に見せる。
そこにはいかにも胡散臭いセミナーの受講者を募る内容が書かれていた。
「このセミナー、私も参加したんだけど、資産運用のやり方とかとてもわかりやすかったの。"先生"の言った通りにお金をなんとかコインに変えるだけでまさかこんなに貰えるとは思わなかった。まあ実際お金が入るのは先の話だけど。でも確実に儲かる仕組みなんだよ! だから神原くんもやらない? セミナーの参加代と投資のお金ではじめに3万円ほどかかるけど、でも1ヶ月ですぐ取り戻せるから実質ただ、いやプラスなんだよ! どうかな?」
「那奈さん……」
俺はそのチラシを受け取り、そして
ビリビリ
目の前で破り捨てた。
「え……? 神原くん?」
俺の行動に驚いている那奈さん。
そんな那奈さんに俺は、
「目を覚ませ!!!!!!」
本気で叫んだ。
「資産運用とかはよく知らんけど、でも那奈さんは今100%騙されている! こんな簡単に儲かるわけがない! もしそうなら今頃みんな金持ちだ! 世の中にうまい話なんてないんだ! 簡単に手に入ったお金に意味なんてない! そんなのすぐに溶けてなくなる! 地道にコツコツ確実に稼いだお金は身から離れない。だから目を覚ましてくれ! いつものオドオドしていて、自己肯定感が低い那奈さんに戻ってくれ! たのむ!!」
全力で訴えかけると、生き生きとしていた那奈さんの瞳が徐々に暗さを取り戻していく。
どうやら正気に戻ったようだ。
「そうだ……そうだよね……ハハ」
「那奈さん」
やつれていく那奈さんの顔を見てホッとする。
それでこそ那奈さんだ。
それにしても一体那奈さんに何があったんだ?
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