105話 オタクは見た

 星川のばあちゃんに客間へと案内された。


 8畳ほどの畳部屋で壺と掛け軸が置いてある。

 なんか地元のばあちゃんを思い出すな〜〜。

 座卓の上にはお茶のセットとマイナーな菓子が置いてある。

 そうそうこれこれ。ばあちゃん家と言ったらこのわけわからんお菓子だよな。よく食べてたぜ。


「ご自由にお使いください。食事は夜の7時頃、お持ちいたします。それではごゆっくり……」


 ばあちゃんと星川が部屋を出ようとする。


「あれ、星川はどこに?」


「私は———」


「湊は明日に向けての練習がありますので……いくよ湊」


「は、はい……」


 ばあちゃんに無理矢理連れていかれた。

 その時の表情はどこか嫌そうで、星川がしんどく見えた。


「湊ちゃんも大変だね……」


「はい……」


 これはあくまで俺の想像だが、というかほぼそうだと思うが、星川の奴、あのばあちゃんに無理矢理巫女グランプリに参加させられているんじゃないか?

 あの怖そうなばあちゃんだ。きっと逆らえなかったんだろう。

 今まで連絡が返って来なかったのも、ばあちゃんの圧によるものか……。

 しかし、しかしだ。

 それを知った所で部外者である俺達に何ができる?

 星川を心配してここまで来たのはいいが、本当に迷惑だったんじゃないかとここに来て思う。


 俺達と再会した時の星川の嫌そうな顔がそれを物語っていた。

 

 俺だって自分の家のことに他人が首を突っ込むのは嫌だしな……。


 今更になって京都まで来たのめちゃくちゃ後悔してきたぞ。


「それでいついく? ゆーくん」


 朱音先輩が俺の顔を覗く。


「いついくってどこに?」


「どこって決まっているじゃん。湊ちゃんの所。巫女の大会の練習しているんでしょ? 見に行こうよ」


 あの怖いばあちゃんを前にしてもこの人すげぇーな。

 しかし、ちょっと見てみたいかも。

  

 恐怖よりも好奇心が勝った。


「よし、いっちょ行ってみっか!」


 俺と朱音先輩は客間を出て、屋敷を捜索した。

 すると……。


「それでは、やってみない湊」


「はい」


 大広間っぽい所からばあちゃんと星川の声が聞こえた。


「ここっぽいっすね」


「みてみよう」


 俺達は襖を少し開けて中の様子を見た。

 

 中ではジャージ姿の星川がばあちゃんの前でゆっくりな動きをしていた。


「何やってんだろう……」


「舞じゃないか?」


「舞? サ○ライズ初の萌えアニメですか?」


「いや、普通のやつ。そっか決勝戦では舞を披露するんだね」


 舞か……ダンスは苦手だな……。


「そこ違う!」


「痛っ!」


 ばあちゃんは鋭い声と共に持っていた扇子で星川を叩いた。


「うっわ……」


「バイオレンスばあちゃんやん……」


 あまりの光景に俺と朱音先輩はばあちゃんをみて引いてしまった。


「何度言えばわかる! そんな舞踊では優勝なんてできない!」


「別に優勝にこだわらなくても……」


 そう星川が言った途端、もう一発扇子で星川の肩を叩いた。


「今年はもう優勝しかない。私が巫女だった時は毎年優勝してたのに、あなたの母やあなたの世代になってからは数年に一回優勝する程度、星川の名も廃れてしまった」


「それは……」


「一から教えるしかないかね……決めたわ。この夏が終わったらあんたをこっちへ戻す」


「え……!!」


「うぇい!!」


 思わず声が出てしまった。

 

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