106話 時の加速〜タイムロストプロジェクト〜
星川が京都に帰る。
つまりバイトを辞めるだと……。
星川がバイトを辞める……
"セーンパイ"
いつもからかう星川の顔が脳裏に浮かんだ。
そ、そんなこと……。
「そ、そんなこと!! 許されるかァァァ!」
「ちょっとゆーくん!?」
俺は襖を思いっきり開けて中へ入った。
「せ、先輩!?」
「あなた方は……」
俺達を見て驚く二人。
しかし、そんな二人に向かって俺は勢いに身を任せて言った。
「星川が京都に戻すのはやめてください!」
「盗み聞きとは関心しませんね」
ばあちゃんが静かに呟く。
「勝手に盗み聞きしたのは謝りますが、でも星川が京都に戻ること考え直してもらっていいすか?」
強く言った。震えた手を握りながら。
するとばあちゃんは、
「これは私達の家業の問題です。部外者が口を挟まないでいただけたい」
冷静に言葉を返した。
「ぶ、部外者って……」
「それとも……あなたは湊と特別な関係でも?」
「「は!?」」
星川とかぶる。
確かにこれまでの言動を見ると疑うのもごもっとも。変に勘違いされている。
しかし、ここはあえて、逆にそう言って乗り切るのも手なのかな。
「ふふ……」
視線を感じ思わず振り向くと朱音先輩が不敵に笑っていた。
やばいやばい。俺の敵は後ろにもいた。言葉を間違えば後ろからも刺される。
な、なんて答えれば……そうか!
「おばあちゃん! 私と先輩はそんなんじゃ……」
「はい!」
星川が弁解する前に俺は返事をした。
「え……?」
星川が顔を赤くしながら振り向く。
だが。
「星川は俺にとってかけがえのない職場仲間です」
「な、なんだ」
星川が小さく呟いた気がしたが今はどうでもいい。
「そうですか、でしたら関係ないことです」
「関係大有りです!」
声を荒上げ、強調させた。
ばあちゃんは少し驚いたのか目を大きく開けて俺を見た。
「いいですか。こいつがいなくなると俺がめちゃくちゃ大変になるんすよ! 今回だって急に帰省したせいで、その穴埋めめちゃくちゃ大変だったんですから! 普段二人でやるレジ業務も一人でやらなきゃいけないし、本の発注とか返品処理とか、はたまたお客様対応とかも! こいつが抜けたせいでみんなに皺寄せが来たんすよ! それにこいつ、妙に客受けいいから、いなくなって売り上げ下がったって言って店長も機嫌悪くなるし! 何より……」
星川を一回チラ見した。
こいつにも俺の今の気持ちを伝えとかなくてならない。
「仕事中つまらないんすよ! 張り合いがないというか、なんかモチベーションが上がらないすよ!」
「先輩……」
「星川は仕事はサボるわ、手を抜くわ、からかってくるわで手を焼く後輩すけど、でもこいつと仕事しているとあっという間に定時になるんです。ほらよくあるでしょ、楽しい時ほど時間が早く感じること。俺はこの現象を"タイムロストプロジェクト"と呼んでいるんですけど。そのタイムロストプロジェクトをいつも発動してもらうためにも星川にはやめて欲しくないです! だから……だから……考え直してください!」
最後の勇気を振り絞り言った。
なんか途中からよくわからないことまで言った気がしたが、この際なんでもいい。
星川にはまだ東京にいてもらわないと困る! みんなにとっても……主に俺にとっても!!
「先輩……そこまで私のことを……」
「ふふ、ゆーくんかっこいい!!」
星川も朱音先輩も目をキラキラさせながら俺を見ていた。
だが、ばあちゃんは違った。
「わかりました。そこまで言うならいいでしょう……ただし!」
俺に向かって背筋が凍るような冷たい視線を送っていた。
「明日のグランプリに優勝できたらね」
な、何だと!!
「優勝できたら来年以降も参加しなくて結構です。しかし、もし優勝出来なかったら湊にはこっちへ帰ってきてもらいます」
「ば、ばあちゃん……ちょ待てよ」
「これは決定事項。それでは私は失礼します」
そう言い、ばあちゃんは部屋を出ていった。
「ま、ま、ま……まじかよォォォォォ!!!」
グランプリまで残り18時間……果たして星川は優勝できるのか……!!
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