102話 京都編ってなんか盛り上がるよね!

「ようやく来たね! 京都!」


 駅に着いてテンションが上がる朱音先輩。


 意外にも東京から京都は近かった。

 まさか新幹線で2時間で行けるとは……切符は高かったけど……。

 

「はぁーーあ」


 思わずあくびが出てしまった。

 現在朝の8時。

 始発で来たおかげでめちゃくちゃ眠いぜ。


「にしてもすごいね……京都駅……近未来っぽい……」


 京都駅を見て感激している朱音先輩。

 

「もしかして先輩、京都来たの初めてですか?」


「うん……だからずっと行きたかったんだ……」


「そうなんですか。ちなみに京都駅って駅だけでなく宇宙飛行士訓練センターでもあるんですよ」


「へぇーー……あ! 見てみてゆーくん! 京都タワーだよ」


 俺のマニアックな嘘が華麗にスルーされた。


「それで! それで! どこから行く? まずは清水寺? 金閣寺もいいよね! それとも嵐山?」


 朱音先輩の目がキラキラだ。

 この人、星川が心配と言うのは建前で本音は観光するのが目的だったな。

 ったく……。


「観光は後にして、まず星川を探しますよ」


 そう言い、駅を出て歩き始めると。


「湊ちゃん、探すのはいいけど、どこにいるのかわかるの?」


「え、いや京都にいるから京都に来たんじゃないですか」


「違う違う。京都のどこにいるのかわかるのか聞いてる」


「え?」


「え?」


 お互い顔を見合わせた。

 そういえば京都のどの辺りに実家があるのかスティーシーに聞き忘れたな……。


「うわぁぁぁぁーーー! 京都来た意味ねぇーじゃん!!!」


 京都に着いて10数歩で俺は嘆き始めた。


「ふふふ、ゆーくんはおっちょこちょいだな〜〜」


 不敵に笑う朱音先輩。

 まさかこの人……あえてそのことを言わなかったな……俺と京都に行くために……。

 魔女め……。


「でも、せっかく来たし、観光してこ」


「うーん……」


 星川に会いに来たのに、手がかりがないじゃ会えるものも会えないな。

 なら仕方ない。


「まあ、せっかく来たし、星川捜索も兼ねて……行きますか」


「うん! 京都観光しよう!」


 清水寺


「ここが清水の舞台……ゆーくん落ちてみて」


「普通に死にますよ」


「五接地転回法すれば大丈夫だよ」


「俺、グラップラーじゃないっす!」


 清水寺 地主神社


「ゆーくん、ゆーくん縁結びだって! お参りしていこう」


「は、はー……」


「この石とあっちの石の間を目を瞑って渡れば恋愛成就するらしいよ」


「そうなんすか」


「やってみよう」


「頑張ってください」


「いや、やるのはゆーくんだよ」


「え?」


 突然、目隠しをさせられる。


「何も見えない……」


「よーし、そのまま真っ直ぐ歩いて」


「は、はい」


 あれ、これ俺やるのおかしいよな。

 先輩が俺に好意を持ってるからやるなら先輩だよな……。


 しかしそんなことも言えないのでしぶしぶ俺は歩いた。


「いいよ、そのままそのまま……」


「は、はい……」


 意外と楽勝だな。


「あとちょっと……あストッ……」


「え……イッ!!」


 脛に衝撃が走る。


「いたぁぁぁぁぁぁーー!!!」


 岩が弁慶の泣き所にぶつかり、その場で蹲った。


「ふふ、大丈夫?」


「大丈夫……なわけが……痛い」


「でも、渡り切れてよかったね」


「は、はは……」


 苦笑いで返した。  


「あ、ゆーくんお守り買ってこう」


「え、あ……はい」


 先輩の肩を借りて、近くで売っていたお守りを見る。


「ここは健康祈願のお守り買おう。先輩は?」


 なーんてな。縁結びだし、どうせ恋愛成就のお守りだろ? 全く女子はそういうの好きだよな。恋愛成就なんて神なんかにお願いせず、自分で叶えるのが常考だろ。


「あ、これ下さい」


 しかし、先輩が買ったお守りは恋愛成就ではなく、もっと先をいっていた。


「せ、先輩!?」


 思わず俺は驚愕した。

 先輩が買ったのはなんと、安産祈願のお守りだった。


「せ、せ、せ、先輩? なぜそれを?」


「何でって……できちゃったから……熱海で一緒に泊まった時」


「ウェイ?」


 脳がバグる。

 熱海で泊まった時、そんなイベントあったか? 俺ちゃんと童貞守りぬいたよな?


「忘れちゃったの? ゆーくん。あの夜のこと?」


「な、な、な、何を?」


「ふふふ、無事に産まれるといいね」


そう言い、お腹をさする朱音先輩。

 何もにしてないし、何もされてないはず。

 まさか、世界線移動してきたのか?

 ここは俺が童貞を守れなかった世界線だというのか? 

 怖い怖い怖い。


「え、まじすか?」


 息を飲みながら聞くと、


「ふふふ……なーんてね、冗談」


 先輩は笑いながらカミングアウトした。


「ですよね!!! いやーまじでやめてくださいよーー」


「ごめんごめん、ゆーくんからかうと面白いんだもん」


「それでも、これはめちゃくちゃドキドキしますよ」


「ごめん、ごめん。あ、でもこれ下さい」


 さりげなく朱音先輩は手に持っていた安産のお守りを買った。

 

「あれ、嘘なんじゃ?」


「子供はできてないけど、いつかできるでしょ? だからその時ように」


「あー、なるほど」


 気が早いように思えるが、まあ今後を考えたら買っていても別にいいのか。

 納得していると先輩が俺の耳元で突然囁いた。


「頑張ろうね……"パパ"」


「は!?」


 パパって? パパってなんだ!?


「さあ、次の観光地へゴー!」


 ドキドキした心を持ちながら次の場所へと向かった。


 

 

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