101話 女の子と交わした約束は守る系男子

 スティーシーのバーを出て、俺と朱音先輩は駅のホームを歩いていた。


「京都か……」


 まさかあの東京生まれ東京育ちのスーパー東京人っぽい星川の地元が京の都とは思わなんだ。 

 実家に帰ってるって盆だし、それってただの墓参りとか親戚の集まりに行っただけじゃないのかな……。

 いや、それだったら連絡を返さないのはおかしいな。

 熱海で別れる時も少しおかしかったしな。


 うーん。


「それで、どうするの、ゆーくん。京都行くの?」


 隣を歩く朱音先輩が聞いてきた。


「いやいや、流石に実家まで行くのは迷惑通り越して度が過ぎたストーカーですよ」


「ふーん。それでも気になるんでしょ?」


 俺の本心を読んでいるかのように顔を覗き込まれる。


「確かに気になりますけど……」


「だったら行こうよ。京都」


「そんな簡単に言わないでくださいよ。ここから京都結構遠いですよ。第一休みが合わないでしょ?」


 そう言うと朱音先輩はスマホを手に取り何かを確認し始める。


「うーん、いけるね。来週の火曜日と水曜日ゆーくん休みでしょ? ちょうど来週私も夏休みだから空いてるんだよね」


「え、どうして俺の休みを知っているんですか?」


「いや、だってグループLINEで貼られていたから。ゆーくんのシフト」


「は?」


 朱音先輩のスマホを覗き込むと

"ゆうくんを囲む会"というグループが作られてそこに俺の今月のシフトの写真が貼ってあった。


「何このイカれたグループ!? 俺知らないんすけど!」


「ああ、なんかゆーくんの予定とか知っといたほうがいいなと思って熱海の時みんなで作ったの。みんなフェアにゆーくんと触れ合うためにね。ちなみにシフトは湊ちゃんが送ってくれたよ」


「怖っ!」


 この人らやばいな……俺の予定が管理されているとかもう集団ストーカーやん。


「だから二人で京都行こう!」


「朱音先輩も来るんすか!?」


「うん! 私も湊ちゃんのことは気になるし。それにこれは私とゆーくんが始めた物語でしょ?」


「物語て……」


「よし……そうと決まったら来週に向けて準備だね……! 色々細かな日程はLINEで決めようね! それじゃあ私こっちだから、バイバイ」


 反対意見を言わせまいと朱音先輩が無理矢理、話を決定させた。


「おいおい、マジすか……」


 朱音先輩の去っていく姿を見ながら呟いた。

 その2日、溜めていたアニメを見ながらゲームをしようとしていたのに……また面倒なことになったじゃねぇーか……。


「はぁ……」


 溜息をこぼし、一人電車に乗った。


 まあでも……"星川あいつ"のことが気になるのは本当だしな。

 

 いつかした"約束"も果たさないといけねぇーし……。


 …………………


「先輩って本当にいじりがいがありますよね」


 ある日の仕事中、星川がからかうように俺に言った。


「ははは……よく言われるよ」


 苦笑いで返した。

 反論を言うとさらにボロが出ると思ったからだ。


「でも、なんで俺ばっかりそんなあたり強いんだよ! 俺お前に何かした?」


 そう聞くと星川はクスクスと小さく笑い、


「別に先輩のことが嫌いだからいじってんじゃないですよ。先輩なら何しても最終的に許してくれるから、からかっているだけです。他の人には絶対できませんから」


「俺が女性に強く言えないのを知って利用しやがって……」


「だって吐口がないと人生やっていけないでしょ?」


 まあ、確かに。

 人間という生き物は常に何かしらのストレスを溜めているものだ。

 その吐口を何かしら用意しないといけない。俺の場合は2次元だが、どうやら星川の場合は俺みたいなひ弱な男らしい

 爆買いとか爆食いじゃないだけマシだけど。


「せめて俺だけに留めておけよ。お前の小悪魔モードを他に出しちゃうと大変な目に遭うかもしれないからな」


「大変な目って?」


 即座に聞かれる。

 やばい考えてなかった。


「いや、まあ逆上されたりとかだよ」


「先輩は私に逆上するんですか?」


「いや、俺は紳士だから女に手をあげん」


「そっか、ならいいじゃないですか」


「いいって……」


「だって、私が本心を曝け出すのは先輩の前だけですもん」


「え……?」


 いつもみたいに"先輩Mじゃないですか"とか"先輩、私の奴隷じゃないですか"とかいう台詞を想像したが、全く違う言葉が返ってきた。

 それってつまり……どういうことだ?


「そんなわけないだろ。家族とか友達にも素は出してるだろ」


「いえ……私が素でいられるのは先輩の前だけですよ」


「え?」


 それを言う星川の表情は今思うと少し切なく見えた。


「なーんてね! まあでももし、私がその"大変な目"に遭ったら先輩、助けてに来てくださいね」


 星川がいつもとは違う女の子らしい笑顔を向けて俺に言った。

 その言葉を聞いて、純粋に心がドキッとした。


「あ、ああ! 俺は紳士だからな。小生意気な後輩でも助けてやるよ」


「小生意気って……でも約束ですよ」


「もちろんだ」


 その時、俺は星川と指切りを交わした……。


 …………………


 交わした約束忘れないよ。

 目を閉じ、確かめる。 

 押し寄せた闇振り払って、進むしかないか。


 京都に!!


 俺は京都に行く意思を強く固めた。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る