76話 大学時代という名の人生の夏休み
大学3年目の夏休み……。
この時の俺は酷く追い詰められていた……。
「くっ……」
かつて無い窮地に陥ると人は、保守的な思考を持つことを理解していた。
だがしかし。
「どうしたよ、由、早くしろよ」
このままでは事態を切り抜けることができないことも理解していた。
その常識を飛び越えなくては……一度死地を切り抜けなければ……俺に道はない!!
頼む!!
神に一縷の望みを託す。
「リーチ!!」
点棒を投げた。
通ってくれ!! 六萬ドラ切り 三暗刻 親のリーチ!!!
これで上がれば満貫、いや裏ドラが乗れば跳満もあり得る……逆転のチャンスだ!
しかし……。
「ふふ、ゆーくん。残念、それ……ロン」
現実は非道だった。
「嘘だドンドコドンーー!!」
朱音先輩の上がりにより俺は飛んだ……。
「いやー! それにしても朱音先輩、麻雀鬼強いっすね!」
「ふふ。ゆーくんが危険牌をすぐに切ってくれるおかげだよ」
「なら由が死ぬほど弱いってことですね」
「うるせぇーよ。京也はヤキトリだったくせに」
「あー! 言ったなー!」
「ふふ」
大学生の時はこうしてよく、漫画サークルに行って、京也と朱音先輩達と遊んでいた。
地方から出てきて、誰も知り合いがいなかった俺。初めの方はほぼ一人で毎日いたけど、京也に絡まれて、そして、朱音先輩とサークルに出会っていつしか一人の時間が少なくなっていった。
一人の時間も好きだったが、サークルでの活動も正直、楽しかった。
「ありがとうございます」
「ん? 何が?」
駅近くの公園。お互い電車が来るまでベンチに座り時間を潰してた。
その最中俺は朱音先輩に感謝の言葉を言った。
「初めて会ってAKIRAの話で盛り上がったあの日……朱音先輩が漫画サークルに誘ってくれたおかげで、俺今結構楽しいです」
あまり本音を口にしない俺がこの日はやけに口が達者になっていた。
恐らくそれくらい気持ちが高揚していたからかもしれない。
「そっか。それはよかった。私もゆーくんといると楽しいよ」
「え?」
「だって、ゆーくん見てると飽きないし、話してても楽しいし、何より一緒にいるとすごく落ち着く」
そう朱音先輩は笑顔見せた。
俺はそれを見て思わずドキッとした。
朱音先輩……香乃以外の異性でここまで仲良くなった女性は初めてだった。
それに……恐らく俺が初めて異性として意識した人だったと、今は思う。
みんなといると平気だが、朱音先輩と二人きりになると、心が落ち着かなくなっていた。
美人で、おっとりしていて、マイペースで、そして何より……笑顔が素敵な人だったから……。
これで意識しない方が無理がある。
まあでも、流石に、流石にだ。
身の程を弁えてはいたから、デートに行くとか付き合うとか、馬鹿なことは考えなかった。
あくまで同じサークルで、趣味が合う友達という関係で良かった。というかそれ以上はもう何も望まなかったし、それが俺にとってもベストだった……。
そう、俺は気の合う先輩として朱音先輩のことが好きだったんだ……。
しかし……。
「ゆーくんってさ、彼女いるの?」
「え?」
突然朱音先輩が聞いてきた。
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