55話 わかんない
私には心に決めた人がいた。
幼い頃からずっと一緒に育ってきた幼馴染みの男の子。
いつも何言ってるのかわからなかったけど、でもいつも一緒にいてくれるし、一緒にいてすごく楽しかった!
だからかな……気づいた頃には彼のことがすごく……好きになっていた。
これは仕方ないこと……。
私が彼のことを好きになるのは必然だったんだ……。
だって……私には彼しかいなかったのだ。
父は漁師で船に乗ると1ヶ月帰ってこない。
母は工場の夜勤のパート。
だから家に帰るといつも一人だった。
一人で食べる夜ご飯。
一人で入るお風呂。
一人で眠るふとん。
学校から帰ると孤独感に襲われていた。
子供だった私にはこの孤独感が耐えきれなかった。
だけど……。
「今日もおばさんとおじさんいないんだろ、だったら俺の家に泊まり来いよ、一緒にカ○ジ見ようぜ!」
彼は私に手を差し伸べてくれた。
幼い頃から、ずっと。
雨の日も。
「今日は一緒に限定じゃんけんしようぜ! 負けたらアイス奢りな!」
雪の日も。
「今日はEカードで勝負だ! 次は勝つからな〜〜」
春休みも。
「き、今日はチンチロリンだ! へへ俺の特殊賽で今度こそお前を討つ!!」
夏休みも。
「前回のピンゾロには驚かされたが、次は負けねぇーー!! 次はこの夏自由研究で作ったこの沼パチンコでお前に勝つ!!!!」
クリスマスも。
「メリークリスマス! そして、お前の初の黒星を!! くくく……変則麻雀、17歩で次こそお前に地べたを這いつくばせてやる!!」
正月も。
「ワンポーカー! ワンポーカーで! お前に勝つ!! 勝って掴む! 勝利の未来を!!」
いつも私を楽しませてくれた。
彼の隣が私の居場所だった。
そこにいるだけで幸せだった……それなのに……。
高校の途中から彼は私を見なくなった。
そして、高校卒業したら彼は完全に私のもとから去っていった。
どうして……?
どうして……私、彼に嫌なことしたかな。
嫌われるようなことをしたのかな……。
わからなかった……。
彼の気持ちがわからなかった。
その後も手紙を送って関係を繋ごうとした。
でも彼からの連絡はなかった。
彼の中で私は消えたの…….?
だったら私は本当にもう一人?
いや、諦めない! 諦めたくない!
お金をもっと貯めて、東京に行く!
東京で彼にまた会う!!
会って真意を確かめる!!
会えば、きっと彼はまた私を見てくれる!
私といてくれる……!!
その為だったらなんだってできる!
彼が望む女性にだってなれる!!
私は……彼とまた一緒にいたい!!
それだけだったのに……。
「ごめん……」
そう言い彼はまた私の元から去っていった。
どうして……どうしてなの……。
ゆうちゃん……。
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