11話 一夫多妻は二次元の特権

 お泊まりした夜のこと。


「ねぇ、お試しでもいい。今度はあなたが私も試してもいいから……私と……」


 言いよる彼女。その瞳は真っ直ぐ俺を見ていた。到底からかっているようには見えない真剣な眼差し。それに対し俺は……。


「俺は…………」


 息をゴクリと飲み、彼女の瞳をじっと捉えて告げた。


「異世界転生系とかでよく見る勢いとノリでなんか気づいたらイチャつく恋愛よりも、もっとこう……はじめは意識してなかったけど、徐々に惹かれ合う甘酸っぱくも切ない感動系深夜アニメのような恋愛がしたい! ですので、ごめん……」


 偉く饒舌に言った。

 まだ少し酒が残っていたからか。

 

 この俺の気色の悪いこだわりを聞き、西園寺さんは目を丸くし、そして……。


「ふふ、はははーー!」


 笑った。


「え?」


 ドン引かれるか殴られることを覚悟していた俺にとってこの西園寺さんの反応は意外なものだった。


「やっぱり君って本当に最高だよ」


「また、からかってるのかよ」


「いや、私は本気だったよ……こんなこと軽く言うほど器用な女じゃないからね」


 ふと寂しげな表情を見せる。やはりモデルだな。普通に可愛い。ま、あくまで三次元としてだが。


「ま、振られたらならしゃーない。でも尚のこと君に興味持っちゃったから私と勝負しよう!」


「勝負だと?」


 彼女はニコッと笑って俺を指差す。


「あなたを惚れさせる勝負よ」


 うわーー。少年誌のラブコメ的展開だ……。


「この1年以内にあなたが私に惚れたら私の勝ち。1年経っても私に惚れなかったらあなたの勝ち。どう?」


「どうって……」


「よし! 決まり! それじゃあこれからよろしくね"ゆうくん"」


 有無を言わさず、彼女は電気を消し、俺が寝ていたソファに寝転がった。

 

 何だか面倒なことになったな…………。



…………………………


「ということが昨夜にあったんだ。変な女に目をつけられててーへんなんだよ。ったく……」


 昨日の合コンの始まりから昨夜のことまで全て香乃に話した。

 こういう他人のよかった話ってどうでもいいと聞き流すが、意外にも香乃は真剣に話を聞いてくれていた。


「それは大変だったね。でも、すごいじゃん、その人モデルなんでしょ? そんな人にモテるなんてゆうちゃんやるぅぅ!」


「いや、相手がやばい女だっただけだ」


「だけど断ってよかったの? こんな上手い話はもう早々ないと思うけど」


 オレンジジュースをストローで掻き回しながら香乃が言う。

 俺は小さな溜息をこぼし、香乃に言った。


「別にいいさ。すぐ会った人と付き合うほど、不用心な男じゃない。それに……」


 きっとこんな俺と付き合ったら彼女が可哀想だ。


 そう言おうとしたが、卑屈っぽい言葉はうざいなと思い飲み込んだ。


「ふーん。んで、どうするの? そのモデルの人ゆうちゃんにアタックするって言ってるけど結局ゆうちゃんは付き合うの?」


 こいつ、さっきから俺と西園寺さんについてすごい聞いてくるな。そんな面白いか? 

 まあいいや。


「いやーー俺にはほのかちゃんがいるからなーー」


 そう言った途端、急に背筋が冷たくなった。


「へぇーーそうなんだ……。こんな可愛い彼女いたなんて思わなかったよ。ゆ・う・く・ん!!」


 振り向くとそこには……笑顔を浮かべながらも怒りを露にしている西園寺さんがいた。


 なぜ彼女がここに……?


 修羅場になる予感がした。

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