【短編番外】告白合戦
このお話は、エピローグでお話ししたシーンからほんの数日が経ったある日のお話です。
「そういえば魔王。お前、まだわたしにちゃんと話したことが無かったな」
スミレはふと気になって、魔王に尋ねました。
「?何の話だ?」
「お前の気持ちだ。わたしを城に縛り付けるとは言ったが、ちゃんとした気持ちを、わたしはまだ聞いていないぞ。どうなんだ?」
魔王はスミレがそばに居ることが当たり前になっていたので、言っている意味が分かりませんでした。ですが、少し考えて、そういえばちゃんとはっきりスミレへの想いを言葉にしていなかったことを思い出し、きまり悪そうに顔を背けました。
「……」
スミレはなおも問いつめました。
「このままではなんだかわたしがお前に飼われてるだけみたいだ。口づけを交わしたのだから、そろそろはっきりしてもらいたいんだが」
「……言わずとも、分かっているだろう」
魔王がそう誤摩化しましたが、スミレは納得いきません。
「だ、め、だ!はっきりしてくれ」
しかし、魔王も気づきました。スミレだって、魔王のことを好きだとは一言も言っていないのです。
「そういうお前だって、そばに居るとは言っていたが、まだ一言も本音を言っていないではないか!」
スミレは痛いところを突かれましたが、自分からは言いたくありませんでした。少し考えて、反撃に出ました。
「わたしから言うのでは納得いかん。元はと言えば、先に口づけをしてきたのは貴様だ。貴様が先に言うべきだ」
口調がすっかり喧嘩腰です。
「私は、お前に魔力を与えようと思ってしただけだ。別に深い意図は無かった」
「ならば、わたしのせいだと言いたいのか?貴様はいつもいつも……わたしのせいにばかりするな!」
「スミレが先に言ったら、私も言おう」
「嫌だ!貴様との戦いはいつもわたしが負けている。この件だけは絶対負けたくはない」
この二人はこうやって、お互いを好きだと思いながら喧嘩ばかりしています。そしていつもスミレが何事に於いても負けていました。
「それならば私は言わん。私は忙しい。それではな」
魔王も譲りたくなかったので、新しく村役場となった城の執務室へと足を向けました。
「卑怯者!弱虫!」
スミレは思いつく限りの罵詈雑言をぶつけましたが、戦いは一時休戦となりました。
それから数日が経ったある夜のことです。
スミレは、眠る時は魔王と同じベッドで添い寝をするよう魔王に命令されていたので、魔王の寝室で洗った髪を乾かし、眠る用意をしていました。
ベッドの上でそんな様子をぼうっと眺めていた魔王が、ふと、先日の喧嘩を思い出して、自分の想いを告白しました。
「スミレ」
「ん~?」
「愛しているぞ」
スミレは固まりました。今頃何を言っているのかと。
「何だ急に。気持ち悪い」
先日の喧嘩をすっかり忘れていたスミレは、反射的に魔王を気持ち悪いと思いました。
「……ホラ!ホラな!……やっぱり貴様という奴はそう言うんだ」
それ見たことかと叫び、魔王は顔を覆い、足をばたつかせました。
「ホラって……何の話だ?」
スミレはそういって、はたと思い当たり、先日の喧嘩のことかと気づきました。
「まさか、この前の喧嘩のことか!え?え?なんだ、もう一回言ってくれ!」
スミレが嬉々としてベッドにやってきたので、魔王は膝を抱え、膝の間に顔を埋めて丸くなりました。鉄壁の防御です。
「知らん。二度は言わん。気持ち悪いんだろう!?」
「悪かった悪かった。何のことか分からなかったんだ。すまん。謝るからもう一回言ってくれ。な?」
アルマジロのように丸くなった魔王をごろごろ転がして、スミレがなだめます。しかし魔王は防御を解きません。
「今度はスミレの番だ。私は二度と言わぬ」
スミレは降参しました。何より魔王が先に言ってくれたのは確かなので、この戦いはスミレの勝ちに思えました。とんでもない奇襲攻撃をくらいましたが。
「じゃあ言う。魔王、わたしもお前が好きだ」
「レベルが違う。もう一回」
「う~~~……。お前を愛している!」
スミレがそこまで言うと、魔王はようやく防御形態を解きました。
「私の勝ちだな」
真面目な顔で魔王がそう言うと、スミレはまた、たちまち怒りだしました。
「違う!わたしの勝ちだろう!」
「お前は奇襲攻撃に負けたのだ」
「先に言ったほうが負けだ。奇襲であれ、先に言ったほうが負けだ」
魔王は、本当は勝ち負けなどどうでもよかったのですが、むきになって食って掛かってくるスミレの反応が面白かったので、勝ちを主張し続けました。
「敗戦国には、もう一回言ってもらわなくてはな」
「わたしは負けていない!わたしだって二度というもんか!」
「お前は負けだ~」
「貴様はいつも奇襲攻撃ばかりだ!」
ガミガミと噛み付くスミレが可愛くなって、魔王はスミレに覆いかぶさり、体を押さえつけました。
そこからはまたいつもの取っ組み合いの喧嘩が始まりました。魔王は実力を出しません。全力で立ち向かってくるスミレと戯れているだけです。
こうやって、結局スミレは魔王の掌の上で踊らされるのです。
せっかく仲がいいのですから、もっと落ち着いて仲良くすればいいのに。全く子供ですね。
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